喫茶店
場数を踏んで、文章書くのをうまくなろう
と言う感じで、マジ思いつきで書きました。
飄々と流れる時間を感じていただけたら幸いです。
「いらっしゃいませ。おや?見ない顔ですね、お客さん、ここ来るのは初めて?」
私はあなたにそう聞いた。駅から少し離れた線路沿いの喫茶店。
新規のお客さんが来ることは、そう多くなかったので、私は声をかけたのだ。
「そうです。駅に入っている雑貨屋で買い物をしてきたんですが、来るときに電車でこの店を見かけたもので。」
と、あなたは言う。
「それは、わざわざどうも。コーヒーでも淹れましょうか?」
私が手がける店は、周囲の新しい平面的な建築とは一線を画する、近代的な煉瓦造りだった。
あなたはその雰囲気を一目見て気に入り、この店まで歩いてきたのだろう。
「お願いします。」
短くあなたは返事した。
私は、定年してこの店を開いたのだが、それ以来ここを訪れる常連客は、皆私と同じくらいの年齢だったから、二十代後半と見えるあなたのようなお客さんが来るのは、自分にとってかなり新鮮だった。
私の喫茶店は、昼下がりの陽光を小さな窓から少しだけ室内にとりいれる。
その分、外とは対照的に仄暗く、欅の木が用いられた内装に、梁や天井から吊り下げられたオイルランプの橙色の光が揺らぎながら当たって、空間に奥深さを与える。
私は、あなたの好みに合いそうな、マンデリンを棚から取り出して、ハイローストに焙煎していく。
焙煎の間、あなたは、経済新聞を広げて読んでいた。
近頃の若者は新聞を読まん、と言う老人特有の偏見を少なからず持っていた私は、あなたの勤勉さを見たのだ。
お互いに語るでもなく、漫然とした時間の中で過ごすのには、確かにこの空間は最適である。
焙煎によって、コーヒーの香りが店内に充満していく。
私にとって、これは至福のひと時だ。
中挽きにグラインドした豆をペーパードリップする。
いよいよ出来上がる一杯には、私のこだわりが詰まっている。
「はい、どうぞ。」
「どうも。」
あなたは、新聞から私へと視線を移し、ティーカップハンドルに人差し指をかける。
慣れたことのようで、一連の動作はスムーズだった。
私は、あなたに年齢不相応なまでの落ち着きを感じていた。
しかし、私はそのことをあなたに言おうとも思わない。それが私のやり方だ。
そしてまた、あなたは新聞に目線をおろして、コーヒーを一口づつ飲んでいった。
しばらくして、飲み終わると、
「ごちそうさま。美味しかったですよ。」
と、あなたは言って、席を立った。
「ありがとう。それにしても、君はずいぶん大人びてるね。」
客が店を出るときに、一声かけるのも、私のルーティーンだった。
あなたは500円玉を私の手のひらに置くと、新聞を畳み、店を後にする。
「あ、お客さん。ここ、一杯400円なんだよ。」
お釣りを渡すよりも早く、あなたは、行ってしまった。
渋い客も来るものだ。
私は今日も店に立つ。