8-不安
1か月ぶりとか申し訳なさしかない
目覚ましの音で、目を覚ます。
今日が、クリスマス会当日。それに、……ひかりちゃんの家に、お泊まりしに行く日。
普段なら考えられないくらい緊張しちゃって、あんまり眠れなかったな。思いきり体を伸ばして、まだ寝ぼけた体をベッドから跳ね起きて覚まさせる。
こんなに緊張してる理由なんて、もうわかってる。あのちっちゃくて、二つ結びにした髪がぴょこんってなってるのがかわいくて、私のことを「お姉ちゃん」って慕ってくれるあの子のこと。
今日も、来てくれるって言ってたし、変なとこ見せられないや。合唱部の演目はもちろんのこと、弦楽団とのコラボだってあるし、頑張らなきゃな。
朝ごはんとお弁当を作るのも、日課になってしまえばさほど苦でもなくなった。高校生になったのをきっかけに初めて、ようやくレパートリーも増えてきて、食べてくれた子にもおいしいって言ってもらえるようになった。
あの時の顔、かわいかったな、莉亜ちゃんも、ひかりちゃんも。思わず、私も笑顔になるくらい。あのあの二人は、本当にそっくりだな、……なんて考えてたら、また胸の奥がきゅんって高鳴る。
どうして、こんな風になっちゃったのかな、なんて考えても、どうしようもなくて。……この気持ちに、ちゃんと向き合わなきゃだめなんだ。わかってるけど、浮つく気持ちを、どうやったって抑えられない。
ふらふらとした気持ちのまま、身支度を整えて、バスに乗る。体に染みついたことだから、なんとか動けるけど。
ほとんど無意識のまま学校に着いて、思ったよりも人がいない昇降口にちょっと不安になる。……今日のイベント、確か午後からだったと思い出して、思わず苦笑いが零れる。私、まだ寝ぼけちゃってるみたいね。こんなんじゃ、ずっとぼけちゃっておかしくなりそう。
「あ、由佳里さんじゃないっすか、こんな時間にどうしたんすか?」
「有里紗さんこそ、どうしたんですか?」
陸上部のジャージを着て、準備運動の途中らしかった有里紗さんが駆け寄ってくる。走るのはちょっと苦手だから、陸上で校内新聞にインタビューを受けたり表彰されたりするのは、ちょっと羨ましいかな。
「ちょっと早く来すぎちゃって……、有里紗さんは、今日も練習なんですか?」
「と言っても午前だけですけどね、普段よりはずっと楽っすよ」
「そうなの?」
「いっつも朝から夜までやりそうな勢いなんすよ、今日はクリスマスイベントがあるからって」
「そうなんだ、それはよかったねぇ」
合唱部でもけっこう練習は多かったりするけど、有里紗さんたちはもっとなんだな。私に比べたら小さいけど、人よりも大きな体で頑張ってるんだな。
「そろそろ戻らなきゃな……、由佳里さんの歌、楽しみにしてますねっ」
「ふふ、ありがと、有里紗さん」
仲間たちの元にもどっていく後ろ姿に、私もがんばらなきゃって自然に思える。
ぺちん、と軽く頬を叩いて、約束の時間よりもずっと早く音楽室に向かった。