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9-なやみ。

 もう、全然眠れなかったや。欠伸を噛み殺して、朝から晩ごはんの仕込みをしてるお母さんのお手伝いをする。そうでもしないと、頭の中が熱くてどうにかなっちゃいそうだから。

 

「今日はどうしたの、偉いわねぇ」

「そ、そんなことないよ」

「いつもこうなら、お母さんも助かるんだけどねぇ」


 笑って言うお母さんの声を、私も笑って受け流す。心の中は、ずっとこうだったら壊れちゃいそう。そんなことは、誰にも言えないけれど。

 

「だって、おねぇちゃ……、由佳里先輩が来るんだもん、わたしだって、お手つだいしたいもんっ」

「あらそう、そんなに由佳里ちゃんのこと好きなのね」

「おかーさんだって大好きだけど、由佳里おねぇちゃんとは別なのっ!」


 おねぇちゃんのことが好き。それくらいはわかってるけど、……他の『好き』とは違うような気がする。考えるだけで頭がぐるぐるして、胸が苦しくなって、でも、嬉しくて。


「はいはい、じゃあこれ、冷蔵庫にしまっといて?」

「はーい」


 こんなことしたくなるくらいに、おねぇちゃんに関わりたくて、もどかしい。合唱部の発表は一番最後になるし、一緒に帰るのも、ずっと先になるから。

 寂しいとか、じゃないはずだけど、自分でしたいって思ったお手伝いにも、なかなか意識が向かってくれない。

 

「どうしたの、ぼうっとして、冷蔵庫開けっ放しよ?」

「ご、ごめん……っ」

「やっぱり、好きなのね、由佳里ちゃんのこと」

「うん、そうなんだ……っ」


 きっと、お母さんの言う『好き』と、わたしが持ってしまった『好き』は別物で、もっと深くて、大きくて、胸の奥から、壊れちゃいそうになってる。

 こんな気持ち、普通じゃないのくらいはわかる。だって、由佳里おねぇちゃんのことを考えるだけで胸が押しつぶされちゃいそう。

 

「ごめん、気になっちゃうから、先学校行っていい?」

「とりあえず、お昼終わったらね、……とりあえず、危なっかしいからお手伝いはやめにしよ?」

「うん、わかった……」


 とぼとぼと、部屋に戻る。体でも動かしてれば、ちょっとは忘れられるかなと思ったのに。頭の中に、由佳里おねぇちゃんの顔が、頭の中にこびりついて離れてくれない。

 わたしよりずっと背が高くて、あったかくて、自分でおいしいご飯を作ってくれて、お泊まりするときは、よくごちそうしてくれて。

 そんなふうに甘えちゃったせいなのかな、今、こんなに苦しいのは。

 でも、どうすればいいのか、わからないよ。

 ねえ、教えて、由佳里おねぇちゃん。わたしはきっと、一緒にいないと、どうしようもできないの。

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