始動
龍の家でひと時を過ごしていた六人。そこで伝えられた狭間からの依頼。余裕気な龍達に対して、不安を隠せない鈴音は・・・
正月に小説・・・というかパソコンにすら触れなかったです・・・遅くなってすみません。それではどうぞ。
六人に動揺の色は無い。
「依頼ですか。今回はどんなご用で?」
まるでいつもの事のように龍は切り返す。
『ああ、あまり面倒な事じゃねぇよ。とあるモンの情報を集めて欲しいんだわ』
「情報、ですか」
狭間と受け答えをするのは龍。閃、隼人、大輔の三人は慣れた表情をしているが、フィリアは龍の横で、緊張を隠し切れない様子で手を固く握っている。
『この辺りにも支部を持っている、魔導兵器やら通常兵器やらを流通している大陸中心の組織があってだな。今回はそいつらの最近の動向を探ってほしい』
どうやら内容は、かなり一般的なものからは逸脱しているものらしかった。裏組織の情報収集。かなり危険を伴いそうだが、その狭間からの「依頼」の内容に隼人は鼻を鳴らした。
「おいおい狭間さんよ。それは少し俺らの使いどころ間違えてねぇか?」
それは自分達が動く必要すらない、という意志表示だろう。
しかしその言葉は楽観的な思考からくるものでも、虚勢からくるものでもなかった。
狭間にもそれは認識していたらしく、まあ、と言って微笑をこぼした。
『ただ情報を集めるならお前らの方が早いだろ?ちょっと頼まれてくれねぇか』
「・・・俺達の支持者の依頼を断る道理はありませんよ。その依頼慎んでお受けします」
龍は狭間に二つ返事で了解して、隼人の方に視線を移した。
隼人は視線に合わせて得意げな表情で笑ってみせた。
『助かる。んじゃ報告の日時だがー』
「明日はまだ学校がありますから。二日後の休日でどうですか」
当然のように龍はそう言う。情報収集ということ以外明細の知れないものだが、龍達の顔には余裕も見えた。
『流石だな。ならそうしよう。いつもの所に詳細の内容データを渡しとく。それじゃあ頼む』
狭間もその提示に疑問を投げかけること無く承諾した。
『じゃ、今日のところはこれで。龍、お前さんに会いたがってる人もいるんだ、なるべく早く来いよ?』
若干からかったような調子でそう言い残すと、狭間は通信を切った。
「・・・。
・・・隼人」
「ん、任せろ。これくらい俺一人で終わらせられるぜ」
通信が切れたのを確認すると、隼人は親指を立てて了解の仕草をする。
「またお仕事・・・?」
鈴音は寂しそうな声で言った。
「まあ簡単なものだ。そう心配することは無いよ」
穏やかに龍は鈴音に言い聞かせる。
「簡単なものっていうけど、危険は危険だよ?私が何か言える事じゃないけどさ・・・」
フィリアも、少なくとも心配そうに、鈴音の意思を肯定する形で、注意を促す。
「分かっている。・・・すまないな、いつも心配をかける」
「う、ううん。私こそごめんなさい。・・・お兄ちゃん達なら、大丈夫だよね」
鈴音ははっとして頭を横に振った。
「悪いな鈴音ちゃん。ま、下手な真似はしねぇよ」
鈴音をフォローするように隼人も苦笑混じりに詫びた。
「・・・しかしそれにしてもだ」
静観していた閃がおもむろに口を開いた。
「珍しいな。狭間さんがこの程度の依頼をしてくるとは」
「確かに。まあ少ないだけで無い事は無いんだが」
大輔も閃に便乗して同意を示す。
「・・・ま、それも調べてみりゃ分かるだろ。杞憂の可能性も多いにあるけどな」
「そうだな。今回は一任する。頼むぞ隼人」
「応よ。ま、情報集めなら慣れたもんだ。・・・こいつもいるしな」
隼人はそう言うと指を二度鳴らし、「彼女」の名を呼ぶ。
「「レイン」、仕事だぜ」
すると瞬間的に隼人の所持していた携帯端末から映像が投影される。
『音声、パスワード認証。・・・お呼びですか、マイマスター』
端末から女性に似た声が発せられる。合成音声のように聞こえるが、それはとても精巧で人間のように抑揚のある声だった。
