15.かえりみち。
おねぇちゃん、まだ来ないな。寒いのなら慣れてるし、マフラーや手袋でちゃんと対策もしているけど、胸の中の冷たくて痛いとこは、あっためてくれない。
返事をくれたのが、10分くらい前。待ち合わせの場所にはちゃんと間違えないで来たし、おねぇちゃんのことは、暗がりでもわかるくらい大きいからすぐ見つけられるはず。だから、……まだ、用事が済んでないだけ。忘れたわけ、ないよね。気になって、ずっとわたしが「待ってるよ!」と送ったままの画面を見続ける。いくら見てても、何かが来るわけじゃないのは分かってる。分かってるけど、……胸のどこかで、何か期待してる。
ぱたぱたと聞こえる、大きな足音。音のするほうを見ると、人よりもずっと大きな人影。どう考えたって、そんな人は一人しかいない。
「由佳里おねぇちゃん!?もー、遅いよー!」
「ごめんね。ちょっと話しててさ」
わたしも走り出して、思いっきり抱き留められる。一瞬息ができなくなるくらい柔らかいのが、厚着でもこもこしてるのにわかる。
「心配したよー、連絡もくれないしさ」
「ごめんって、じゃあ、行こっか」
「うん、……あ、そうだ、ちゃんと着替えとか持ってきてるよね?」
「大丈夫、もう鞄に入れてあるよ」
普段より大きい鞄を軽く叩いて、軽く目配せする。友達同士なら当たり前のことでも、わたしとおねぇちゃんだと背が違いすぎて、それだけでも少しもどかしい。けど、ちょっとだけ、好きになれそう。
「なら大丈夫だね、じゃあ行こっか」
「そうだね」
家に連絡を入れて、ポケットに入れる。宙ぶらりんなまま手出すと、自然と、手が繋がる。手袋を伝わって、あったかさに包まれる。手、相変わらず大きいな。頭をくしゃくしゃと撫でられるのを想像して、少し身悶えする。
「ん、寒いの?ずっと待たせちゃって、ごめんね?」
「ううん、大丈夫。……動けば寒くなくなっちゃうよ」
むしろ、体は今のであったかくなっちゃった。わたしに合わせて、少しゆっくり歩いてくれるのを感じて、ますます心がほかほかになる。あったかい、大好き。だけど、そこから先を考えると、ライトを点けないで山道を走ってるような、先の見えない
「好き」なのは確かだけれど、その意味は、あんまりつかめない。一緒にいるだけで落ち着くけど、落ち着かない。「友達」って枠には収まってくれないし、じゃあ、それ以外でっていうと、何かためらってしまうような感じ。
それ以上は、うまくつかめてくれない。自転車ならあっという間の帰り道が、今日はゆったりだから、考える時間が長くなる。その分だけ、霧に包まれたみたいに何もわかんなくなってっちゃう。