第7話
さて、あれからも同級生達の働く場所へと顔を出して、軽く再会を喜び合った。
因みに、再会した中で俺が一番びっくりしたのはバス運転手の会田さんだ。今でもちょっと珍しい女性のバス運転手な会田さんは、何と異世界でもバスを運転していた。
何でも、召喚による影響かバスが精霊化したそうだ。意思を持ち、自分の気分次第で人の姿を取ったりバスの姿になったり出来るらしい。因みに、人の姿は幼女だった。製造年数的にまだ五年も経っていないから、相応の姿になったんじゃないかって話らしい。
で、そんな精霊化したバスを運転して会田さんはダンジョンへと冒険者を送り届けている。この国の近くにダンジョンが存在しており、ここを拠点としている冒険者(戦闘派)はそこで日銭を稼いだり己の腕を磨いたりしているそうだ。
近くと言っても、徒歩で二時間以上かかる距離なので、意外と遠い。そこで会田さんがなんなら送りますよって冒険者ギルドと契約して専属の送迎バス運転手となった。
道中にはモンスターも出るらしいけど、そこは精霊化したバス。強度も並みのバス以上となり、更には魔法による迎撃さえも可能となった、いわば動く要塞と化しているので安全は保障されている。しかも、悪路でも普通に走れるときたもんだ。冒険者からかなり重宝されているそうで、バス内で冒険者同士で騒ぎを起こしたら他の冒険者に叩き出されるそうな。
何か、物凄く順応してるなって、思った。
で、顔見せは会田さんで終わりとなった。今日で全員と会えた訳じゃないけど、会えないのだから仕方がない。
会えなかったのは琴音を含めた同級生の女子三人。どうやら【転移】で遠くに行っているみたいで、帰ってくるのも明後日くらいになるとの事なので残念ながらまた今度と言う事になった。
まぁ、琴音とは一応顔合わせはしたけどさ。出来れば今日中に色々と弁明したり謝ったりしたかったなぁ。
そして、城下町観光も終わり、麗良とも別れる。
「じゃあ、また」
「おぅ」
麗良は手を振ってすたすたと冒険者ギルドへと向かって行った。
さて、では俺も集合場所に行くとするか。
帰りもシンヨウが迎えに来てくれる。と言うよりも、シンヨウもこの城下町にいるらしく、帰る時間になったら集まろうと言う事になっている。因みに、集合場所は城門の前。一応、城門を守ってる兵士さんには言ってあるので、城門の前で待っていても変に思われない……筈。
「お、もういいのかぃ?」
城門に着くと、既にシンヨウがそこで待っていた。手にはここに来た時には持っていなかった大きな紙袋が何個も携えられている。
「うん、皆元気そうだった」
「そうかい、そいつはよかった」
じゃあ、帰るか、とシンヨウは口笛を鳴らす。すると、空から金色の雲が降りてくる。この金色の雲は筋斗雲だ。雲なのに意思を持っていて、ジェスチャーによって意思疎通が可能だ。大きさはキングサイズのベッドくらいで、仙人達が全員乗れるくらい広い。
因みにこの筋斗雲、普通の人は乗れない。乗ろうとしても、普通の雲に触る感じで突き抜けてしまう。なので、この筋斗雲で蓬莱に初めて行く時にはキントウにおんぶされた。そうしないと、俺を連れて行けなかったから。
何でも仙気を持っている者だけがこの雲に触れるそうだ。なので、今の俺なら普通に乗る事が出来る。
「じゃあ、行くぜぃ」
「うん」
俺とシンヨウを乗せた筋斗雲は、シンヨウの合図によって高度を上げる。城を見下ろすくらいまで高く上がると、蓬莱に向けて飛んで行く。筋斗雲のスピードはかなりあり、船で四時間かかる距離でも僅か二十分で着いてしまう。その分、風圧とか凄いけど、筋斗雲がガードしてくれるので快適な空の移動が出来る。
空の旅は特に問題も無く、スムーズに蓬莱の山の頂に到着。
「ありがとよ」
「サンキューな」
俺とシンヨウは筋斗雲から降りて労いの言葉を投げ掛ける。筋斗雲は『気にすんな』とばかりに雲の一部を伸ばして横にぶんぶんと振った後、ふよふよと空に飛んで行った。
山の頂には仙人達の住処である屋敷っぽいのがでんと建っている。一階建てだが天井までの高さが優に五メートルはあるし、部屋もかなりの数があってだだっ広い。廊下の幅も来客に対応する為にかなり長い。基本的に土足のまま入るけど、一部は靴を脱いで入る部屋もある。
「で、雅は一体何を買ったんだぃ?」
廊下を進んでいると、隣りを歩くシンヨウが俺の持つ紙袋を興味深げに見つめる。
「フルーツタルトですよ。動物性のものは全く使っていないんでお腹の心配せずに食べられます。ちゃんと皆の分買ってあるんで」
俺は紙袋を僅かに掲げながら答える。
動物性の食材を使っていない。これはかなり重要な情報だ。
仙人は人間と身体の作りが異なる。どれだけ酒を飲んでもアルコール中毒にならないからいい事尽くめだと思うだろうが、そうでもない。特に、食事に関して大きな制約が課せられる。
仙人の食事は野菜や果物と言った植物だけだ。動物系統は例え卵だろうと乳だろうと口にしない。身体が拒絶するからだ。
まぁ、食べられない事はないけど。食べてしまったが最後、食べた物が体外に排出されるまで腸の中で大運動会を開いているが如くの腹痛に見舞われ、トイレから一歩も出る事が出来ない。この腹痛に対して、痛み止めの薬なんて効かない。回復方法は体外に排出するのみ。
