17-あこがれ。
「だっだいまー」
「お邪魔します」
さりげなく手を離されて、並んでおうちに入る。おねぇちゃんがうちに来てくれるときって、いつもより、この瞬間が嬉しい。なんだか、本当にお姉ちゃんみたいで。
「あら、いらっしゃい。いっぱい用意してきたから、たんと食べてね」
「それじゃあ、お言葉に甘えさせて頂きますね」
上がり口にいるお母さんを見下ろしてぺこりとお辞儀をすると、長い癖っ毛が、ひらりと揺れる。ふわりと、ハーブのにおいが混ざった髪のかおりが鼻先をくすぐる。やっぱり、大人っぽくて、羨ましい。わたしよりも3か月しか早く生まれてないのに、10年くらい差をつけられてるような感じ。おねぇちゃんって呼んでるけど、本当はお母さんみたいな感じ。わたしも、オトナになったはずなのに。少なくとも、初めて会ったときよりは。
「ええ、早く着替えておいで?」
「うん、わかった、行こう?」
「いつもありがとうございます、……もう、慌てんぼなんだから」
「だって、早く食べたいんだもん、いいでしょ?」
「全く、ひかりちゃんは……」
早歩きしてるのに、慌てた様子もなくついてくる。転ばないか、不安そうに見つめてくるのは見えるけど、さすがにお家で転ぶほどドジじゃないもん。二階に上がって、わたしの部屋に戻る。寝間着にしてる水色のルームウェアを衣装ケースから出して、ちらりと、この前買ったばかりの下着に目がいく。わたしには、ちょっと合わないかな、やっぱり。背伸びしてもまだ、おねぇちゃんには届かないような感じ。何も言わないでも、お互いに背中を向けてるから、ドキドキもモヤモヤも、顔に出たってバレないよね。
「ケーキも大きいのだから、ご飯食べすぎないでね?」
「大丈夫よ、……と言いたいけど、お肉見るとつい食べ過ぎちゃうのよねぇ……」
「おねぇちゃん、お肉大好きだもんね、いつもびっくりしちゃうよ」
「そう?……ひかりちゃんだって、よく食べるほうだと思うけどな」
そうは言っても、おねぇちゃんのほうがよく食べるけど、スタイルもいいし、……この前買ってきた下着も、おねぇちゃんにだったらぴったりはまるんだろうな。後ろで、ワイシャツの袖を抜く音がする。今は、どんなの着けてるんだろう。目線だけ後ろを向けても、ウェーブのかかった長い髪に隠れてよく見えない。それでも、細いウエストとか腕とかに、目が行っちゃいそうになって、慌てて真正面に目線をも推す。
「ひかりちゃん、そっちは終わった?」
「え、まだ、もうちょっと……っ」
そわそわしてる気分を、引き戻してくれるような優しい声。スカートもブレザーもワイチャツも、一気に脱ぎ捨てた。