龍の家にて
龍達五人は高校でのHRを終え、成り行きで龍の家へ向かう事になる。
そこにいたのは龍を慕う龍の義妹、鈴音がいた。
六人で穏やかなひと時を過ごす。
・・・だが同時に、龍達は「本来の役割」がために動き始める。
自己紹介を終えると九十九から幾つかの作業を言い渡され、それを終え次第、SHRは終了した。
そのほとんどが端末を使うもので、龍は早々に消化した。こうしてかつては書類によるものだった事が、端末一つに収束した事により、持ち運ぶ量も以前よりずっと少なくなった。
早々に事を済ませた龍はもう片付けを終えて、廊下に出た。
「ふいー終わった終わった。んじゃ帰るか」
ほぼ同タイミングで隼人とフィリアもホームルームを出てきた。
「閃達とは何処で集合するの?」
「一応校門って言ってあるぜ」
他のクラスを見てみると、多くの生徒がもう出てきていた。
「・・・もう行ってるかもね。行っておこう?」
それを見てフィリアが提案する。二人はそれに頷き、階段を下りた。
フィリアの予想は当たっていた。校門の前に二人はいた。
大輔は携帯端末を見ながら閃に何やら話しかけているが、閃はそれにすら無関心そうに返事をしていた。
「・・・む、来たか」
「おっつー。それじゃ行くか」
三人が二人に近付くと、閃は真っ先に気付いた。
「そっちもお疲れ。連絡は届いてるよな?」
「ん、ああ・・・龍の家に行くんだろう?付き合うぞ」
閃は何の淀みなくそう言った。勿論大輔も同じように頷いている。
「・・・おい」
ただし知らない者が約一名いた(察していなかったわけでは無い)。
もう珍しい事でも無いのだろう、龍はあきらめ気味に溜め息をついている。
「来ることについては言わないが・・・「あいつ」に連絡は?」
「大丈夫だ、そこについては全く問題ない。」
龍の問いに隼人は即答した。一瞬龍の眼が鋭くなったが、隼人の返事を聞くとそれは無くなっていた。
住宅街と呼ばれている区は大体七、八区にあたり、龍の住宅は八区にあった。区ごとに一二箇所駅が設置されているため、それなりの規模がある創造都市内でも交通面で苦労する事は無い。帰りも龍達は行きと同様に電車を使って、八区へ戻る。
駅から徒歩で約十分ほどで、五人は一つの住宅に着いた。十分程度、一人なら別だが五人で談話をしていればすぐだ。
少し駅からは離れているが、その分他の住宅や商店も少なくなり、緑も多い場所で、何より一般の住宅というにはかなり規模が大きく、見た目も整然としている。
龍は扉の前で横に取り付けられているパネルにカードキーを差し込み、パスワードを打つ。すると扉のロックが解除される音が聞こえた。
扉を開け、中に入った。四人も龍の後に続いて中に入る。
玄関周りは静かだった。
奥の部屋には明かりが点いていて、そのあたりからトテトテと誰かがこちらに来ているのが分かった。
次の瞬間、恐らくリビングルームと思われる部屋から一人の少女が飛び出してきた。
「お兄ちゃんお帰りなさい!」
その少女は天真爛漫な笑顔で龍達を出迎えると、そのまま龍に抱き着いた。
「ああ、ただいま鈴音」
龍はその勢いに怯む様子も無く少女を受け止め、柔らかな少女の髪を撫でた。
「鈴音ちゃん、久しぶりー」
「フィーお姉ちゃん、皆もいらっしゃい!」
フィリアや他三名にも鈴音という少女は笑顔で出迎えた。
「お昼ならもうすぐ出来るから、ちょっと待っててね」
そう言って鈴音はまた部屋へ先に戻った。
「それじゃ、お邪魔しまーす」
五人はリビングに入った。
外見を裏切らない清潔さで、そしてやはり広い。
大型のテレビが一台、リビングの中心にはテーブルとソファ。どれも綺麗に整えられており、無駄な物がほとんど無い事もあり、それがリビングをより広く思わせている。
龍以外は荷物を隅に置き、龍は二階に上がって数分で着替えて降りてきた。
五人でテーブルの周りに集まる。
横にあるキッチンでは鈴音が昼食の準備をしている。食欲をそそる香りが、リビングにも流れてくる。
閃とフィリアはキッチンに向かい、鈴音を手伝いに行った。
「しっかりしてるなぁ・・・顔は似てねぇケド、そういうところは結構似てるのかもな?」
隼人が鈴音を眺めながら、横目で龍を見た。
