27-ちかづく。
少しずつ、あったまってく部屋。それでも、体の真ん中のとこは、まだ冷たいまま。嫌われちゃった、のかな。そんなわけないって分かってるのに、そんなとこまで不安になる。
怒ってるとこなんて見たこともないくらいに、誰に対しても優しい人。料理とかの家事だって上手いし、背も高いし、髪も長いのに、ふわふわしてて綺麗だし。……わたしにないとこ、全部持ってるような感じ。ふかふかのクッションみたいで、こういうの、包容力があるって言うんだっけ。
軽いノックの後、入るよって、いつも以上に優しい声。普段はそんなことしないでも、平気で入ってたのに。いいよ、って返すけど、なんかぎくしゃくしてる感じは隠せない。多分、わたしのせいなのに、どうすればいいかなんてわかんない。いつも通り、少しかがみながら入ってきて、隣に座る
「ごめんね、今日は」
「謝らないでよ、おねぇちゃんは悪くないのに」
謝らないといけないのは、わたしのほうなのに。今日は、なんかぐずぐずだ。
お泊まりの日、いつもお布団は敷いてあるけど、いつもベッドで二人で寝てる。今日は、それもなんかためらっちゃいそうで。
ベッドに並んで座るのも、なんとなく、距離が遠いような。気のせいだったらいいのに。顔を見ようとして、相変わらず高いから、よく見えない。
「そう?……私もね、謝んなきゃいけないことがあるの、今日のことじゃなくても」
「……何?」
ずっとずっと優しくて、甘やかされてるってくらい大事にしてくれてるのに。それを突っぱねようとしたのに。本当に思い当たることなんてないのに、深刻な声で。
「私、ひかりちゃんに甘えてほしいの、……大人になりたいっていうの、わかっちゃってるのに」
「……どうして?」
それ以外の言葉を、頭の中から見つけられない。他の子にだって優しくて、文化祭の準備のときは、クラスメイトのためにクッキーを作って配ってるのも見た。みんなのお姉ちゃん、……というより、お母さんみたいな感じなのに。
「寂しいのかな、どっか行っちゃうみたいで。……お母さんでもないのに、変、だよね」
まだ、びっくりしたままの頭の中身は、芋虫みたいにゆっくり戻ってくる。わたしのこと、大事にしてくれてるのはわかるけど、……どっか行きそうだから、なんて。わたしが、おねぇちゃんと離れるなんて、考えたこともないのに。
「どこにも行かないよ、わたし。……わたしがオトナになりたいの、おねぇちゃんに追いつきたいからなのに」
「……そうなの?」
「背伸びしなくても届くくらい、大きくなりたいの、……心だけでも」
言っちゃった、私。一番大事なことは言えてないけど、それでも、心臓が飛び出しちゃいそう。笑わないのはわかってるけど、それでも、言われないかドキドキしちゃう。
言葉は帰ってこない。その代わり、大きくて、ちょっとひんやりした手が、髪を撫でてくれる。




