19-ふくらむ。
「ごちそうさまー」
「ごちそうさまでした、いつもありがとうございます」
「いや~、由佳里ちゃんいっぱい食べてくれるから作り甲斐あるわ?こちらこそありがとう」
思わず、お腹をぽんぽん叩いちゃうくらい、お腹いっぱい。わたしよりずっと食べてたおねぇちゃんは、まだまだ余裕そうだけど。ケーキ、入るかな。その前に、ウェットティッシュを渡される。
「もう、口の周り脂でつやつやになってるわよ?」
「うん、わかってるぅ……っ」
相変わらず、なんかお母さんみたいにかわいがってくる。わたしが子供っぽいのはまだ認めるけど、おねぇちゃんがオトナっぽすぎるんだよ。学年は一個しか変わらなくて、まだお誕生日が来てないから、年はわたしとおんなじ。背伸びしても、全然追いつかないや、体も、心も。
「はは、ひかりは由佳里の子供みたいだなぁ」
「もー、お父さん、そんなことないってぇーっ!」
シャンパンがあるのに、もうお酒を空けてるお父さんは、いつも物静かなのに、今日はごきげんだ。何気ない言葉で、別に傷つけたいわけじゃないのもわかるけど、やっぱり心の奥でチクって刺さる。追いつきたいのにな、わたしも。届かなくても、背伸びくらいはしてもいいでしょ。
食休みで、しばらくリビングへでみんなでまったりする。三人がけのソファーだから、おねぇちゃんの膝の上に乗ることになるのも、いつものことだけど、今日だけは、もやもやを加速させていく。髪からか肌からかただよう、さっぱりしてて甘いかおりも、柔らかい体に抱き包まれるのも、好き、なんだけどな。その言葉を意識しだした瞬間、胸の奥で、ドキドキが芽生えて膨らむ。今までは、なんともなかったのに。いつも楽しく見てるはずのバラエティーの特番も、ろくに見れないや。
「大丈夫、わかってるよ、ひかりちゃん」
「う、うん、ありがと……」
耳元で囁かれた言葉は、いつもと同じ落ち着いた優しい声。心も、おっきくて、あったかい、……もしかしたら、その体よりも。だから、落ち着かない。こんな気持ち、おねぇちゃんのほうは持ってないんだろうなって。だって、おんなじ気持ちだったら、ちょっとくらい、声が上ずったっていいはずなのに。
ため息を飲み込んで、笑った顔を作る。落ち込んだ顔なんて、ここじゃ似合わないよね。無理しようとすればするほど、ため息がこぼれかける。
「いっぱい食べすぎちゃったな、ケーキ食べれるかなぁ」
「そう?食べきれなかったら、私が食べちゃおっかな」
「えー?」
「冗談よ、食べられるまで、ゆっくり待ってよっか」
他愛のない話ができるだけで、ちょっとほっとする。ちょっと意地悪なとこも、初めてかも。ぎゅって抱き寄せられて、ビクンって体が跳ねそうになる。それは何とか抑えられたけど、ドキドキは、膨らんでいく。




