入学式
この前書きに話のあらすじ書けばいいのではないかと思い始めてきた今日この頃。
次話からやってみようかなぁ・・・。
少し時間がたった事を確認すると、三人は会場である講堂に向かう。
講堂の前に、受付が設置されていた。
テーブルの上にパネルと何かの機械が置かれている。教師らしき人が一人配備されているが、その人がするのは挨拶くらいで、受付はほぼ全て機械任せである。教師は恐らくトラブル担当だろう。
「フィー、受付無視んなよ?不在扱いされるぞ」
「し、しないよっ!?」
そう言いつつ若干図星のようだった。
受付の位置を把握していないようだったフィリアに先に察していた隼人が場所を指して知らせる。
それを見てフィーはそそくさとその方へ走っていった。
「浮かれてんなぁ・・・」
そんな少女の後姿を見ながら、苦笑を浮かべる。
「まあ、フィーにはあれくらいが丁度良いだろう」
「はっ、違いねぇ」
龍の言葉に、隼人は笑って頷いた。
フィリアに続いて二人も受付に向かう。
パネルに番号を打ち込み、横にある機械にカードを通す。その後、受付にいる教師に礼をして、三人は会場に入った。
会場に入ると、明らかに外と比べて音が少なくなった。
聞こえるのは控えめな会話くらいで、外からの騒音は見事に遮断されている。
「・・・お、あれは」
隼人も場をわきまえているのか、抑えた声量で、会場の端にいる男子生徒二人組を見た。
隼人の視線に気付いたのか、その二人は三人を見ると、三人の元に向かってきた。
「おはよーさん。意外と早かったな」
「・・・」
一人は声量を抑えながらも聞きやすい声で、三人に挨拶をした。もう一人は無言でおはよう、という意味だろうか、小さく手を挙げた。
先に挨拶をしたのは霊山 大輔。黒髪のオールバックと鋭い眼が特徴的な少年で、体格もこの中では、最も長身でしっかりしている。
もう一人の少年は雨宮 閃。グレーの髪をして、眼はスッと伸びている。先程の反応からも見て取れるが、かなりもの静かな雰囲気を漂わせている。
「二人も、もう入ってたんだね」
「どっかの誰かさんみたく無関心そうな奴がいるからだろ」
そう言って隼人は閃を見る。
「・・・大丈夫だ。そのどっかの誰かさんよりはある」
すると閃はそれに対して無感情な声で言った。
恐らく当人であるそのやり取りについては龍は何も言わず、一人会場内を見渡していた。
会場内には無数に椅子が設けられている。前方側は綺麗に二つのまとまりを作って椅子が並べられていた。
「座る場所は・・・俺達は前五列目までの右側、だったか」
「クラスで別れたりはしないんだろ。今の内に座っとこうぜ」
最近では小中高関係無く入学式というのは随分と簡単なものになった。事前に配られていた予定表にも入学式は一時間と少し程度の時間しか取られてない。
クラス区分が厳格に区切られているものと言えば工学科か魔術科であるかのものくらいだ。
龍は五人で並べそうな席を見つけて、その端に腰かけた。その横に隼人達が座っていく、のだが。
「「「・・・」」」
隼人、閃、大輔は列に入る前で制止した。
「え、えと・・・何で三人共行かないの・・・?」
後ろにいたフィリアは引き気味に三人に言う。
「・・・」
だが返答は無い。
「えっと・・・」
「・・・」
「その生暖かい笑い方止めてよぉっ!」
三人の視線に耐えられなくなった様子でフィリアは素早く龍の横に座った。
「横失礼するね!」
「ん?ああ・・・」
若干語感が強まっているフィリアに龍は疑問気な顔でフィリアを見ている。
フィリアが龍の横に座ると、三人は二人の横にようやく座った。
開式まで数十分あった。
早起きだったのか、フィリアは座ってからうとうとし始めた。
「・・・始まったら起こすよ」
そんなフィリアに龍は気遣う様に声をかけた。
「ん・・・ありがと」
そう言うとフィリアは息を一つ吐くと、睡魔に導かれるままに眠りに落ちた。
それを確認すると、龍は鞄から本を取り出して暇つぶしに読み始めた。
隼人は携帯端末を使って何かを調べている。創造都市内にある高等学校のほとんどは例外もあるが基本的に授業以外での端末の使用は認可されている。実力を重視し規律を最小限にしているのは、独立した運営を行っている創造都市内ならではと言えるし、それだけ特高に入るのは生半可では無理という事を示しているのだろう。
周りには隼人以外にも携帯端末を使っている生徒が何人かいた。
龍が読書を切り上げて辺りを見ると、もうほとんど席が埋まっていた。
隣で寝ているフィリアの肩を叩いて、フィリアを起こす。いつの間にか他の三人もそれぞれ手を止めて、開会を待っていた。
間もなくして入学式が始まる。
生徒全員の名前を呼ぶなんて事もなく、校長の祝辞と新入生総代の答辞の後、簡易的なスケジュール確認をして終わりだ。基本的な学校の説明なら前日に終わっていた。
第一特高には工学科と魔術科が存在し、総代はその科に関係無く首席の位置にいる者が務める。
今回はどうやら魔術科の生徒だったらしい。それも漆の様に黒く艶やかなロングヘアにはっきりとした瞳の少女で、フィリアとはタイプは違っているが良く整った顔立ちをしていた。
