25.とどかない。
「どうしたの?風邪引いちゃうわよ?」
「そ、そうだけど……」
オトナになろうって背伸びして、全然届かなかった。それも、一番見られたくない人に見られて。体の表面が焼かれるくらいに。
「もしかして、着けるの苦手?」
「うん、その……、普段被って着るのばっかりだから、あんまり慣れてなくって……」
本当はこれが初めてで、背伸びしたかったからこういうの着けようとしたなんて言えない。由佳里おねぇちゃんに追いつけるくらいオトナっぽくなりたいのに、結局転んで。
「私も、おんなじ事したことあるから大丈夫よ、成長早かったから、誰にも訊けなくてさ」
「そ、そうなんだ、……オトナになるのも、早かったんだね」
「……拗ねなくていいの、付け方、教えよっか?風邪引くよ?」
つんつんしちゃうわたしの言葉に対して、ずっと優しい声で返してくれる。やめてよ、届かなくなるから。振り払って逃げようとしても、どうせその先には何も無いのに。
「……別にいい」
「そんなこと言わないの、ほら、暴れないで」
そう言うと、ふっと抱き上げられる。そうされると、なぜだか動けなくなる。そのまま、背中がくっつく。まだ濡れたままの肌が、いい加減冷え切った体に、あったかい。
「お願い」なんて言えばすぐなのに、子供でいたくないってことばっか考えて、結局子供っぽいわたしに戻っちゃう。何も言えないまま。
「誰にも頼らないのだけが、大人になるってことじゃないから。……いい?」
「……いいよ」
ふわふわしてた足が、ようやく地面につく。……はぁ、やっぱり、勝てない。おねぇちゃんみたいになんて、なれない。隠してたはずの気持ちも、そのまま見透かされて。
「ごめん、濡らしちゃったね」
「別にいいよ、……そんなの」
わたしがオトナになれなくて、そのフリをしようとしてもうまく行くわけなくって、ただそれだけのことなのに。後ろで、タオルが肌を擦る音がして、その後、ほんのり濡れたそれがぽんぽんとせなかを軽く叩く。
うつむいた体を、後ろから抱かれる。今度は、ブラジャー越しに、おっぱいのところをやさしく。
「付けるときは、ちょっと下向いてするの。カップの中に、ちゃんと入ってる?」
「う、うん、……合わせてたし」
「そう?じゃあ、ホック留めるから」
「……わかった」
そう言うと、背中でかちゃりと音が鳴る。わたしが四苦八苦しても全然つかなかったのに、魔法みたいにあっという間に。
「できたわよ、……でも、まだかがんでてね?」
「……うん、でも、どうして?」
「普通に着けただけだと垂れちゃうでしょ?だから、少し持ち上げてあげるの」
試着したときにお店のお姉さんが着けてくれたとき、確か、そんなことされたのを思い出す。そんなこともわかるんだ。やっぱり、ずっと先にオトナになってるんだ。誕生日なら、半年も違わないのに。
「へ、そうなんだ、……わたし、おねぇちゃんみたくおっきくないのに」
「僻まないの、……じゃあ、触るよ?」
「う、うん」
そういう風に、意識させないで、そりゃ、……こんなこと、普通はしないかもしれないけど、特別なことなんて、全然思わなくて、わたし達だったら、自然にできちゃいそうな気がしてたのに。
全部包み込んでくれそうなくらい大きな手が、肩から回される。左手でブラジャーをつまんで、右手が、その隙間を通ってく。谷間とも言えない隙間を通って、左のおっぱいを持ち上げる。手つきは優しいのに、……優しいから、背中が、ぞくってする。
「やっぱり、嫌?」
「い、イヤじゃないよ。……ちょっと、びっくりはしたけど」
「そうよね、……やっぱり、やらないほうがいい?」
「いいよ、もう、続けて」
びっくりしたし、ドキドキしてるし、でも、イヤじゃないの。そのことに戸惑って、何もできなくなる。ここまで来たら、多分、戻れない。突っぱねようとした理由も、多分聞かれちゃう。もう、きっと黙ったままじゃ許してくれないよね。それに、いつまでもそれに甘えたいわけじゃなくて。
「そう?……じゃあ、バストを上げてあげたら、体を起こして肩ひもを整えるの、……自分でできる?私も、服着ないといけないし」
「わかった、……ありがと」
その気持ちも、全部筒抜けみたいに離れてくれる。そういうとこも、ずるい。
言われた通りに着けたら、ぴったりとはまって。軽く体をひねってみても、全然ぶれない。そういうの、やっぱり詳しいんだな。
おねぇちゃんの顔、見れないよ。もう、見上げても届かないとこにいるように感じて。