ようこそ地獄へ
俺は死んだ。
簡単に大型トラックに引かれて呆気なく死んだ。
俺は魂だけの存在となりあの世の死者の列に並んでいた。
何で並んでいるかというといまから地獄行きか極楽行きかを決めるためだ。
俺が死んでから驚いたのが鬼があの世にいたことだ。
鬼といっても顔が赤くもないし青くもない。普通の人間の姿をしていたが、ただ一つ二本の立派な角が頭の上にあった。
今の俺は青白い魂。
道を歩いていや浮いてただ漂っているだけだった。
魂というのは何かと動くのが不憫だ。
そんな事をしていると俺の地獄行きか極楽の審査がやって来た。
ちなみに魂になっても話すことはできる。まぁ、それ以外はほとんど出来ないのだが。
「おい、そこの魂早く閻魔様の元へ行け!」
「……」
俺は返事はしなかったが出来るだけ早く閻魔の元へ行ってやった。
行くと閻魔はこれまた俺達が想像するような姿をしていなかった。
閻魔は黒色のスーツに金髪に青い目の見た目がチャラ男だった。
「ではこれから審査に入ります」
チャラ男の閻魔の癖に言葉遣いが丁寧だったことに驚いたが一様偉いので当然かとすぐ勝手に納得した。
閻魔は本を取り出すとページをぱらぱらと巡り探していたページを見つけると俺の方を見て話を始めた。
「えっーと、柊 一で合っていますね?」
「はい」
「では、審査を始めます。貴方は人を殺したので地獄行きです」
今、閻魔は地獄行きといったのか?
いや、その前に人殺しだって?
俺は人を殺していない。それなのにどうして人殺し扱いされているのかまったく理解出来ない。
俺は混乱した。
「俺は人殺しをやっていない!」
俺は声を上げて閻魔に言い放ったが、それ無意味だった。
一人の男の鬼が魂の俺を右手でついに掴むと閻魔に言った。
「閻魔様、このまま地獄に落としてもいいですか?」
「お願いします」
そう許可をとると鬼はそのまま赤い門まで歩いていった。
俺は必死に叫んだ。
「俺はそんな事やっていない!」
それを聞いた鬼は言った。
「閻魔様が間違うわけないだろう」
と右手の握力が上がり俺を握りつぶしてしまわないかという恐怖に襲われて何も言うことはできなくなってしまった。
赤い門の前まで来ると鬼から説明してきた。
「これから、お前は地獄に行く。地獄では永遠の絶望と苦痛が約束されている。地獄に行けば肉体は戻る。なぜなら苦痛を味わうためだ。」
そう一方的な説明をされたが、俺は決して納得なんて出来るはずがない。
なぜ、なにもしていない俺が地獄で絶望と苦痛を味なければならいのか。
そんなことは絶対に間違っている。
だから、もう一度いや何度でも言う。
「俺は人殺しなんてやっていない。閻魔の間違いだー!」
声を大きくして必死に言ったがそれを聞く耳を持つものなんていなかった。
鬼はそのまま俺を門の中に投げ込んだ。
俺は勢いよく門の中に入ると暗い空間を抜けそのまま硬い地面に叩きつけられた。
俺は地面から立ち上がると驚愕した。なぜなら、魂だった俺は肉体が元通りになっていた。
事故にあったときに来ていた黒のブレザーの制服に黒髪黒目になっていた。
辺りを見ると枯れた木が何本かあるがそれ以外は何もなかった。
地面は水が無いことからひび割れており、空は灰色で周りは暗かった。
俺はしばらく歩いてみることにした。
歩いていると岩山がたくさんある場所まできた。
ここが本当に地獄なのか疑いたくなる。
確かにこんな何もないところに永遠にいることを考えると絶望がわいてくるがそれでも苦痛はあまりない。
それに地獄と言えば針の山、血の池などがあると前にテレビで見たようなないような気がする。
まぁ、所詮は人間が考えたことだからな。と自分に言い聞かせた。
岩山を見てみるとどこも変わっているところはないように思えた。次に岩山をさわってみたがやはり変なところは感じられなかった。
結局のところただの岩山だ。
ただ呆然と立っていると目の前の岩山が突如砕け散った。
砕け散った跡から砂ぼこりと共に姿を現したのは黒のローブをきた者だった。
俺の目の前にやって来ると拳を握りしめていきなり殴りかかってきた。
なんとか俺は交わした。
俺はローブの者を睨み付けた。
「いきなりなんだよ!」
声を上げて怒りをあらわにするがローブの者はそんなのお構い無く無言で殴りかかってきた。
俺は今度も交わそうとするがそんなに都合よくいかずに殴られてしまった。
思い切り腹部に拳がはいり地面に膝をつき倒れ、口から吐血した。
だか、俺は死者だ。
すぐに殴られた腹部のダメージが消え、何事もなったかのように立ち上がることが出来た。
だか、俺が回復するとまたローブの者は殴りかかってきた。そして、また腹部を殴られ地面に膝をつき倒れ口から吐血した。
そのあとはその繰り返しだった。
回復してはまた殺られるの繰り返しで俺の心は俺かかっていた。
俺は恐怖でガダガタと足が震えてその場を動くことが出来なくなっていた。
どんなに体が治ろうとも傷ついた心を治すのは容易ではない。
何十発殴られたことだろうか、途中から考えることが馬鹿らしくなり数えなくなっていた。
あのときの鬼の言葉をやっと理解した。
これから、いや今味わっている苦痛と絶望を永遠に味なわなければならないことを。考えるだけで……。
ローブの者はフードを脱ぐと初めて顔をあらわにした。
その姿は美しかった。
その美貌からは暴力をふるうようには決して見えなかった。
栗色のミディアムの髪型に紺碧色の瞳をした少女だった。
顔を見た瞬間時が止まってしまったのか俺は指一つ動かすことが出来なかった。
俺は顔を赤くして言った。
「あの、俺と付き合って下さい」