2-卵焼き。
交互に立場変えてみることにしました。
ひらがなオンリーがひかりさん視点、漢字かな交じりが由佳里さん視点ってことにします。
「由佳里おねぇちゃん、その卵焼き食べてもいい?唐揚げと交換しよ?」
「いいけど、どうして卵焼き?」
「きらきら光ってて、おいしそうだったからだよ?」
ひかりちゃんは、ふんわりとしてて、私よりずっと小さい体に、たくさんの優しさを持っていて。
一緒にいるだけで、私までほっこりする。
「はいはい、そっち置くね?」
「ねえねえ、あーんして?」
いきなり言われた言葉に、うっかり卵焼きを取り落としそうになる。
でも、嫌かと言われたら、――嫌じゃない。
「やっぱりダメ?」
「ううん、いいよ?」
ひかりちゃんから、私に近づいてくれるのは、どうしようもないくらい胸の奥があったかくなって、もっと、甘えさせてあげたくなる。甘えて欲しいなんて、考えてしまう。
「はい、あーん……」
「あー、……む」
食べたのを確認して、箸を抜く。箸を伝ってでも、ひかりちゃんの唇がぷにぷにしてるのは、なんとなくわかる。
「むぐむぐ……、すっごくおいしいっ!」
「そう?……ありがとね」
「全部自分で作ってるんでしょ?やっぱりすごいよ!」
「そんなに言われると、ちょっと恥ずかしいかな」
でも、素直にほめてもらえるのは嬉しいな。ふわふわで、甘いひかりちゃんの声は、裏表のない、真っ直ぐなものだって分かってるから。
「今度は、わたしの番だね、おねーちゃん、あー……んっ」
ちょっとお尻を浮かせて、かがんで私のすぐ前まで箸を伸ばす。ちょっとぷるぷるしてるのがかわいくて。
「う、うん、あー……んっ!?」
思わず、自分も、ひかりちゃんとおんなじことをしてしまう。座り直したひかりちゃんが、不安げな顔でこっちを見つめてる。
「大丈夫!?」
「う、うん……」
噛んでみると、柔らかい感触と、しょうゆの味付けのついた肉汁が溢れてくる。いっつも、こんな料理食べてるんだ。だからあんなに幸せなんだなって思うくらい。
「ど、……どうだった?」
「すっごくおいしいよ、毎日こんなの食べられるなんて幸せだね」
「おかあさん、昨日の夜から準備してるんだ、だからかなぁ」
「そうだよ、きっと」
軽く頭を撫でると、緩み切った笑顔を見せてくれる。相変わらず、かわいい。
「えへへ、もっとなでなでして?」
「そろそろちゃんと食べないと部活に間に合わないでしょ?」
「あっ、そうだった……」
しゅんとしたひかりちゃんに、ちょっと悪いかなと思う。なんだか、私のたった1個下とは思えないくらい、あどけなくて、そこになぜか惹かれてる私もいる。……なんだか、自分の妹とか子供みたいに思えて。私も、自然と笑顔になる。
そういえば、そろそろちゃんと食べなきゃな。ご飯をつかんで口に入れて、……そういえば、これ、ひかりちゃんに食べさせたのなんだ。ひかりちゃんと、間接キスしちゃったんだ、私。
どうしようもなく跳ねる鼓動に、火照る頬。向かいでは、何もないように箸を進めていて。それくらいでどぎまぎしてる私がヘンなのかな。
「ごちそうさま、今日もおいしかった~!」
やっぱり、ひかりちゃんは何も思ってるそぶりがなくて、……なんでだろう、ちょっとだけ寂しい。
「おねぇちゃん、もしかして具合悪い?」
「ううん、大丈夫」
もう何も考えずに、お弁当の中身を平らげる。緊張してるときみたいに、全然味がしない。
空になった弁当箱をしまって、ようやく向き直ると、ひかりちゃんは、とっくに準備を済ませてた。
「今日で2学期終わりだから、しばらく一緒にお弁当食べられないね」
「そうねぇ、でもよく遊びにくるじゃない」
「それもそうだねぇ」
ひかりちゃんは、なんだか年の離れた妹みたいに見える。……少なくても、私の誕生日が来る2月までは同い年だってことに、あんまり実感がわかない。
二人で一緒に教室を出る、……その前に。
「へへ、もう一回ぎゅーっ」
「まったく、ひかりちゃんってば……」
抱きつかれるのは嫌じゃないけど、……むしろ、好きだから困っちゃう。
この温もりも、この感触も、離せなくなるから。
「ごめんね、部活行くんだったね」
「いいよ、別に嫌じゃないけど……急いでるときはあんまりしないでね?」
「うん、わかった!」
花の咲いたような笑顔で言うひかりちゃん。やっぱり、いい子で、……かわいいな。たった1学年下とは思えないくらいあどけないのに。
「じゃあまたね、由佳里おねぇちゃん!」
「う、うん、またね、ひかりちゃん」
そう言って、ぱたぱたと足音が過ぎ去っても、あのふんわりとした笑顔が頭に残ってて。
はっと時計を見て、その後を追うように私も部室のある旧校舎まで駆けていった。