鬼の提案
「地獄から出たくない?」
少女の言葉に理解出来なかった。
少女の言葉の意味が理解出来なかったのではない、少女がなぜこのタイミングでその言葉を使うのかが分からなかったのだ。
「どういう意味だ?」
少女は眉一つ変えずに言った。
「そのままの意味だよ。柊、あなたはなにもやってないのに地獄に来たんでしょ?なら……」
言葉が言い終わる前に俺は少女が何を言いたいのか分かった。
なにもやってないなら地獄にいることはない。
だから、地獄から出ようと言おうしていることはわかったが、
「なんで、あんたが俺を地獄から出してくれようとするんだ?」
「私の目的に役に立つから」
「どういう……」
俺の言葉は最後まで言うことは出来なかった。
少女の言葉に遮られたからだ。
「今はそれを言うことは出来ない」
それはそうだ。今の俺は、敵なのだなら情報を与えるリスクを考えると言えない情報だって出てきても何ら不思議でもないと勝手に納得した。
それにまだ俺は少女の名前すら知らない。そうこれが少女が俺をそれだけ信用出来ないということなのだろう。
この少女は俺を地獄から出すことによって何らかの利益を得ることができるということくらいしか今の俺には考えられなかった。
俺は少しばかり動揺していた、だから一度深呼吸をして落ち着くことにした。「ふぅー」と息を吸い込み、「はぁー」息を吐き出した。気休め程度だが少しは落ち着くことは出来た。
「分かった、今は全部言わなくてもいいよ。けど、俺を地獄からだしてくれるんだよな?」
首を縦にふり頷き言った。
「それが私のためにもなるから」
「あと、うまくいったら、付き合ってくれるんだろ?」
「はぁ!?なに言ってるの、お断りです。」
俺はどさくさに紛れて承諾してもらおうと言う姑息な手段は案の定通じなかったが俺は死者だ死んでる俺にはプライドなんて下らないものはない。
だから、何度でも何度でもいってやる。
「やっぱ、だめかぁ」
「……」
無言で少女は睨み付けていた。その表情からは『鬱陶しい失せろ』と言われているような感じがした。
少女は足を振り上げて俺の頭上ぎりぎり当たるか当たらないかの所に置くと忠告してきた。
「本当にやめてくれる?」
俺はただ頷くことしか出来なかった。
少女はそういう時は俺の頭上から足を戻した。
今のでたぶん思い切り嫌われてしまった、というか敵なのだから好き嫌いもないのだが。
いきなり少女はジャンプして岩山の天辺に登り辺りを見渡した。
辺りになにも変わっていないことを確認すると岩山から飛び降りて俺の前にきた。
「辺りには死者と鬼はいないみたい」
「いるとなんか悪いのか?」
少女は頷き答えた。
「今柊と私が一緒のところを見られるのは出来るだけ避けたい。これからの行動の支障になるから」
「分かったって言いたいけど、このまま一緒だといつかは誰かしらにみれてしまうだろ?」
「だから、場所を変えようと思う」
「変えようって何処に変える気だよ。俺は地獄のこと何にも知られねぇーけどさ、こんな荒れているところに隠れる場所があるとは思えないな」
この岩山だって隠れるには全く適していないのだ。近くにきて見てみれば誰がいると分かってしまう。
だから、今も誰かに見られてはいけないのならばこの場所を一刻も早く移動しなければならない。だか、しかし移動中が最も誰かと遭遇してしまう確率が高いのだ。
さっきも言ったがこの地獄に絶対に見つからない隠れ場所なんてあるとは到底思えないない。
少女はそれに関しては全く心配している様子はなかった。
少女はその件に関してもう解決したも同然のようだった。
少女は言った。
「その心配なら大丈夫。私の家に来ればいいよ、私の家なら絶対に死者には見つからないし私と同じ鬼も絶対って訳ではないけど来ないから柊が見つかる心配はないに等しい」
それは安心した。
それなら今すぐに少女の家に行ったほうがいい。
俺は嬉しかった。
まさか少女の家に行けるなんて、つい想像してしまう。
かわいらしい部屋を想像していると少女はあきれたようすだった。
「私の家で好き勝手したら殺す」
それは脅しではなかった。
その証拠に少女は拳を強く握りしめているのが分かった。
これ以上は命|(死んでいるから命なんてないのだが)が危ういと変なことを言うのをやめることにした。
俺は今度は真面目な話をした。
「あんたのここでも説明は不十分だからあんたの家着いたらちゃんと説明してもらうからな」
「分かった」
少女も俺が真剣な話をすると少女も真剣に返してくれた。
少女はローブに着いているフードをかぶり俺の腕をつかむと声を低くして言った。
「今から私の家まで行くけど柊の体ちょっと壊れるかもしれないけど我慢して」
俺は意味が分かず「えっ?」と答えるのがやっとだった。
少女は俺の腕をつかんだまま走り出した。
そのスピード尋常なものでなく正面から受ける風圧に俺の体は耐えきれなくて骨がおれる音が聞こえたが少女はそんな事お構いなしいもっとスピードを上げた。
俺の体はどんな傷だろうとすぐに治るのだが心の傷までは治らない。
何が言いたいかと言うと少女が起こす風圧のせいで俺の骨は折れてはくっつくの繰り返しで俺の心にどんどんトラウマが刻まれていく。
「ああああああああああああああ!」
と俺は悲鳴を出しながら少女が足を止めるまで何とか踏ん張った。
少女が足を止めた所を見渡すがやはりそこは何もなかった。
あるのはひびが割れている地面だけだった。
なぜこんな所で足を止めるのかわからなかった。
「家にいかないのか?」
「ほらあそこに見えるでしょ」
と指をさされて、さされた方をよく見てみるとそこには洞窟が見えた。
俺は希望をもって聞いてみた。
「あれがあんたの家だなんて言わないよな?」
「いやだからあそこが私の家だって」
きっぱりと言われてしまった。
俺が思い描いていた家とは違った。
こんなに可愛い少女の家だから、レンガでできた家に住んでいるのかなぁと勝手な想像をしていた。
少しいや物凄く俺はがっかりした。
「でも、何で家の目の前じゃないところで足を止めたんだ?」
「そのまま家に突っ込んだかもしれないから」
なるほどと俺は納得した。
それと同時に俺はやはり鬼はデタラメな存在だと思った。
そして俺達は少女の家まで歩いていった。