21.ちがう。
今になって、恥ずかしくなってくる。今日のために下ろした、ちょっとオトナな下着が。タグも切ってるし、怪しまれないように袋から出すくらいならなんとかできそうだけど、……そういうの着けてたら、どういう風に思っちゃうのかな。子供っぽいことはわかってる。わかってるけど、……背伸びしたいの、おねぇちゃんになんて、届かないことは分かってても。
「着替え、取って来なきゃだね」
「私も、鞄の中入れたままだったわね」
鞄の中身を探してるのを横目に、クローゼットに潜ませた紙袋の音が立たないように出す。やっぱり、似合わないかな。手に取った下着を見つめて、今更のような悩みが頭でグルグル回る。寝間着はいつもと同じパジャマだし、おねぇちゃんみたくワンピースになってるのも多分似合わない。お風呂とかで体は見たことあるけど、見惚れちゃいそうなくらい綺麗な白い肌で、モデルさんとかの体をそのまま大きくしたみたいにスタイルもいい。わたし、すぐ日に焼けちゃうし、まだ腰のとことかくびれてないし、……羨ましい。わたしが持ってないの、いっぱい持ってて。
「ひかりちゃん?」
「あ、うん、今行くから」
慌ただしく準備して、ドアの方に向かいかけるのに追いすがる。荷物があるから、抱きついたりはできないけど、なんか、そうしたくなる気分。
「もう……、そんなに慌てなくても、置いてったりしないわよ」
「わかってるけどさ、……なんか、いきなりだったから」
「どうしたの、今日は」
「な、何でもないよ」
置いてかないことなんて、分かってたよ。分かってたけど、追いつけないとこばっかり考えてたから。由佳里おねぇちゃんが、どっか遠いような場所にいるように思えて。もし、追いついたとしても、そこにおねぇちゃんがいなかったら、意味ないのに。オトナになりたいけど、なりきれないわたしと、体も心も、とっくにオトナみたいなおねぇちゃん。わたしって、全然だなぁ、なんて、らしくもないこと考えて。だからって、いつもみたいにジュニアブラを着けることも、選べない。
また、背中合わせで着替える。部屋よりも狭い脱衣所だと、髪の香りとか服のこすれる音とか、わたしにもあるんだろうけど、ずっと、色っぽいような。
向かい合うと、上手く二人ともお風呂に入れないから、また、膝の上に座るみたいに。背中から感じる温もりは、あったかいのに、今はなぜか痛くて、苦しい。
「なんか、悩みでもあるの?」
「ん、えっと、……なんでもない」
心配してくれる優しい言葉も、今は優しくしないでって思っちゃう。そんなに動揺してるの、見せたくもなかったのに。突っぱねた声が思ったよりもそっけなくて、その鋭さがわたしまで刺してくる。