「そもそも血は繋がっていないからな・・・だが、確かに出来た義妹だよ、鈴音は」
隼人の言う通り、龍と鈴音は似ていなかった。歳は十一二歳くらいに見える。背中まで伸びている紅く、ふわふわとやわらかそうな髪と、大きな瞳。どちらかと言えばフィリアと姉妹といった方が違和感が無い。無論、フィリアとも血は繋がっていないが。
「はい、出来たよー。どうぞどうぞ!」
いつの間にか鈴音が料理の盛られた皿を運んできていた。
一通り運ぶと、鈴音は龍の横に座る。閃とフィリアもテーブルの周りに座った。
「とりあえず飯食ってからだな。いただきまーす」
「鈴音、いつもご苦労様」
「はぅ・・・えへへ、お兄ちゃんのためだから!」
「・・・そうか」
龍に褒められて鈴音は少し頬を赤くしながら、上機嫌そうに笑った。
それを見て、龍も少し、笑顔を作った。
「・・・まあ、案外こういう方が合ってんのかもな」
隼人がひっそりと呟いた。横にいた大輔は直接答えなかったが、二人をほほえまし気に見ていた。
食事終わり、後片づけは キッチンに備え付けてあるオート洗浄機に任せて、五人はリビングでコーヒーを飲んでくつろいでいた。
コーヒーを一口飲み、息を吐く。
「・・・こういう何も無い時間もいいもんだな」
音の少ない、落ち着いた雰囲気が、部屋に漂っている。
「確かにな・・・ま、何だかんだで俺らは高校生になったわけだが」
「・・・進学する気は、無かったのだが」
閃はそう呟いた。彼や龍が高校で興味を示していなかったのは、こういう面があっての事なのだろうか。
「まあまあ閃もそう言うなって。狭間さんの勧めだ、断るわけにはいかねぇだろ?」
「・・・それはそうだな」
閃は少しだけ口元を緩めた。
「それにお前たちもいる・・・退屈はしない、か」
「どういう意味だそれ」
「退屈しない」という言葉に別の意味を感じて、隼人は閃を探るような眼で見た。
そのままの意味だろ、と大輔は笑う。
そんな様子を、龍と鈴音、フィリアは一緒に傍観していた。
「・・・そういえば、連絡まだ来ないね」
「ああ・・・確かに。そろそろ来てもいい頃だが」
龍が壁に取り付けられた通信機器の方を見る。誰かからの連絡を待っているらしい。
その時、通信機が良く響く音で鳴った。
「噂をすれば、かな?」
三人は通信機に近付き、龍が起動させた。
『や、繋がった繋がった。よお龍、お疲れさんだな』
画面に一人の男が映される。
「お久しぶりです、狭間さん」
画面の向こうの男に龍は小さく礼をした。この男が、隼人の言っていた狭間、という者の様だ。
『お、フィリアちゃんもいるのか。それじゃ、いつものメンツは揃ってるな?』
「ええ、まあ・・・」
いつものメンツ、は後ろで何やら騒いでいる三人と龍、フィリアを含める五人と鈴音の事、だろうか。
龍は狭間の判断基準に言いたげな表情をしたが、事実無根ではない所為か潔くそれを認めた。
『あ、なら画面変えてくれないか?』
「通達事項ですか?了解です」
龍は機器を操作する。すると通信機の画面に表示されていた映像が、テレビの方に切り替わった。
『よし変わったな。はは、お前らも相変わらずのようで』
画面が変わり、カメラの位置も切り替わったようだ。
「あ、狭間さんじゃないすか」
「・・・お久しぶりですね」
「ちーっす」
テレビに映った狭間に、三人も挨拶をしている。大分崩した口調ではあるが、狭間に対して敬意を示してはいた。
『機工派は全員そろっている、と。んじゃ先ず、進学おめでとうと言っておこうか。まあお前らなら楽勝だとは思っていたが』
「ありがとうございます」
全員の代弁として龍が礼をする。
「それで、本題は何すか?」
狭間がそれだけの為に連絡してきたわけでは無い事を、見透かしたように隼人は言った。
『話が早いのはいいが、なんといかまあ・・・いいか。じゃ、分かってると思うが』
隼人の反応に狭間は苦笑しながら続けた。
『お前らにまた、依頼したい事がある』
若干この一週間が長いように感じた黒雪です。
ただ小説のペースは相変わらずですが。新章版ではもう既に戦闘入ろうとしています。
なんだか前の話だと、龍達の立ち位置が掴みづらそうだったので。
これからもこんなペースですが、よろしくお願いします。