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3-かえりみち。

「今日はお疲れー、筋肉痛にならないように早く休むんだよ?」


 部長のいたわる声に、「はーいっ」って声が六つ響く。寮に住んでる子たちは自転車を部室に置いて、わたしみたいに自転車通学してる人は外の壁に寄っかからせている。


「それじゃあ、今日はお疲れー」

「「お疲れ様でしたー!」」


 帰りは、大体サイクリングの恰好のまま帰る人ばっかり。わたしは、サイクリングシャツの上だけ脱いでワイシャツと、レーパンの上に制服のスカートを履く。それももう、いつものこと。

 自転車を押して、そのまま校門に向かおうとして、見間違えようのない人影を見つける。あんなに高い影も、キャーキャーとアイドルを囲むみたいな人波も。


「あ、由佳里おねぇちゃん!」

「ひかりちゃん、そっちも帰るとこ?」

「うん、そうなんだーっ」


 おねぇちゃんは、料理もできて、背も高くて、母性があるって、クラス中で、……というより、中等部全体で大人気だ。ファンクラブも出来ていて、わたしはその中でも、本当に親子みたいだって一目置かれているらしい。髪色が似てるからっていうのはともかく、顔も性格も幼げだからっていうのはいくら何でもひどいって思うけれど、……それでも、一緒にいられるのが自然でいられるのは嬉しい。

 

「じゃあね、おねぇちゃん!」

「うん、またね?」


 挨拶を済ませると、自転車に飛び乗る。後ろを見ないように、ひたすらペダルをこぎ続けて。

 おねぇちゃんと別れた後は、寂しくなる。だけど、今日は、それとは何かが違う、別の気持ちがこみあげてきて。

 ……もっと、二人きりでいたい。

 学校だと、さっきみたいにおねぇちゃんを大好きな人たちがいっぱいいるし。

 おねぇちゃんのお家に泊まりに行ったり、逆にわたしの家におねぇちゃんを泊めたりするけど、二人きりになれるときは少ないし。

 独り占めしたいとか、そういうわけじゃないはずなのに、……他の誰かと一緒にいるのを見るだけで、頭の中で、何かがもやもやする。

 そんな気持ちを、どれだけ全力で飛ばしても、風を切っても、頭の中から消せない。

 でも、その理由を見つける前に、あっという間に家に着いてしまう。こんな時だけは、自転車で5分もすれば着くような距離が全然足りないように思える。

 いつもより飛ばしてたのもあったけど、おねぇちゃんのことばかり、頭の中に浮かんでたから。一緒にいる時間がとってもあったかくてふわふわで、あっという間に過ぎてくから、きっと今も同じようなもの。


「ただいまー」

「おかえり、店じまい手伝ってくれるか?」

「はーい」


 家の自転車屋さんのお手伝いは、普段から嫌じゃないけど、……一瞬でもおねぇちゃんのことを考えたら、止まりそうになかったから、ちょうどよかった。

 小学生のときからやってるから、もう慣れている。いつもより丁寧にやってるのは、ぐるぐる回る考えから目をそらすため。


「お疲れ、もうご飯できてるからな?」

「ホント!?やったー!」


 わざとらしく飛び跳ねて、2階のリビングまで上がる。他のこと考えてないと、壊れてしまいそうで。

 ……わたし、一体どうしちゃったんだろう?

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