第2話 強くたって神様じゃない
太陽が空から消えた頃、どうにかこうにか次の町に着くことが出来た。
「うわー‼︎立派な町ですね〜。町の周りを丸ごと壁で囲むなんて、クレアの村じゃ出来ませんよ」
大樹に並ぶほどの大きな壁を見上げ、かぶっていた帽子が落ちそうになった。
「まぁ、この町グリンドラはもはや町っていうか国だけどな」
「グリンドラ⁉︎あの四大国の一つ、自然の国グリンドラですか⁉︎」
驚きのあまり、落ちそうだった帽子がついに落ちてしまった。
「え⁉︎そのグリンドラだが。どうかしたのか」
この国には何度か訪れていたので今更大きな壁くらいで驚いたりはしない。
「だって、村の周りには大国はなかったので本でしか知らなかったんですもん」
「分かった分かった。とりあえず疲れたから中に入ろうぜ」
「そうですね。楽しみだなぁ」
「入国審査をしています。お名前を」
国にはいる門の前で番兵に止められた。
「俺はライズ・オルクリア。で、こっちは」
「クレア・ホワイトロッドです!」
「旅の途中に通りかかったので、しばらく滞在させてほしい」
「分かりました。それではどうぞよい時間を」
大きな門がキキキッと音を立てて開き始め、内側の光が一斉に薄暗い外を照らした。
色とりどりの光がチカチカと目に映る。
「どうも」
「うわぁぁぁぁぁぁ‼︎きれーい!こんなに沢山の光見たことありませんよ!」
走りながら門をくぐり、その場でクルクルと回っては初めての光景に目を輝かせている。
「夜にこんなにお店がやっているのも大国ならではだな」
夜だってのに昼間とさほど変わらないくらいに眩しい。
通りも多くの人が行き交い、まるで年中お祭りムードだ。
「早く行きましょう神様!見たことの無いお店がいっぱいです‼︎」
あちらこちらを指差しながらぴょんぴょん跳ねている。
今まで小さな村や町しか見たことがなかったのだから、クレアには相当綺麗で面白く映っているのだろう。
「店を回るのもいいが、まずは宿探しからだ」
「どこでもいいですよそんなの!それより神様、あのキラキラしたものは食べれるのでしょうか」
「おいおい。どこでもいいって…まぁ草むらに比べればどこだろうと確かにマシか」
「宿をお探しですか?」
突然可愛らしい女の人が声をかけてきた。
「え⁉︎あ、はい。この国に今来たばかりで」
可愛いらしものに弱いのは男に生まれた以上逆らえない。
まるで呪いのように顔を赤らめさせるのだから、参ったものだ。
「良ければうちが経営してる宿にきませんか?」
「ど、どうしよっかな〜」
女性からのお誘い、断ったら男がすたるぜ。
ポリポリと頭をかきながら考えるふり。
「何をニヤニヤしてるんですか神様‼︎」
「ク、クレア⁈適当なことを言うんじゃない」
「いいえ。神様はニヤニヤしてました」
なんだか、少し怒っている様子。
そんなにニヤニヤしていただろうか。
「この人が営んでいる宿に泊めて貰えることになった。宿がすぐに決まって良かったな!早速町を見て回れるぞ」
「なら…まぁいいでしょう。これからは気をつけて下さいね神様」
「お、おう」
一体何をさ。
「それでは宿までご案内いたします。ここからすぐなので、そんなに時間もかかりませんよ」
「お願いします。ほら、クレアも行くぞ!」
「クレアのキラキラが〜」
俺が引っ張るのに抵抗して一切足をこちらに向けない。
「後で買ってやるから」
「着きました。こちらの宿がお二人がお泊まりする宿になります」
ガタッ
俺はその場に膝から座り込んだ。
「甘く見てた…」
目の前にはいかにも高そうな立派な宿が。
今まで止まってきた宿とはレベルが二つも三つも違う。
なんてこったい。
クレア…もしかしたらキラキラは買えないかも。
「すっごぉーい。クレアここに泊まるの?」
「あの…ここはおいくらですか」
クレアが見とれている間に、俺はそっと宿の女性に近ずきこっそりと聞いた。
「旅人さんは特別に一泊5000コロです」
「ゴッ⁉︎5000コロ⁉︎」
全く安くない。
なにがどうしたら特別なのか。
二人で三日は食っていける額じゃないか!
だが、どうしたものか。
クレアは泊まれると信じ込んでいる。
泊まれないとは微塵も考えていないだろう。
「ムムム…」
「どうしたんですか神様。早く中に入りましょう。そしてさっきのキラキラを買いに行くのです」
なんて純粋な目でこちらを見てくるんだー。
断ったら凄くダサい。
それだけは分かる。
ムムム…。
「分かった入ろう」
「ご宿泊ありがとうございまーす」
これが彼女の見せた最高の笑顔だった。
「金が…金がなくな…」
通りに出てほとんど空っぽになった袋を見ていたら、心まで空っぽになって行くような気がした。
「さぁ行きましょう神様。夜はこれからです」
良い子は寝る時間だバカヤロー。
「って、そっちの道は」
「神様。なんだかこっちの通りは布の少ない服を着ている女の人が多いです。それになんだか男の人はすごくたのーーー」
「ストップストップ‼︎これは子供には早い。今見たのは全て忘れるんだ。アンダースタン?」
「よくは分かりませんが、分かりました」
「よし。偉いぞ」
俺はクレアの頭をすごく撫でてやった。
「前が見えないのでそろそろ手をどけてもらえませんか」
「おーすまないすまない」
クレアの体の向きを反対に向けてから手を放した。
「あっ、キラキラのお店です。ありましたよ神様」
一直線にお店へと走っていった。
「ふ〜。危なかった」
冷や汗を拭きながら手をパタパタして顔を仰いだ。
「早くして下さい神様ー‼︎売り切れちゃいますよー」
お店の前でぴょんぴょんと跳ねながら手を振っている。
「今行くよ」
それから俺とクレアはキラキラしたよく分からないものを食べたり、ピカピカしたよく分からないものを飲んだり、やたらと光る魚を食べ、すごく眩しい棒のようなものをクレアに買ってあげて、宿に戻った。
そして財布は空になった。
宿に戻る途中、クレアは買ったばかりの光る棒をブンブンと踊るように振り回していた。
その場でひたすらに棒を振り回すその動きは、見ていてあまりにダサかった。
「なんなんだ?その動きは」
「これですか?これはですね、村に伝わる応援の舞です!村の人が何かを頑張る時は、みんなであつまってこの舞をやるんです。意味はよく分からないし、とてもダサいんですが光る棒を持つとどうしてもやりたくなっちゃうんですよね」
やっぱ本人から見てもダサいのか、それ。
部屋に入ると広い部屋にタンスにテーブルとイス、それから大きなベッドが一つだけあった。
ん?
お気付きだろうかだろうか。
ベッドは二人くらいなら余裕で寝れるほど大きかった。
けれど一つしかない。
クレアの分を払い忘れたか?
いや、それであの値段は流石にぼったくりだ。
ならばどういうことだろう。
「神様ー!このベッド大きくてフッカフカですよ‼︎クレアもう眠くなってきました」
つまりそういうことだ。
俺とクレアはもちろん血は繋がっていないが、俺も若いながらもあくまで娘のように思っている。
クレアの亡くなった親の代わりをあくまでしているだけだ。
だが、俺もだんだん眠くなってきた。
もう疲れて、目を開けてられそうもない。
俺はバタッとベッドに倒れこんだ。
「お休みなさい神様ぁ」
「おやすみクレア」