28-重なる。
返す言葉を見つけられないまま、ただ、髪を撫でてあげる。きょとんって、戸惑ってるとこも、かわいらしいのに、今は、ひかりちゃんのこと、かわいいなんて言えない。
「……ひかりちゃんのほうが、ずっと大きくて、眩しいな」
「そんなことないって、……わたし、だって、勝手に背伸びして、転んだだけなのに」
「ううん、羨ましいよ、私、……ひかりちゃん、真っ直ぐだから」
好き。その二文字も、上手く言えない。背伸びしてくれるのに、私も、ちょっとかがんで、目線は合ってるはずなのに、なんか、上手く重ならない。
気持ちだけ、空回り。いつもより小さい目線の高さが、今日はもどかしい。
「おねぇちゃん……?」
「……ねえ、ひかりちゃん、……私、みんなが思ってるより、大人じゃないよ。……今日は、甘えても、いい?」
「え?……おねぇちゃんみたいにできないかもだけど、それでも、いい?」
「いいよ、……嬉しい」
ひかりちゃんを抱き留めて、そのままベッドに一緒に寝転がる。こんどこそ、同じ高さの目線。くりくりとした丸っこい瞳に、吸い込まれそうになる。落ち着いてるふり、ちゃんとできてるかな。
「ひゃっ、お、おねぇちゃん……?」
「ごめん、びっくりさせちゃったね、嫌なら、起こすから」
「その、嫌じゃないけど……、おんなじ目線って、ちょっと珍しいよね、一緒に寝るときも、おねぇちゃんのほうが目線高いし」
「なんか、抱き枕みたいにしちゃってたもんね、……どっちがいい?」
「こっちのほうがいいな、なんか、おんなじって感じがして」
おんなじ、か。やっぱり、かわいい。背中に回したままの手を、少しきつくする。……気持ちも、おんなじならいいな、なんて、望みすぎかな、それとも、……
「そうね、……気持ちも、一緒ならいいな」
「……ほえ?」
きょとんとした顔、守ってあげたいけど、それだけじゃない。……ひかりちゃんの、特別でいたい。そんなこと、真っ直ぐ言えるほど、大人になれないから、私も。
「ひかりちゃん、……私のこと、好き?」
「当たり前だよ、そんなの」
「どれくらい、好き?」
……そんな事言っても、困るよね。おねぇちゃんはどうなの?って返されたら、どう言えばいいんだろう。うーん……、なんてうなる声に背に、頭を巡らせてると、その音が、止まる。
「……『好き』って言葉で、ドキドキしちゃうくらい、かな。……おねぇちゃんは?」
ズキン、って、胸を刺された。桜色に染めたほっぺが、その言葉を本当だって教えてくれる。私も、おんなじ。でも、それだけで返したくない。ただの、わがまま、私の気持ちは、私だけのためのもの。
「私も。……ひかりちゃんの『お姉ちゃん』じゃなくて、……もっと近くがいい」
友達でも、家族でも、『お姉ちゃん』と妹でもなくて、……恋人同士。直接は、まだ恥ずかしくて言えない。でも、……伝わってる、よね。
「……おねぇちゃんも、わたしの事……」
「うん、、ひかりちゃん、……好き」
「えへへ、……わたしも、好きだよ、由佳里おねぇちゃん」
顔の近さ、今更思い出す。こんな、近かったっけ。ひかりちゃん、目、閉じてる。唇も、すぼませて。……そういうこと、欲しがってくれてるんだ。嬉しい。あどけなさの残る顔に、一瞬、色気を感じる。
ごくり、生唾を飲み込んで、聞こえてたり、するのかな。……待たせるのは、悪い、よね。ほんの数センチが、長い。唇が重なるまで、空気一層くらいまでになって、ようやく、私も目を閉じる。
ほんのり、触れた一瞬。それを、ひかりちゃんのほうから、もっと顔を寄せてくる。……もう、無理。離すを、追っかけてこなかった。よかった、これ以上されたら、私の心臓のほうが保たないよ。




