第3話 ハハノアイ
「ごめんなさい母上。また転んでズボンを破ってしまいました」
ズボンの膝を掴みながら、小さな少年はベッドに横たわる母親の元へと駆け寄って行った。
「あらあら、また転んだのね。相変わらずライズは元気でそそっかしいのやら」
母親はフフッと笑いながら少年の頭を撫でた。
「何度もごめんなさぁい」
少年はうつむきながらズボンをより一層ギュッと掴んだ。
「膝から血が出てるじゃないの。ちょっと待ってなさい、今消毒してあげますから」
母親はゆっくりとベッドから立ち上がり、大きな引き出しの上から三段目を開けて消毒に使う薬草を取り出した。
「消毒は染みるからから嫌だよぉ。母上はすごい魔法使いなのにどうしてあまり魔法を使わないのですか?」
母親は再びフフッと笑うと、少年の頬を両手で包むようにしてこう言った。
「魔法はね便利だけど万能じゃないのよ。第一、みんながみんな魔法を使えるわけじゃないのだから自分達だけたくさん使うのはズルいでしょ?魔法はなるべく使わず、本当に困ったなって思った時だけ使えばいいの。分かったライズ?」
「…僕にはまだよく分からないみたいです」
少年は頬に置かれた母親の手に自分の手を当てて首を横に振った。
「きっと、ライズにもそのうち分かる時が来るわ。それまで一生懸命遊んで、魔法の勉強をしなさい」
「分かりました母上。ライズはいっぱい遊ぶことにします」
先ほどとは違い、首を横ではなく縦に二回ほど振った。
「魔法の勉強もちゃんとしなさぁい」
母親は少年の頬をウリウリと上下左右に動かした。
餅のように真っ白い肌がもちもちしながら下がっていた口角を上げた。
「や、やめて下さいよぉ母上。僕はこれから弟達と遊ぶ約束があるので失礼させてもらいます」
母親の手を払い、ペコリと一礼して扉の方へと走って行った。
「あ、ちょっと待ちなさいライズ。お母さんからプレゼントがあるの」
母親はベッドに戻り、少年に対して手招きをした。
「僕にプレゼントですか?」
キョトンとしながら母親の方へと寄っていく。
「もっと近くに来なさい。届かないでしょ」
少年は再び近寄り、ベッドに腰をかけた。
「じっとしててね。これで…くっつけ‼︎まぁ!サイズもぴったりだわ‼︎」
「母上これは?」
少年は首に下げられたネックレスを触りながら不思議そうな顔をしている。
よく見ると小さくて透明なひし形をした結晶の中に、光り輝く青色の結晶が入っていた。
「これはお母さんお手製のネックレスよ。これを付けていればもう転んでも怪我をしないわ」
少年を抱きかかえ、体を起き上がり小法師のように左右に揺らした。
「これも魔法の一種が込められているのでしょうか?」
母親を見上げながら時々首元で綺麗に輝くネックレスを見つめた。
「魔法…普通の魔法とはちょっと違うわ。込められているのは母の…ライズに対するお母さんの愛情よ」
「それは魔法よりも凄いのですか?強いのですか?」
「もちろん‼︎これはどんな魔法よりも凄くて、どんな魔法よりも強いのよ‼︎」
「それなら僕は無敵ですね母上‼︎早速父上や弟たちに見せてきたいとおもーーーー
「ーーーみ様!起きて下さい神様‼︎宿の方が呼んでますよ!」
「ウゥ…」
激しく体が左右に揺られ、昨日食べたキラキラしたもの達が腹の中でかき混ぜられる。
キラキラしたものを口からキラキラしそうだ。
「ちょ、クレア。それ以上揺らすな」
「やっと起きましたか。外は相変わらず朝も騒がしいですよ神様」
カーテンを一気に開き、太陽の光が部屋中を明るくする。
「まぶしっ!溶けてしまう〜」
手で光を遮り、体にかけていた毛布を頭に被った。
「ふざけてないで早く起きて下さい。宿の人も待っていますよ」
「おはようございますライズさーん。昨晩はよく眠れましたかー?」
ガチャ
「おはよウプッ‼︎…ございます」
口に手を当てながらキラキラするのを必死に抑えた。
「昨晩はお楽しみ…とはいかなかった、ようですね」
「なんのことやら」
まったく余計なことをしやがって。
クレアをそういう目で見るんじゃない!
