10-好きな人。
『約束の空飛ぶイルカ』22話の展開をパク……もとい使わせていただいたのでほとんど頂き物です。
リハーサルも終えて、つかの間の休憩時間。相変わらず元気だな、莉亜ちゃんは。面影を無意識に重ねちゃうくらいに。今日は手ぶらで来てたし、食べるものも何も持ってきてないんだろうな。
「莉亜ちゃん、よかったら食べる?」
「やったー! いいの? いっただっきまーすっ!」
ぱあっと咲いたような笑顔で、突っ込んでくるんじゃないかって勢いで顔を寄せてくるから、思わずたじろいでしまう。
無邪気でかわいくて、同学年の子じゃなくて、なんか妹みたいに思える。やっぱり脳裏に映ってしまう姿も。
「お口に合えばいいんだけど……卵焼きはどう?」
「わーい! 食べる食べるーぅ!」
「初めて作ってみたんだけど……キノコ綴じにしてみたの。一応味見はしたし、おいしかったからどうぞ?」
その瞬間、露骨に嫌そうな顔をする莉亜ちゃん。ピーマンの入った料理を目の前にしたひかりちゃんとそっくりだな、なんて、どうしても出てきてしまう姿を重ね合わせて、かわいいって気持ちが余計に高まってしまう。
「き……キノコ? めめめめ珍しい物作るんだねぇ……。や、やっぱりいいや……」
「あれ? もしかして莉亜ちゃん、キノコ嫌いなの? おいしいのに……。好き嫌いしてたら人生損、だよ?」
半ば強引に口をこじ開けて、卵焼きを入れる。嫌いなんて言って食べないまま、世界を自分で狭くするのはもったいないよ。大げさかもしれないけど、この気持ちは間違ってないはずだ。
「んぐぅ……」
「どう? おいしい?」
「……んむぐ……ぅ」
見るからに嫌そうなのに、吐こうとしないなんて偉いな。つい、甘やかしたくなっちゃう。かわいくて、まっすぐな莉亜ちゃんのこと。
「そうそう、偉いね、莉亜ちゃん。おいしくなかったとしても、口に合わなかったとしても、食べてみなくちゃ分からないでしょ? 自分に合わないなと思っててもちゃんと食べてて偉いね! 次は莉亜ちゃんが好きな物選ばせてあげるから、頑張って食べてね」
こくこくとうなずきながら、まだ口の中をかみ砕いてる。目に浮かんだ涙とか、苦々しげな顔とか、ちょっと申し訳ないことしちゃったな、なんて今さら反省。
ごくん、と、大きく喉が動いて、そのタイミングでおしぼりで涙を拭いてあげる。こんなかわいいのに、泣いてるとこなんて似合わないよね、きっと。
「あり……がとう……。ごめんね、せっかくくれたのに……」
「いいのいいの、食べてくれたことが嬉しいから。莉亜ちゃん、お茶は?」
「うん、飲む! あとね、えーっとね……」
「莉亜ちゃん、他に好き嫌いある? もう嫌いな物薦めないから食べたいの言って?」
お弁当の中身に目移りしていた莉亜ちゃんが、ふと思い出したようにこっちを向く。水筒に口をつけて、それから言ってきた言葉。
「うん、あのね、由佳里ちゃんは好きな人いるの?」
「私はね、あんまり好き嫌いないんだけど、しいて言えばマヨネーズが苦手かな……って、えっ? 好きな人っ?」
最初は飲み込めなくて、ようやく飲み込めた途端に体の奥が熱くなる。何も考えなくたって浮かんでしまう、丸っこくて、人懐っこくて、笑顔がよく似合うあの顔。
「うんうん、好きな人!」
「え、えっとぉ……うぅんっ、げほっげほっ」
あまりにも無邪気で、それゆえにオブラートに包まれない棘が、胸に刺さる。思わず卵焼きを喉に詰まらせかけて、……ああもう、莉亜ちゃんの顔見れないよ。
「そっかそっか、お相手さんは幸せだね! こんなに寛大で優しくて、おまけに料理上手な由佳里ちゃんに愛されてさ!」
「しっ、しーっ! 莉亜ちゃん、声大きいよー!」
「あぁ、ごめんごめん……。ほら、人の幸せってなんかホクホクしない? 嬉しくなっちゃってつい……えへへ」
私に愛されることは幸せ、……か。莉亜ちゃんはそう言ってくれるけど、ひかりちゃんはどう思ってくれてるんだろう。ひかりちゃんは、私のこと、好きでいてくれてるのかな、私と、同じ意味で。
どうしても秘密にしてほしいからって莉亜ちゃんと指切りして、まだ残ってるお弁当を二人で食べて、……でも、いつもと同じように作ったのに、薄いような感じがする。莉亜ちゃんに食べさせた後で自分で食べたときも、変にドキドキもしなくて。
どうしたって、ひかりちゃんは、私にとって特別な存在なんだ。……どうしたら、伝わってくれるかな。
2か月も放置してるとか本当に申し訳なさしかなかった。