その光景に全員何もリアクションが無い辺り、これも慣れた事なのだろう。
「ああ、お前んとこに依頼が届いてるだろうから、そいつの「処理」を頼む」
『pi...任務了解。遂行、開始』
話し方は定型文のようだった。
この数年で情報技術は目覚ましい発展を遂げた。人工知能の分野においても然り。
皮肉だが魔術派が生まれた事によりその競争の中で技術の発展速度は従来よりも加速した。
レインと、そう呼ばれたAIも、それによって生み出された叡智の結晶なのだろうか。
「・・・あ、それと」
何かを思い出したように隼人が続ける。
「清掃機のスイッチオンにして風呂の準備と俺の端末立ち上げといてくれ」
『・・・』
流れるようにレインに雑務を任せる。普通のAIであればそれも意に介せず承諾する。そもそもAIに「意」は存在しないだろう、が。
『・・・任務了解。しかしマスター』
レインは受けるに受けたもののどこか渋るような間を空け、さらな続けた。
『確かに私はマスターの住居の約九割を把握、及び管理しています。私めに関わらず使用方法が異なっているとは言いませんが最近マスターは私に依存し過ぎている傾向にあります』
「お、おう・・・」
『少しはご自身で管理することもお忘れなきよう・・・』
「・・・さーせん」
言い終わると携帯端末の映像が元に戻った。
彼女のようにまるで人格を持ち、人のごとく流暢に言葉を発するAIが存在するだろうか。隼人の使う「レイン」は、AIの域を遥かに越えていた。
「・・・AMEATS。相変わらずの調子だな?」
レインとのやり取りを見ていた大輔は、可笑しそうに言った。
「AMEATSじゃねえ、レインだ。・・・口うるさくはあるが、まあいい相棒だよ」
「すごいよねぇ・・・どういう構築されてるんだろ・・・」
フィリアは興味と関心に眼を光らせている。
「・・・それじゃあ俺は帰る。さっきの仕事もあるしな。また明日にでも集まろうぜ」
「そうだな。俺も今日の所は帰るとしよう。・・・大輔」
「おーけー。それじゃあ今日はお開き、か」
隼人の言葉を合図にして、閃達も動き始める。
「ん・・・そうだよね。それじゃ龍、また・・・明日」
少しフィリアは名残惜し気に、龍に手を振る。
「ああ。またな」
龍は玄関まで行き、四人が帰るのを見送った。
「さて、と。鈴音、俺達も夜の支度を・・・鈴音?」
玄関の扉が閉まり、龍は振り返って鈴音に声をかけたが、鈴音は俯いていて反応が無い。
「・・・。お兄ちゃん、私にできる事があったら、何でも言ってね。お兄ちゃんが楽になるように、頑張るから」
「鈴音・・・」
自分の想像よりも、鈴音は心配していたのだと、龍は自覚した。
ありがたさと同時に、それを理解できない己に、龍は何処か後ろめたさと自虐の念が湧いた。
「・・・ありがとう。鈴音は優しいな」
だがそれを表に出すほど愚かでもない。
柔らかい鈴音の髪をそっと撫でる。
「ん・・・ぅ・・・」
鈴音は誘われるように龍に抱きついた。
暫く無言のまま、二人はその場で止まっていた。
「・・・さて、支度をしよう。遅くなってもいけないしな」
「・・・うん。私、夕飯の準備してくるね」
鈴音は龍から離れると、リビングへかけていった。
その後ろ姿を、龍は眺めていた。
「・・・すまない」
―――創造都市。ここに存在する圧倒的な技術の数々は、法をも越える。秀でた技術は時に人を支え、人を滅ぼす。
誰が何者であるか等、知り得なくて当然なのが創造都市。常に影がはびこるのが、創造都市の姿なのだ。
ようやく零落者も出せました・・・コード・ゼロも大賞出す予定なのにまだ一章が完結していないとは。
・・・駄目な気がする。
ま、まあ正月も終わりましたしこれからはペース上げ・・・られたらいいなぁ、と。
こんな調子ですが、どうかこれからもよろしくお願いします。