「ところで今日のご予定は」
「ん?そうだなぁ…とりあえずお金がないのでどこか組合にでも行こうかと」
「そのお金で今夜も泊まっていただけると。ありがとうございます」
「んなわけあるかぁ!チェックアウトだチェックアウト。寝心地はよかったが俺らには高すぎる!」
「そうですか。それは大変残念ですね。部屋のものは持ち帰らないようにご注意くださいね。それでは失礼します」
バタン
誰がこんな大きなもの持っていくか!
どれもこれもデカすぎるだろ。
いや、毛布くらいなら…
「準備終わったかクレア」
振り返るとそこには必死に二人分の毛布をリュックに詰め込むクレアの姿が。
「待て待てぇ!ダメだろクレアそれは‼︎」
急いでリュックに半分以上取り込まれている毛布をつかんだ。
「え?ダメなんですか?」
話を聞いていなかったのかこいつは。
「どうやらダメらしい。さっき念を押された」
「せっかくいい毛布に出会えたと思ったのに。さよならです毛布さん」
毛布さんって…
「改めて、準備できたか‼︎」
「準備オーケーです神様‼︎」
「それじゃあ行くぞ!」
「ご来店ありがとうございました。またご縁がありましたらご利用ください。行ってらっしゃいませ」
「国王にでもなったら来てやるよ」
「その時は国王プライスでお待ちしております」
「ハハッ‼︎どんだけ取る気だよ」
「いらっしゃいませぇ‼︎」
俺とクレアはグリンドラで一番大きいマジックアイテムのお店を訪れた。
手持ちのアイテムを売って、少しでも旅の資金に変えるためだ。
財布は空っぽで、薬草一つ買うお金が無い状態。
早速クレアのリュックからいくつか売れそうなものを取り出して机の上においた。
「これっていくらで売れますか?」
「ほぉう、飛竜の爪にトビカラキノコか!随分珍しものを持ってるじゃないか。特に飛竜の爪の方はなかなか大きくて状態もいい。こりゃ、長引かせずに瞬殺ってとこかな」
そこまで見抜くとは、このおっさんなかなかいい目を持っている。
他のお店にしなくてよかった。
「どれくらいで売れますかねぇ」
「そうだな…4000コロくらいだな。爪はいいがキノコが少しばかり小さい。もう少し待って大きければ5000コロは行ってたな」
「4000コロか…」
この後いろいろ買って行くつもりだから、8000コロは欲しいところだなぁ。
他の町だとここまで高くは売れないだろうし。
再びクレアのリュックからものを取り出し、机の上においた。
「これをつけたらどうですか」
赤い血がたっぷりと入った大きめの瓶。
蓋をきっちり閉めても熱気が漏れ出している。
「こっ、これは‼︎飛竜の血液!倒すとすごい勢いで血が溢れあっという間に地面に落ちるのでなかなか回収しにくいと噂の」
「これならどうですか。8000コロくらいは行きますか?」
「9000…いや、合わせて12000コロで買い取ろう‼︎」
そんな高かったのか。
なら、後二本くらい回収しておけばよかったかな。
「売ります‼︎」
俺はおっちゃんと手をガシッと握り合った。
「えっと、次は…」
広い店内を見渡す。
生活雑貨から武器の類まで、なんでもあるのかここは。
「あった。すいません。お願いしてもいいですか」
「はい。いらしゃいませ。一回1000コロになりますが、一回でよろしいですか?」
平たい石版が置かれた机と真っさらな紙を持った受付のお姉さん。
「二回お願いします」
「分かりました。それでは準備しますのでお待ちください」
お金を手渡すと、石版の上に丁寧に紙を置き始めた。
