24.見つける。
ひかりちゃんは、もう体も洗い終わっちゃいそうだ。いつもと違う、言葉と動き。隠しきれない何か、でもそれは何なんだろう。聞きたくてそわそわしてるの、気づいてなきゃいいんだけど。周りの子には頼られるけど、私だって、大人でいられる自信はない。
「ご、ごめん、トイレ行きたいから、先上がってもいい?」
「……ジュース飲み過ぎたんじゃないの?とりあえず、早く行ってらっしゃい」
「うん、わかってる……ついはしゃいじゃって」
慌てたようにお風呂を出て、バタンと音が閉まる。タオルだけ手に取る影が見えて、消えたと思うと、脱衣所の引き戸が壁に当たるとんって音と、ぱたぱたとした足音が聞こえる。その足音はいつも通りで、何か安心する。足がまだ濡れてて、転んでたりしないかな。ひかりちゃん、ちょっとドジなとこあるから。シャワーを切って確かめると、ドアを開ける音がするまで、リズミカルな足音は続く。その心配は、考えすぎだったみたい。胸のつっかえが、ほんの少しだけ取れる。
まだ残ってる泡だけ流して、次は体洗わなきゃ。シャワーは止めたまま。タオル、そう言えば脱衣所に置いてったままだった。ひかりちゃんが戻ってないのを見てから、戸を開けて、腕だけ伸ばして取る。軽く濡らしてからボディーソープを付けて泡立てていく。
まだ、帰ってこないな。不安がじっとりと背中をなぞる頃に、ようやく戻ってくる影が見える。ほっ。一息つけると同時に、何してるんだろうって違和感。体を洗いながらだけど、ちらちらドアの曇りガラスの先をちらちら覗いてしまう。ドアの向こうに影は見えないけど、「ん~っ」が聞こえる。お風呂に入ってこないのは、洗い終わったの見えたから何となくわかるけど。着替えてるにしても、ドライヤーを掛けてないのもちょっと変。タオルを置いた音以外は、時折聞こえるうめくような声ばかり。
どうしたのかしら。かといって、そのまま飛び出すわけにもいかない。まだ、泡もこまみれだし、顔だって洗ってない。
「どうしたの?」
「な、なんでもないよっ」
慌てたような声に、どたっ、と軽く響く足音。何でもないわけ、あるわけない。教えてよ、じゃないと、私も不安でどうにかなっちゃいそう。普段は大好きな大きな体も、この時ばかりはもどかしくなる。
普段通り丁寧に。そう言い聞かせないと、何もかもすっぽかしてしまいそう。漏れ聞こえる声に、意識が逸れるのを何度も戻して。たった数分が、何倍にも引き延ばされる感じ。
忘れ物がないかを見て、落ち着いた様子になるように戸を開ける。
「もう、さっきからどうしたの?……えっ!?」
冷静でいるふりなんて、できなくなる。持ってたヘアクリップもタオルも、床に取り落として。脱衣所の端っこまでの数歩を駆け寄る。
「ん……、ごめん……」
縮こまったひかりちゃんは、まだ下着姿で、……普段は着けてないワイヤーブラの後ろ側が、まだ開いたままだった。