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4-電話越し。

 ひかりちゃん、なんだか寂しそうだったな。

 一人でいるにはちょっと大きい自分の部屋で、あのときのほんのりと沈んだ顔を思い出す。

 私はけっこう下級生から人気みたいで、よく周りに後輩たちが集まってくる。しょっちゅう「お母さま」とか呼ばれてるけど、なんでなのかしらね。ひかりちゃんに訊いたら、「おねぇちゃんは優しくてあったかいから」と言ってたけれど。


 クリスマスイブの日にひかりちゃんの家に泊めてもらう約束も済ませたし、楽譜でも見直すことにしよう。学校のクリスマスイベントで合唱する予で、毎年体育館から溢れそうなくらいの人が見に来てくれるから、きっとひかりちゃんも、他の子たちだって。

 脳裏に浮かぶ小柄な姿の、思わず私まで頬が緩むような顔を振り払おうとして、楽譜を見ようとしたのに、ふとした瞬間に思い浮かべてしまう。

 

 そういえば、この前は一緒にこの部屋で泊まったんだ。だからかな、いつもと同じなのに、ちょっと広く感じてしまうのは。そのときを思い出しちゃってるのかもしれない。頭の中に、ひかりちゃんがいるから。


「由佳里、お風呂空いたぞ?」

「はーいっ」


 そう言って寝間着を取って、お風呂場に入っても、妙に静かに感じる。

 この前泊まりに来てくれたときは、一緒に入るって聞かなくて大変だったな。結局二人でも十分入れるくらい浴槽が大きかったからどうにかなったけれど。甘えるのが好きで、誰かと一緒にいるほうが似合う子だけれど、……あんなに大胆に甘えてくる子だったなんて。

 でも、そんな風に甘えてくれるひかりちゃんに、なぜだか、甘えさせてあげたくなるし、甘えてほしくなる。


 どうしてかな、ひかりちゃんのことばかり。

 忘れようとしても、ふとした瞬間に思い出して、その度に甘い記憶を引っ張り出してくる。みんなから慕われるのも嫌じゃないし、パーティーでみんなとわいわいするのも好きだし、そういう時にだってひかりちゃんはいるけれど。決まって思い出すのは、二人きりのときだけ。


 のぼせかけて、堂々巡りの考えからは抜け出せたけれど、やっぱり。頭の奥からは離れてくれない。いつも、私に抱きついてなかなか離れてくれないように。それだって、私がちゃんと言えば離れてくれるっていうのに。

 こんなに思い出しちゃうと、声、聞きたくなっちゃう。お風呂上がりの部屋で、半ば無意識に電話を繋ぐ。


『もしもし、由佳里おねぇちゃん、どうしたの?』

「ふふっ、……今度お泊まりするの、楽しみねって」

『そうだねぇ、普段おねぇちゃんちに泊まってるから、こっちに泊まってくれるの久々じゃない?』

「そうね、でも先月も来たでしょ?」

『そうだけどさ、いっつもおねぇちゃんのとこでお泊まりしてるから、全然実感沸かないや』


 寮生だと外泊はよほどのことがないとできないらしいから、私の家でお泊まりすることもないし、お互いの家に泊まりに行ったりするのも、実家に住んでいるひかりちゃんくらい。

 特別な仲なのもわかってるし、私もひかりちゃんのことは大好きだけど、……どういう『特別』かはまだ分からないけれど。


「もう、全くね、……クリスマスといえば星花でクリスマス会あるけど行くの?」

『もちろんだよ!由佳里おねぇちゃんの歌、楽しみだな!』

「ありがと、期待しててね。……じゃあ、おやすみ」

『うん、おやすみなさい、おねぇちゃんっ』


 ぷつりと、電話が切れる。満たされた心が、膨らませた風船の口を緩めたようにしぼんでいく。

 どうして、こんなに寂しくなるんだろう。その答えは、どうやったって見つからない。

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