「神様。これは何をするものなのですか?」
クレアが不思議そうな顔で、俺の服を引っ張った。
「これはな、自分のステータスを測るマジックアイテムだ。今から俺がやるからよく見てろよ」
俺は石版の上に置かれた紙に右手を置き、右手に意識を集めた。
石版が青く光り、紙にうっすらと文字が刻まれていく。
「はい!終わりましたよ。こちらがあなたのステータスになります」
紙を見て、驚いた顔をしながら俺に手渡した。
「とても素晴らしいステータスですね!ここまでのものは一年に一度見るか見ないかです」
俺は手渡された紙を見た。
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ステータス
○体力値 B
○攻撃値 B
○防御値 EX
○知力値 S
○魔力量 S
装備
○立派な黒いコート スキル なし
○綺麗なシャツ スキル なし
○破れないズボン スキル 不壊
○お手製のネックレス スキル ハハノアイ
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「ほぉう、まあまあだな。昔より、随分良くなってる」
「さすがです神様‼︎五個のうち三つもすごいのがあります!」
すごいキラキラして目で俺のことを見つめている。
しかもピョンピョン跳ねながら。
「さぁ、次はクレアの番だぞ」
「クレアも神様みたいにすごいのあるでしょうか!」
「多分、一つくらいはすごいのあると思うぞ。まずは紙の上に手をおいて、右手に集中する」
クレアは机の上に手が届かないので、俺が抱っこしながら右手を紙の上に乗せてあげた 。
「しゅ…集中」
石版が青く光り、文字が刻まれた。
「はい、できましたよ〜。…そ、そんな!」
またもや、紙を見て驚くお姉さん。
俺はクレアを凝視しているお姉さんから紙を受け取った。
「やっぱりか…」
「どうでしたか神様。クレアにも見せてください!」
「ほらよ」
必死に紙を覗こうとしているクレアに紙を渡した。
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ステータス
○体力値 D
○攻撃値 D
○防御値 D
○知力値 D
○魔力量 SSS
装備
○白くて丸い帽子 スキル なし
○モコモコした服 スキル 火耐性+3
○上品なスカート スキル なし
○白いストッキング スキル なし
○大きめのリュック スキル 軽量化
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「Dばっかり‼︎全然だめだめですー!どうしましょう神様‼︎」
「いや、十分すぎるくらい十分だろ。よく見ろ」
その服火耐性ついてたのか…
「一つしかいいのがありません‼︎」
俺のを先に見たからなのか、すごく泣きそうな顔で俺の服を引っ張ってくる。
お姉さんの顔を見ろ。
あれが普通の人の反応だ。
驚きすぎて、少しばかり石版を疑い始めてすらいる。
「個数で見るな!クレアは魔力量が俺よりも多いんだよ!」
「ふぇ?神様よりもですか⁇」
「そうだ!お前はきっとすごい魔法使いになる。俺が保証しよう」
「ほ、ほんとですか‼︎クレアも神様になれますか⁉︎」
引っ張っていた服から手を離し、笑顔が戻り始めた。
握られすぎて、服が少し伸びてしまった。
「か、神様は無理かなぁ。どうだろうなぁ」
何度も言うが俺は神様なんかじゃないしな。
「そうですか…」