龍にとってはだからどうという事は無かったのだが、入学式が終わると、早速隼人がその話題を出してきた。
「今年の総代の娘、綺麗な人だったな。姫崎・・・だっけ?お嬢様って感じが良く分かるなぁ」
「・・・俺らとはまるで対極だな」
隼人に対して閃は抑揚の無い声に何処かあまり肯定的でない感情を含ませていた。
「まあそう言うなよ閃。どうせ魔術科だ。俺らには関係ねぇだろ?」
閃の様子を見て大輔がフォローする。元々感情表現が薄そうな閃は、ただ頷いて返した。
入学式が終わってから、生徒は割り当てられたホームルームに移動していっている。
「俺と閃は同じだから先行っとくぜ」
そう言い残して先に閃と大輔は工学科本館の方に歩いて行った。
「俺らも行くとしよう」
「了解だ」
ホームルームに移動すると、机に名前の書かれた札が置かれていた。
自分の名が記されている席にそれぞれ座る。三人はそこまで離れていなかった。
SHRがあるらしく、それまでは自由時間という事で龍は再び読書を始める。部屋にいた他の生徒達は恐らく既知の間柄の人と話していたり、相変わらず携帯端末を使っている。
そしてその中の少数が、龍の呼んでいる本を若干気にしている様子だった。
最近、紙の本というのは珍しい、というのは言い過ぎだが、読む人はかなり珍しくなってきた。
本を読むなら端末で電子書籍を使えばいいし、新聞などもそうだ。
第一特高にはかなり規模の大きい図書館があるらしいが、特に創造都市内には書店というものはもうかなり少なくなっている。
龍も読書に電子書籍を使用しないかといえばそういうわけでもない。
隼人も龍が厚く、古そうな紙の本を読んでいるのを眺めていた。
「お前、良くそれ読んでるよな。今時珍しい・・・別に機械音痴でもないだろうに」
第一特高の工学科の人間にそれは愚問であっただろうが、龍は気にする様子もなく「それはそうだが」と返した。
「大事なものだからな」
そう言うと龍は本を閉じ、丁寧に鞄にしまい込んだ。
「ねぇ、SHRが終われば解散らしいけどどうする?」
きっと放課後の事を言っているのだろう。昼も過ぎぬままに今日は終わるので、かなり時間には余裕がある。ただ龍には特に予定は無かった。そんな時でも基本龍の答えは決まっていた。
「昼飯なら付き合うが・・・その後は帰るぞ?」
隼人とフィリアは意見するかと思いきや、特に何も言うことなく納得している。
「まあ学校見学しねぇならそうなるわな」
「・・・ん?」
「部活動見学もすぐ出来ないしね・・・確かにやる事ないよね」
フィリアは純粋に肯定しているようだが、隼人には何故か含むものがあるように感じられた。
ただあえてそれを詮索しない。それが無意味であることは龍が良く知っていた。
「まあ、とりあえず飯は全員で食うか。連絡しとく」
隼人はポケットから携帯端末を取り出すと、素早く、慣れた手つきで端末を操作する。
丁度それが終わった頃に、ホームルームに一人の男性が入ってきた。
生徒、という身形では無かった。二十代とまだ若い男だ。体格は龍や隼人らと違いは無いがスーツを身にまとい、余裕を持ち毅然とした態度は如何にも教師らしく・・・他の生徒とは違う事を表していた。
「もうすぐHRを始めます。席に着いて下さい」
一見クールで堅そうなイメージからは少し離れた、穏やかなトーンで男は呼びかけた。
物腰が柔らかい人なのか、それとも新入生に対しての気遣いなのかは知れないが。
隼人とフィリアも素早く席に戻っていた。
「・・・ふむ、時間ですのでSHRを始めます」
時間を見て、男はSHRを始めた。
「では先ず定番の自己紹介でもしましょう。私の名前は九十九 和弥と言います。教師としては日が浅いですが、皆さんとこれから共に学べる事、楽しみにしています。
・・・ではそうですね、簡単でいいので自己紹介をしていって下さい。情報技術が発達しても、人同士のコミュニケーションは必須です。特に我々工学科・・・大きく言って機工派には」
九十九の言葉には説得力があった。現状魔術が「個」が持つ力であるのに対して、機工派の思想は「多彩な智の結晶」である事。勿論才能ある者が上層に立つ事になるのは結局変わらないが、機工派は「個」だけでは無く「数」も重視している、という事だ。
本人曰く日が浅い、らしいがそんな素振りは全くと言っていい程見受けられない。緊張した様子は表に出さず、動作の一つ一つにもブレが無い。
(教師「としては」か・・・)
そんな様子を見て、ふと龍は九十九の言葉を思い返す。あの言い回し方から察するに、教師とは別の職を持っていた、或いは持っているのだろうか?
「次は・・・黒鉄君、か。お願いします」
九十九に呼ばれ我に返る。
「・・・はい。・・・黒鉄 龍といいます」
元より龍は人間観察の趣味等持ち合わせていない。簡単に挨拶を述べた後には、九十九への意識は途切れていた。
また遅れた黒雪です。零落者は描写を考えるのにかなり苦悩する所為か、他よりやけにペースが遅くなってます・・・。クリブラですらもう三千文字行っているのに。次に出すのはコード・ゼロですね。大きく展開も動くので良ければそちらもよろしくお願いします。
それでは最後までありがとうございました。