第二話、基本に忠実
ランドドラゴン、この森の主である。
最大の武器は全身に纏った頑強な鱗、それは並みの剣では傷ひとつ付けられない恐るべき強度である。
そのランドドラゴンと対峙しているのは赤い鎧の女剣士ローシュ、彼女はメルキド12鬼といわれるメルキドでは最強の冒険者の一角である。
しかしランドドラゴンと個人で対峙するには流石に役不足、メルキド12鬼全員で戦っても勝算は5分といったところだろう。
「メルキド12鬼、赤舞のローシュ参る!」
自分を鼓舞するように言い放つとローシュはランドドラゴンに向かって一気に駆ける。
そして勢いをそのまま剣に乗せた渾身の一撃をランドドラゴン右足首に叩き付ける。
しかし無情にも振り上げたランドドラゴンの右足によって剣は弾き飛ばされてしまう。
「ガァー!!」
体制を崩したローシュ目掛けてランドドラゴンは噛みつきにかかる。
(やはり役不足、これまでか・・・)
ローシュはあきらめ他の3人が少しでも遠くへ逃げられた事を祈り目を閉じた。
「記憶喪失パーンチ!!」
ドラゴンの鋭い牙がローシュの首に到達する寸前、ドラゴンは顔を殴られ身体ごと地面に横倒しにされた。
「だから俺に守られろって、四天王すら秒殺した俺がデカイだけのトカゲに負けんよ」
アクスは当たり前だ!とでも言わんばかりに唖然としているローシュに告げる。
魔物ヒエラルキーの上位のドラゴン種を雑魚のコボルトより下に見るのはどうかと思うが・・・。
「アクス、貴方って万年見習い冒険者って馬鹿にされてた、あのアクスよね・・・」
ローシュは目を大きく見開きアクスに問う。
「んっ?殺気から万年見習い呼ばわりされているが俺って本来そんなに情けない奴なのか?別人じゃないのか?アクスって誰だ!」
男は困惑しながらも自分を否定する。
「だからアクスは貴方よ!間違いない、私が見間違えるわけ無い!」
ローシュは言い切る。
「まぁいい、俺は俺だ、閃光の二つ名だけは明確に覚えている」
「いや、その閃光ってのは初耳なんだけど・・・」
ドシンッ!ババババ!!
おもむろに倒されていたランドドラゴンが起き上がり怒りを露にアクスを睨み付ける。
「ローシュ下がってろ、すぐに片付ける」
そう言われたローシュはメルキド12鬼の誇りを汚された怒りを覚えつつ足手まといだという悔しさも味わう。
「それとメルキド12鬼って・・・なんつうか聞いてるこっちが恥ずかしくなる名称だぞ」
「うるさい、自ら名乗りだしたわけでは無い!勝手についた称号だ!」
ローシュは顔が真っ赤だ、痛いところを突かれたようだ。
「ならば今日から俺も名乗ろう、メルキド13番目の鬼となっ」
それで良いのかアクス!13番目って実質メルキド13鬼で最弱を意味するのでは?
「いくぜランドドラゴン、俺の伝説の糧に成るがよい」
どこまでも悪役よりな発言をしてしまうアクスは斧をかついだ姿勢でランドドラゴン目掛けて走り出す。
「速いっ!!なんて速さなんだ、アクスってこんなに速く走れたのか!?」
ローシュは驚き茫然と見つめる。
「記憶喪失キィークッ!」
アクスはランドドラゴンの右足を蹴り飛ばす。
斧を使わないのは最早お約束なのか?
足を払われたランドドラゴンの巨体は再び傾く
「メルキド13鬼アッパー!!」
傾いたランドドラゴンの右頬に強烈なアクスのアッパーカットが炸裂する。
すると信じられない事にドラゴンの巨体は5メートルほど空に浮かび上がる。
それに追従するかの如くアクスも地面を強く蹴り上空へと跳ぶ。
そして空中でランドドラゴンとアクスが交差する瞬間
「回転ダイナミックキィッーク!!」
地面に叩き付ける様にアクスの蹴りがドラゴンの後頭部に炸裂する。
ドカーンッ!
爆音と共にランドドラゴンは地面に強打し全身をバラバラにしながら息絶えた。
「嘘っ信じられない・・・ドラゴンを浮かせる!?叩き落とす!?秒殺!?」
戦いの一部始終を見ていたローシュは放心状態である。
「浮かせて落とす、戦いの基本だ覚えておけ」
そんなローシュに誰にも実践出来ないアドバイスをするアクスなのであった・・・。