新章・プロローグ
お待たせ・・・している人はいないと思いますが、ようやく零落者再開です!
創造都市。科学技術が急激な発展を遂げている現代において、主にそれらの研究と更なる開発を目的として創られた街の事を、そう俗称されている。
技術の発展と共にこういった工業地域に似たものが形成されていく事は必然と言っていいかもしれない。
ただし、創造都市の場合はその面を含みつつ、だが本質は別にあった。
創造都市、というのはただの俗称だ。正式名称は「魔工技術開発特別区画」。
名前にもあるがこの区画が創られた理由は、数十年前に発見された「魔術」という、それまでの科学理論を根底から覆し、種によっては単体で従来の技術を凌駕せしめる超常的な力の存在の影響が大きかった。
汎用性もあり、「武力」としても底知れぬ可能性を見せる新たな技術に、当然人々はそれに惹かれ国家単位で魔術を開発を進めていった。
だが魔術の開発が進むにつれ、問題も多く発生した。
魔術自体の問題としては、それは人が個人で持つ力であり、能力に個人差がある事。現段階では機械等へ流用する事が厳しいという事だ。
そして魔術が生まれた事によって生まれた問題が、魔術を手にした事によって過激な思想を加速させる者が増えた事に、それらの事を含み魔術が持つ危険性と、課題の多さに疑問と不信感を抱く研究者達が中心となって、魔術の発展に反対する者達が現れた事だ。
それらの人々は、ただ言葉で言うのではなく、魔術を「総合的」に超える機械、情報等の科学技術を開発し「実力」で魔術を否定しようとする。
この勢力は「機工派」と呼ばれるようになった。
それに対して魔術を発展させようとする勢力を「魔術派」と呼んだ。
その両勢力が水面下で火花を散らす中、数年前に創建されたのがここ「創造都市」というわけだ。
そしてそれと同時に、魔術派、機工派の対立を解消し、協力関係を持とうとする者達も現れた。
徐々にそれに賛成する者は数を増やしているものの、対立した思想理念を汲み理解しようとしない人間は何時の時代にもいる様で、反対者の方がまだまだ多い。
その中でも狂信的な者からは嫌悪と敵意すら向けられる。
創造都市には魔術派と機工派の人間が入り混じっているが互いの相違を意識する者は少なくない。
特別の名の通り、創造都市は魔術や機械の実験が頻繁に行われており、最新の技術が集結する場とあって事件も多い。つまりは不安定な状態で創造都市は成り立っている。
だから、これも必然と言えばそうなのかもしれない。
現在この国に三つ存在する創造都市。
その中心地と言ってもいい第一区。その裏で生ける彼らの様な者達が存在する事は。
創造都市の特徴の一つとしてここは都市型であり、一般人でも普通に生活している、という点がある。
様々な商店も設置され、街の外観は外の街とほとんど違わない。
裏ではどうせ相も変わらず研究者同士の静かないがみ合いが行われているのだろうが、街にいる住人がそんな事を気にする事も知る由もなく。今日も至って創造都市は穏やかだ。
日々の営みの中で魔術派、機工派などとのたまう輩は全く・・・いないわけでは無いが、ほとんどの人が心の内に含むものがあったとしても、それを心の内だけに収め表には出さない。
区の中心地は研究所やオフィスビルが所狭しと建ち並び、その外郭周辺には機工、魔術においての有力者の私有地が存在する。この一帯は中央区域と呼ばれている。
それ以外に関しては先の通り、平凡な街並みだ。
創造都市内には第一区、二区と、適当な区分しか存在しない。中央区域もそう呼称されているだけの区域で、区分では第一、二区にあたる。
他の場所については、賑わう場所は繫華街。住宅の多い場所は住宅街。そんな風に区ではなく後付けの名前で呼ばれている。
住宅街も繫華街ほどではないにしろ表へ出てくる人は少なくない程にはいる。だがそれも早朝となると流石に物静かだった。
そんなほとんど人の気を感じない早朝の住宅街の通りを、一人の少年が歩いていた。
真新しい制服に身を包み、髪も整えられている。一目見て、何処かの新入生である事が容易に想像できる。
体格などからして、高校生位の様に見える。黒髪に黒い瞳。特にこれといった特徴のある顔立ちはしていないが、ルックスは十分に整っている。
少年は眠気とも怠惰ともとれる眼をしながら住宅街を過ぎていく。
それから少しして、少年は駅に入り、電車に乗り込む。通勤のピークからずれている所為か、駅の中にも人は少ない。そもそも創造都市は面積や中心区域の様に巨大な建物が多く建てられてはいる割に人はそれほどではない。首都やそれに匹敵する「外」の大都会に比べれば明らかに少ない。
それでもピークになると電車も多く出るし人も増える、が、少なくともこの時間、駅に人が少ないのはいつも通りだ。
移動中、昔に比べれば揺れも音もほとんど無い。「動いている」という感覚は流石に残るが、人の少なさもあって、電車の中は時が止まっているかのような空間となっていた。
数分で電車は繫華街・・・第五区駅に着く。
駅を出て更に少年は繫華街を抜ける。駅から一直線に歩いて、他の施設からは少し距離を置いたところに、校舎のような建物が見えた。
