13-いくあては。
行き場もないまま、学校の中をうろうろしてる。やっぱり、クリスマスのイベントは文化系の部活が多いせいか、校舎の中は空っぽみたいだ。旧校舎のほうに行けば、もっと人だっているだろうけど、今は、そっちには行きたくない。……今は、由佳里おねぇちゃんには、会いたくない。胸の中が、変になっちゃってるの。ドキドキして、止まらないの。今、出会ったりなんてしちゃったら、きっと、心臓が破裂しちゃうんじゃないかってくらい。
わたしの足音が響く廊下に、遠くから足音が聞こえる。明るい話し声みたいなものも。そろそろ、始まる時間なのかな。スマホで時間を確かめてみると、確かにそろそろだ。
体育館に向かう通路は、ぽつぽつと人が来はじめている。その波に乗って、また体育館に入り直す。前のほうもまだまだ余裕があるし、そこに入ってしまおう。
本番になったら、すぐそばで見ていたいの、今からもう、胸の奥が熱い。歌ってるおねぇちゃんのことは、実はまだ見たことがない。一緒のベッドで眠ったり、料理を作ってもらったり、そういうことならいっぱいしてもらったのに、なんだか不思議な感じ。
少しずつ、体育館のざわめきが大きくなる。本番が、近づいてきてるんだ。わたしが出るってわけじゃないのに、緊張しちゃうよ。体から溢れる熱は、行き場をなくして体中をぐるぐるしてる。
『まもなく、星花女子学園クリスマスイベントを開催いたします、皆様、ご静かにお願いします』
司会者さんの声に、張り詰める空気。みんな、いろいろな発表を楽しみにしてるもんね、おねぇちゃんのいる合唱部は一番最後だけど、それまで退屈ってわけじゃない。他にだって、いっぱい面白いのだってあるし、そうじゃなかったら、体育館の中がぎゅうぎゅうになったりしない。
わたしだって、他のものも楽しむつもりだけれど、やっぱり、頭の中で浮かぶ景色は、現実から浮いてふわふわして、夢の中みたい。
去年は、けっこう遠くのほうにいたから、おねぇちゃんのこと、全然見えなかったんだよね。他の人から頭一つくらい大きいから、どこにいたのかはわかったけど、それでもどんなふうに歌ってるのかなんて全然わからない。わかるとしたら、おねぇちゃんが歌うことが大好きで、その為にずっとがんばってるってことくらい。
知りたいな、もっと。ただ仲良しってだけでもいいはずなのに、その先に生きたくなるわたしがいる。何があるのかなんて、さっぱりわかっていないのに。
司会者さんの開会のことばと一緒に、舞台の幕が上がる。わたしだけ、置いてきぼりにするみたいに。