これだけのステータスを叩き出して、なぜ残念そうなんだ。
「おっ!そこの嬢ちゃん、珍しいの持ってんねぇ」
武器屋を担当してるおっちゃんがクレアに話しかけた。
「これですか?」
そう言って、クレアは手に持っていた魔導書を見えるように高く持ち上げた。
「しっかりとした魔導書を見るのは久しぶりだよ。お嬢ちゃんどっかの貴族のもんかい」
「これは神様から貰いました!」
嬉しそうに返事を返す。
「神様…?そいつはおもしれぇや!魔法使いはそれくらいビッグじゃなくちゃな‼︎」
机を叩きながら上機嫌で笑っているおっちゃん。
「嘘じゃないです!ほんとです‼︎」
人前で言われると恥ずかしいなぁ。
「ね、神様‼︎」
こっちを見るなこっちを。
「そこのにいちゃんが神様かい!これまたおもしれぇな‼︎」
「だから、本当ですってば!神様もなんか言ってやってください」
何と言うむちゃぶり⁉︎
「ははは、どうも…神様です」
周りの客も一斉にこちらを振り返った。
だが、誰も一言も発することは無かった。
クソがぁぁーーー‼︎
恥ずかしすぎて、今すぐ転移魔法を使いたい。
「ハハハハハハッ‼︎これ以上笑ったら腹つっちまうよ。どこかの旅芸人かい?ブフッ!なんか買っていくか、ここまで笑わしてくれたんだとびきり安くするぜ」
「神様この人すごく失礼です‼︎」
クレアも、頼むからもうやめてくれぇー‼︎
「すまんすまん。悪かった。で、これなんてどうだ。飛行魔法の魔導書何だが、旅にはもってこいだぞ」
棚に並べられた紙を一枚掴んだ。
「神様。これは何ですか?」
「これは魔導書の一部だ。本来魔法は魔導書に書かれた物語を読み上げることで、魔法を発動することができる。だが、魔導書はとても貴重なもので入手はとても困難なんだ。そこで、威力は落ちるが魔導書の一部を写して誰でも使えるように販売している」
「なら、必要ないですね。クレアは神様から貰った魔導書があるので」
店の中できっぱりと凄いことを言うクレア。
「まぁ、そうだな」
おっちゃんの顔にシワがよる。
「なんでぇ。冷やかしなら他所でやってくれ。こんなとこでイチャつきやがって」
唐突な逆ギレ。
自分から喋りかけといて失礼なやつだ。
「そんな、イチャついてるだなんて。クレア照れちゃいますー」
モジモジしながら俺の方を見ている。
お前もどうした急に。
何か魔法でもかけられたんじゃないか。
「何を言ってるんだ。どう考えても彼氏彼女には見えないだろ。第一、歳を考えろ歳を」
「なっ、神様のバカー‼︎クレアは傷つきました!神様のことなんてもう知りません‼︎」
クレアは泣きながら走って店を出て行ってしまった。
「ま、待てクレア‼︎どこに行くっ‼︎」
ドンッ‼︎
「すいません!あの、通してください‼︎」
クレアを追いかけようにも人混みが邪魔でなかなか前に進めない。
やっとのことで店を出たが、もうクレアの姿は無かった。
「クソっ‼︎どこだクレア!返事をしてくれ‼︎」
走りながら一生懸命クレアを探した。
まだそんなに経ってないから、遠くには行ってないはずだ。
どこだ。
どこに行った‼︎
目の前に白い帽子を被った女の子が。
「クレア‼︎」
肩を掴み顔を見ると、全く別人だった。
違う‼︎
「ごめん。どこだ…クソッ!クレアァァァ‼︎」
「…すけて‼︎」
今、どこかでクレアの声がした。
どこだ!どっちの方角からだ‼︎
一生懸命耳をすます。
周りの音が邪魔で、方角が全く分からない。
「スゥゥゥゥ…」
勢いよく息を吸い込んだ。
これに賭ける!
