16-物思い。
妙に、緊張する。繋いだ手が手汗でびっしょりなのは、手袋のおかげで気づかれてないけれど。
理由なんて、わかってる。変わりたいけど、変わりたくない繋がり。背伸びしてるとこもかわいいけど、もっと、甘えてほしい。……なんて、私のわがままなのに。
「おねぇちゃん、何考えてるの?」
「うーん、……きっとごちそう作ってくれるんだろうけどさ、あんまりおいしくてちゃんとひかりちゃんたちの分残しておけるかなって」
「大丈夫だよ、いーっぱい作ってくれたもん、むしろみんなで食べても食べきれないかも」
明るい声と、ぴょこぴょこと揺れる二つ結び。楽しみにしてくれてるの、わかる。多分、私と同じくらい。厚着でもこもこしてるせいか、なんか、妖精さんみたい。
「だったら、気兼ねなく気兼ねなく食べられるわね」
「わたしもねー、おねぇちゃんが食べてるとこ見るの好きなんだーっ」
さりげない言葉、なのに、びくんって体が反応して、うっかり手を離しそうになる。ひかりちゃんの方も、さっきより、顔が赤くなってるような、……気のせいかな。ただでさえ大分見下ろす角度なのに、暗がりで、表情は隠されて見えない。……私のこと、いっぱい考えてくれてるんだなってことだけ。それだけなのに、分かってるのなんて。それだけで、胸の奥が痛い。
私だけかもしれないのに、こんな風に物思いしてるのは。クラスでも部活でも、色恋の話はそれなりに出てきたけれど。それが自分に降りかかるなんて、思わなかった。
商店街のゲートをくぐると、ひかりちゃん家はもうすぐそば。クリスマスツリーも、いつもより多い人混みも、キラキラしたイルミネーションも、今日が特別な日だって印。このまま、勢いで進めたらいいんだけど。それをひかりちゃんが望んでくれるかなんて、わからない。
「そう?だったら嬉しいな」
「本当だってぇ、ほら、早く帰ろ?」
「もう、そんな急がなくてもいいでしょ?」
もうちょっとだけ、手を繋がせて。そうしないと、転ばないか心配になる。たまに、ドジっ子なとこもあるから。なんとなく、傍にいないと落ち着かない。……今は、傍にいるはずなのに。ドキドキしちゃってるけれど。
「わたしもお腹空いちゃったもん、いいでしょ?」
「駄目よ、手繋いでないと、はぐれちゃうでしょ?」
「さすがにおうちくらいわかるよ、おねぇちゃんだって知ってるでしょ?」
「そうだけどさ……、転ばれたりしたら私が嫌なの」
そうすると、大人しくなってくれる。ひかりちゃんが甘えんぼなのもあって、なんか、自分の子供でも見てるみたい。学年は一つしか違わないし、私の誕生日が来るまで同い年なのに。……それに、『お母さん』がどうやって愛してあげるのか、わからないっていうのが、少し怖い。
「じゃあしょうがないなぁ、おねえちゃんってば」
「はいはい、焦らなくていいでしょ?もうちょっとなんだから」
だけど、そばにいさせて。いっぱい愛してあげたいの、私の心で、体で。そう言えるほどには、聖なる夜の魔法はまだ弱すぎる。