「第一魔工特別高等学校」。略して第一特高と呼ばれるその高校は、早朝ながら何時になく騒々しかった。
今日は入学式だったようで、少年の他にも新品の制服を着て、若干初々しさも感じさせている生徒が何人もいた。ただまだ時間的に余裕があるのか、会場に入ろうとしている生徒はあまり見えない。
校門をくぐってすぐの校庭で疎らに生徒やその肉親らしき人達が集まっているようだ。
少年は校門の横で携帯端末を開き事前に配布されていた入学式の案内データを読み込む。
暫く学校内と端末を交互に見比べた後、大体の位置を把握すると少年は端末をしまって会場である講堂へ向かって歩き始めた、のだが。
その直前に、少年の背中を誰かがちょんちょんと軽く突いた。
足を止め後ろを向くと、一人の少女がニコニコしながら立っていた。
「おはよ龍。いい朝だねっ」
「・・・ああ。おはようフィー」
少女は少年に手を振りながら明るく挨拶をした。龍と呼ばれた少年も静かに、けれど相手に聞こえる程度の声で挨拶を返した。
「はあ・・・フィーは朝っぱらから元気だなぁ」
少女に続いて、龍とは別の少年が欠伸をしながら二人の横に寄ってきた。
「よぉ龍。はよー」
「ああ」
龍はその少年にも適当に挨拶を交わす。
龍とは違って少年の黒髪はあまり整っているとは言い難く、目は龍よりもはっきりしている。
ただ申し訳程度に服装等は整えてあった。
「私達も高校生かぁ。工学科、どんな事やるんだろうね?」
少女の方は興味津々といった様子で、二人とは対照的に興奮した様子だった。
フィー、と呼ばれた少女はかなり特徴的な見た目をしている。
先ず一番印象的なのはその赤い髪。ショートカットながら柔らかさを感じさせるしなやかな髪と同じように赤い大きな瞳と良く合っている。
やや童顔、幼い顔立ちではあるがその容姿は可憐と言えば誰もが認めそうなものだった。彼女の明るい雰囲気が更にそれを引き立たせている様にも見えた。
「新しい環境、生活、新しい制服!ね、龍この制服どう?似合ってるー、かな?」
フィーはターンをしたりして意気揚々としている。
「ん・・・ああ、似合っているよ」
完全に浮かれているフィーを苦笑気味に褒める。フィーはそれを聞いて上機嫌そうだった。
少年はその様子を見て「ブレないねぇ・・・」と呟く。
「あ、そうそう龍クラス分けは見た?」
そんな少年の呟きはフィーには聞こえてはいない。
「クラス?・・・ああ、そう言えば見ていないな」
フィーに言われて龍は端末をもう一度開こうとしたが、その前にフィーが口を開いた。
「私と龍、同じクラスだったよー!」
一層嬉しそうにフィーが言う。
「・・・?わざわざ俺のも調べたのか?」
龍はふと疑問に思った事を口に出した。
すると龍のその反応に、フィーの顔が紅潮し、動きがぎこちないものに変わる。
「え、えぇとほら、私と龍の苗字って頭文字近いから、さ。た、偶々気付いて・・・」
「ああそうか。確かに言われてみればそうか」
龍の姓名は黒鉄 龍。フィーは霧崎 フィリア。フィーというのはあだ名だ。
そうなると五十音順では二人はかなり近い。それなら友人の名前となれば気付いても不自然ではない。
全く不自然な理由ではないのに、フィーは何故か異様に慌てふためいている。
「・・・ふ。ま、ここに来てる時真っ先に調べてたけど」
「わーっ、わーっ!」
少年が何か言おうとしているのをフィリアは必死に遮る。
「・・・。あ、ちなみに「何で省かれたか知らないが」俺も同じだぜ」
「うぅ・・・隼人のいじわる・・・」
フィリアがジト目で少年を見る。若干涙目だ。
「おい隼人、あまりフィーをいじめるなよ?」
「くく・・・ワリィ」
と言いつつ龍は理由が分かっていないのだが。隼人、姓名天城 隼人は微笑を浮かべている。
「ふむ・・・で、この三人は同じ、という事か」
「だな。で龍、まだ時間はあるが、どうする?流石に施設内は不味いだろうけど、一応回れるぜ?」
クラスの話が落ち着いた事を確認すると隼人は端末を片手に散策を提案する。
「別に良いが、後で学校案内くらいなら今でもあるんじゃないのか?」
「お前少しくらい興味関心持てよな・・・」
大抵の新入生なら新しい環境への緊張、不安、興奮を感じていそうなものだが、龍からは全くと言っていい程興味の色が見えない。
結局雑談で時間を潰し、見て回るのは後回し、という事になった。
これだけ引っ張ってこのくらいしか書けませんでした・・・写すのって意外ときついですね。
でもやっぱり自分は色々話増やしてますがこれが一番大切なものだと、書いていて感じましたね。
かなり変わってます、よね?フィリアは読者さん的に気に入っていただけましたでしょうか?あ、静葉は入れようとしたんですが、話的に複雑すぎるのもあれかと思って断念しました・・・。
そういえば再開して気付いたんですがこれだけ伸ばしていたのにブックマークしてくださっている方、少しずつ増えてるいるんですね。減っていてもおかしくないのに・・・本当に、感無量です。
これからも頑張って少しでも早く出していきたいと思っていますのでよろしくお願いします。