因みに、その腹痛はここに住んでいる仙人の全員が体験した事がある。当然、俺も経験がある。
あれは二週間前だったか、牛乳を発酵させて作られた酒を誤って飲んでしまい、その日は大フィーバーしてしまった。正直、脱水症状で死ぬかと思った……。
食事に制限が課せられるので、三時のおやつは食事のバリエーションを増やす上で重要だし、酒を飲むのも、ある意味で食事に対するフラストレーションの解消に役立っているのかもしれない。
「おっ、そうかそうか。なら、三時のおやつにでも食うとするかぃ」
動物性の物を一切使っていない甘いものと分かると、シンヨウは目を輝かせて口の端から涎が垂れる。
因みに、フルーツタルトは型崩れしていない。筋斗雲はそこも考慮して飛行してくれたのだ。本当、有能な雲さんだよ。足を向けて寝れません。
「そっちは何買ったんですか?」
「おぅ、これかい?」
シンヨウはふふんと鼻を鳴らし、大量の紙袋の中から一つ取り出す。
「これは酒だ」
「あ、やっぱり」
予想はしてた。何せ、がちゃがちゃと瓶がぶつかる音が聞こえてたし。
「いやぁ、そろそろ個人的に飲んでた酒が無くなりかけててなぁ。買い足したって訳だ」
「そうですか」
「あ、きちんと自腹だからな?」
「分かってますよ」
念の為とばかりに宣言したシンヨウに俺は軽く息を吐いて頷き返す。
仙人達は毎月の生活費を折半して出している。お金はそれぞれの仕事で稼いでいる。で、生活費分以外に稼いだお金は自分のものとなる。自分のお金は何に使ってもいいので、基本的に個人で飲む為の酒を買うのに当てられていたりする。
「あと、こっちは新作の酒だぜぃ」
「新作、ですか」
「おぅ。何でも限界まで蒸留した飛び切り熱い酒らしいぜぃ」
「うわっ、何か胸焼けしそう」
「実際、焼けんじゃねいかぃ?」
前にも度数の相当高い酒を飲んだ事がある。あの時は喉が焼けるかと思った。でも旨かったから何度も飲んだけどな。その時仙人達は表面張力の限界までなみなみに酒を注いだコップに火をつけて、それを一気飲みしてたな。……まぁ、あの時シンヨウは少し頬に零して実際に火傷したけど。あれは自業自得だろう。
「皆で飲んでみようぜぃ。その為に十本買って来たんだからよ」
「そんなに買ったんですか……」
「御蔭で、今月はカツカツだけどな……」
少し遠くを見て悲哀そうな表情を浮かべるシンヨウだが、特に後悔はしていないようだ。
「と言う訳で、大広間に行ったら早速飲もうぜぃ」
「はいはい」
俺とシンヨウは廊下を進み、酒を飲む為スペースと化している大広間へと向かう。ただ、その前に台所によってフルーツタルトを置き、つまみを何種類か持っていく。
「だらっしゃぁぁああああああ!」
「ちっ、久々に負けちまったよ!」
「おらおら、負けたんなら分かってるよな⁉」
大広間へと続く扉を開けると、何時もの光景が広がっていた。空になった酒瓶があちことに散乱し、酒の入った大樽も無造作に転がっている。大広間の中央では円になるように座布団が敷かれ、そこで仙人三人が早飲み対決をしていた。
「分かってるよ! そんじょそこらの生娘と一緒にするんじゃないよ!」
「相変わらず豪快に脱ぐな!」
「さて! じゃあもう一回行くか!」
「「っしゃ来い!」」
コウライが男らしくジャージの下を脱ぎ捨て、ホウロウが空になったでっかいジョッキになみなみと酒を注ぎ、キントウが指を一本立てて天高く掲げる。
「あっ! 何だよもう始めてたのかよ! 俺も混ぜろぃ! と言うか、新作の度数の高い酒買って来たからまずそれ飲もうぜぃ!」
「「「マジでかっ⁉」」」
シンヨウが即行で三人に混ざり、買ってきた度数の高い酒の蓋を取り外してコップに注いでいく。
「みやみや!」
「さっさと来な!」
「お前の分なくなるぞ!」
「早くしろぃ!」
のんべぇ四人が俺を呼ぶ。
「今行きますよ」
俺は口元が少しにやけるのを自覚しながら、仙人達の待つ中央へと向かう。
この人達みたいにならないようにしないとと思っていても、一緒に楽しみたいとも思っている。
どうも心の底では皆とはしゃいだり、騒いだり、馬鹿やったり、笑ったりしたいって欲求があるみたいだ。
だから、今では拒みもせずに仙人達と盛大に酒を飲むんだろうな。
仙人になる為の鍛錬をして、酒を飲んで、馬鹿騒ぎをする。
高校に通っていた時とは全く違う毎日だけど。同じように楽しめている。
これが、俺の今の日常だ。
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「うぉ⁉ ヤバいヤバいヤバいっ! 爆発して火が飛び散った!」
「まさか気化したアルコールに火が点くとは思わなったぜ!」
「このままじゃ大火事になるよ! 早いとこ消しちまわないと!」
「とか言いながら何下脱いでんですか⁉ 何しようとしてるか容易に想像出来ますけどアルコール成分混ざってるから悪化するだけだと思いますよ!」
「おっし! これ掛ければ大丈夫だろぃ!」
「「「「あ、ちょっ! それ酒樽!」」」」
「「「「「ぎゃぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼‼⁉」」」」」




