11-はれない。
大分お待たせしてしまったのです。
わたしが歌うってわけじゃないのに、なぜだか心臓の音がバクバクと鳴る。由佳里おねぇちゃんのほうが、ずっとドキドキしてるはずなのに。
そわそわした心のまま学校に向かうと、まだ誰もイベントのある体育館にはいなかった。おねぇちゃんと一緒に帰るから歩きで行くっていうのもうっかり忘れかけて、自転車で行こうとして……なんて、どれだけ、おねぇちゃんのことばっかり考えてるんだろう。
足元がふわふわして、おぼつかない。まだ始まるまでは時間ならいっぱいあるのに、あてもなく広い校舎をふらふらと彷徨う。
「わたし、どうしちゃったんだろ……」
ぽつりと呟いた言葉は、廊下にただ響くだけ。その答えをくれる人なんて、誰もいない。でも、一人で考えるには、難しすぎるよ。ヒントも、模範解答もない、大きすぎる問題は、離れてくれない。
『好き』だけじゃ、全然言い表せないの、頭の中で浮かぶ想像も感情も、それだけじゃ、一パーセントも伝わらないの。
おねぇちゃんの膝の上に座って、顔の高さが同じになる。近づいた顔は、自然と何か求めて、……そこから先は、もやがかかったように何もわからない。でも、その先を見たいの、二人で。わたしの知らない、もっと深いとこまで、連れてってほしい。……地図もないし、先も見えないけど、それでもおねぇちゃんとなら、進みたいって思えるの。
体育館に向かうと、リハーサルの途中なのか、バイオリンみたいな音と、歌う声のきれいなハーモニーが響いてくる。……ステージに光が当たってるわけでもないのに、なぜかおねぇちゃんだけが、輝いて見えた。あんなに背が高いのに、近くで見てるのに、見間違える訳がない。
なぜだか、見てはいけないものを見てしまった気持ちになって、そそくさとその場を去る。このまま見てたかったような、本番まで取っておきたかったような、……それよりもずっと、心臓に雷でも落ちたような衝撃が響いて、見てられなくなる。
何かを振り払いたくて、廊下を走って戻る、どこに行こうかなんて、考える余裕なんてないよ。あてもなく走って、息が切れて立ち止まったのはどこか分からない。自転車でなら、いくらでも走れるのに、気持ちが晴れるまで。たとえ、地平線の向こうだったって。……でも、それで、私の心の中のもやが晴れるかは、わからない。
止まない雨がないのだって、明けない夜がないのだって、みんな、何度も体験して、その度に空が明るく晴れてくれたからわかるのに。
もう、どうなっちゃうのかわからないよ。こんな気持ち、生れてから出会ったことなんてなかったから。