「お前ら、ダマレェェェェェ‼︎‼︎‼︎」
声は辺りを響き渡り、全ての人の行動が止まった。
そして、一瞬だけ静まり返った。
ほんの一瞬。
ただ、一人を除いては。
「その魔導書をよこせ!」
必死に魔導書を奪おうと引っ張る男。
「これは神様から貰った大事なものなんです。渡せません!」
それに抵抗するクレア。
「早くしろっ!」
「助けて…助けてください。神様ぁぁぁ‼︎‼︎」
「よこさないなら力ずくでも…」
腰のあたりからナイフを取り出す男。
タッ… タタタッ!タタタタタッ‼︎
「クレアから離れろぉぉぉ‼︎」
「ゔぁくふっ‼︎」
強烈な一撃が男の顔に直撃し、露店の方まで吹っ飛ばされた。
「俺の娘に何をする‼︎」
「神様…」
俺のところに駆け寄ってくる。
「どこ行ってんだよクレア。勝手にどっかに行くな!」
「神様…娘って何ですか‼︎」
「えっ!そこ⁉︎今のこの流れでそこ⁉︎︎︎︎︎︎︎」
「そんなことどうでもいいんです!何で娘なんですか‼︎」
助けに来たのにまさかの説教。
こいつはきっとビックになる。
「俺が親代わりじゃダメか?」
「ハァ、しょうがないですね。今はそう言うことで許してあげましょう。…助けに来てくれて、ありがとうございます神様」
「当たり前だろ」
「おい‼︎よくもオイラの仲間に手を出してくれたなぁ」
いつの間にか前にガラの悪い男が三人集まっていた。
さっきのやつ仲間がいたのか。
店の中ですでにマークされて…
「その魔導書をおとなしく渡してもらおうか。ケガをしたく無かったらな!」
「お前たちが先に手を出したんだろ。渡すものか!ここから消え去れ」
「オイラはしっかり忠告したからな」
男たちはポケットから紙を取り出した。
「行くぞやろうども!」
「「「おうよ」」」
「写しの書より『 大雨の降る中、森で一番大きな大樹に閃光が走った』雷よ!敵を貫け!」
写しの魔導書が一斉に光り出した。
「クレア!俺の後ろに隠れろ‼︎」
クレアは急いで俺の後ろに下がり、本をギュッと両手で抱きしめた。
「死にやがれ!」
ピカッ‼︎
三本の光が俺をめがけて放たれた。
光はあっという間に俺を体を貫き、黒い煙をあげた。
「キャー‼︎」
周りの人が巻き込まれないように、一斉に離れた。
「ハハッ!ザマァ見やがれ。魔導書も持ってないやつが調子にのるから」
「のるからなんだって?」
「な、何で俺たちの攻撃をまともに食らったのに立ってやがる‼︎」
「そんなの決まってんだろ。俺は神様らしいからな‼︎」
上半身はボロボロに服が破けているが、ズボンは一切汚れておらず、同様に体には傷一つ無い。
シャツが破け、首には青く輝くネックレスが姿を出していた。
「ふ、ふざけんな!そんなの信じるわけねぇだろ‼︎お前らもう一度だ」
「写しの書より『大雨の降る中、森で一番大きな大樹に閃光が走った』雷よ!今度こそあいつを貫け‼︎」
ピカッ‼︎
再び目を覆うほどの光が一斉に俺を貫いた。
「だから、効かねぇって言ってるだろ」
先ほどの様子と一切変化が無い。
「流石です神様!」
「んなバカな!ふざけんなふざけんな!ふざけんな‼︎」
三人は魔法を諦め、ナイフに持ち替えた。
「こねぇのか…」
三人は少し腰が引けながらも、ナイフをこちらに向け続ける。
「ゴクリッ」
周りの誰もがこの緊迫した雰囲気に唾を飲んだ。
…
誰も動かずに緊張だけが伝わってくる。
…
「ゴクリッ」
再び唾を飲んだがお互い見合ったまま一歩も動かない。
「なぁ」
先に口を開いたのは俺だった。
三人は思わずピクリと体が動いた。
「ゴクリッ」
ついに動き出した目の前の光景に、より一層緊張が高まる。
「なぁ、クレア。あいつら倒してくんね?」
「え?……神様それはとてもダサいです‼︎」
冷たい風が広場一帯を吹き抜けて行った。