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第6話

 結局、園崎を処刑する事は叶わなかった。

 何せ、途中で担任の岡崎先生(ゴリラと見紛うばかりのムキムキ体育会系)と副担任の里中先生(寝癖がチャームポイントの合気道有段者)に見付かり、園崎ともども俺達は鉄拳制裁を喰らって小一時間説教された。

 因みに、同級生達はこの一年で同じように城内で裏切り者に制裁を加えようと鬼ごっこを何回かした様で、その度に岡崎先生と里中先生にこってり絞られたそうだ。

 うん、まさに高校の頃と同じ日常が繰り広げられてたんだな、とちょっと安堵した。異世界に来て情緒不安地にならず、何時もと変わらずに逞しく生きてるんだなぁと実感した。

 そして、少しばかり寂しさも覚えてしまった。俺がいなくても、皆楽しそうだったし、その馬鹿騒ぎに混ざれなかったのを残念に思った。

 まぁ、見習いとは言えもう仙人になったし、鍛錬の合間に皆に会いに行けるようになった。だから、月に数回はここに来ようかなって思った。

 で、現在。俺はクラスメイトの男子半数と先生達と別れ、城の外にいる。所謂、城下町という所を見て回っている。

 なにせ、一年前に来た時は城の中庭しか知らず、それから仙人に連れられて蓬莱に閉じ籠っていたからどういう風な所か全く知らない。なので、こうして一人ガイドを引き連れて回っている所だ。

「で、ここが藤林が働いてる喫茶店。厨房勤務希望だったけど、最初は必ずウェイターしろって言われて半年ほどウェイターやってた。今は希望通り厨房に入らせて貰ってる」

 俺の隣りを歩くガイドこと篠宮(しのみや)麗良(れいら)が横に見える喫茶店を指差して説明をしてくれる。

 麗良は中学の頃からの腐れ縁だ。何故か、学年が変わっても常に同じクラスにいる。運命的とでも言えば聞こえはいいかもしれないけど、俺達は男同士で互いに恋愛感情を抱いていない。抱いていたら、ちょっとトラウマになるよ……。

 彼は何時も眠そうに目をほとんど閉じていて糸目になっている。俺は今まで麗良が目を見開いた瞬間を目撃した事がない。目薬を差す時も糸目状態のままだったのは流石に俺の方が目を見開いたよ。で、俺より頭一つ以上背が低く、身長は琴音とどっこいと言った感じだ。

 で、麗良とは偶然街中で遭遇した。何でも、今彼は冒険者ギルドに登録して冒険者として活躍しているそうだ。ただし、荒事は苦手なため、もっぱら雑事をしてお金を稼いでいるそうだ。特に、街中での配達を中心とした依頼ばかりを受けている為『配達屋』の異名まで授かっているそうな。

 丁度配達の依頼を終えた所だったので、麗良に案内してくれないか頼んだ次第だ。で、麗良は皆が働いている場所を中心に案内してくれる。薬屋とか鍛冶屋とかで必死になって働いている皆の姿は新鮮だった。声掛けたら皆驚いた顔して再会を喜んでくれたなぁ。

 …………ただ、酒宴の件が彼等にも知れ渡ったら、次会う時は制裁する側される側に別れそうだけど。

「へぇ、藤林はあそこで働いてるのか」

「声掛けてく? ついでに何か食べる?」

「あぁ」

 俺達は喫茶店に入って、ウェイトレスさんに導かれて席へと向かう。中はアンティーク調のイスとテーブルが並んでいて、照明も淡く暖かな光を届けるように工夫されている。空いてる席は窓際の一角で、そこに案内されて座る。

 メニューは軽食からお菓子まで取り揃えられていて、飲み物もお茶やコーヒー、炭酸飲料水まであった。

 ………………つい、アルコールがメニューに載ってないか探してしまった俺は末期だと思う。流石に酒類はなかったので、ちょっとがっかり、結構安心した。

 麗良はサンドイッチとコーヒーを、俺はオレンジソーダを頼む事にした。

「あ、蓮杖が来たって藤林に伝えて貰えます?」

 メニューを頼む際、ウェイトレスさんに麗良が藤林への言伝を頼む。

 待つ事数分。

「おっ、本当に蓮杖がいる」

 藤林が直々に運んできた。

 藤林拓海。爽やかな笑顔とモデル体型が特徴の同級生。身長は俺より頭一つ高く、すっきりと切り揃えられた髪の毛は清潔感がある。誰とでも気さくに話すさっぱりした性格が好印象な彼を代表するのが手作り料理だ。

 学校行事のある日には決まって藤林は皆に手作り菓子を作って持ってくる。それは決して専門店の味ではないけど、何処か優しく、素朴な味わいを持っている。これを食べると活力がみなぎり、何時も以上に頑張れるんだよな。

 藤林本人は菓子作りだけじゃなくて、大概の料理を作る事が出来る。学校には毎回手作りの弁当持って来てたし、時折おかずをぶつぶつ交換で手に入れて食べた事もあったげど、御菓子と同様の効果が得られて午後の授業は眠らずに全て受け切る事が出来たっけ。

 だから、藤林がこういった飲食店で働いてるのは当然だと思う。

 因みに、藤林は美形に分類される。当然学校外で女子からも告白される事がある。最初にその現場を目撃した園崎を含めた数人が血祭りに上げようとした。けど、実際にはしなかった。なにせ、相手に失礼のないよう、最大限の礼儀を持って丁寧に断ったからだ。

 藤林曰く「女子と付き合うよりも、皆と馬鹿騒ぎしたい」との事。つまり、彼の中では『女子と付き合う<級友と遊ぶ』という図式が成立していたのだ。それを恥ずかしげもなく正面切って皆に言い切った藤林は、真の男だと思う。

 そんな藤林だからこそ、普通に制裁に加わって、止めに来た岡崎先生や里中先生を体を張って足止めを行ったりもした。その都度里中先生から合気道の技を受けて組み伏せられるまでの流れが様式美化していたな。うん、本当に友達想いの真の男だよ。

「よっ、久しぶり」

「おぅ、元気してたか?」

「まぁね」

 頷くと、藤林はにかっと爽やかな笑みを浮かべて「そうかそうか」と俺と麗良の前に頼んだ品々を置き、麗良の隣りに座る。

「おい、厨房に戻んなくていいのか?」

「運よくさっき休憩時間に入ったからな。問題ない」

 そうだったのか。それは運がよかった。

「うん、敢えてその時間を狙ったから」

 と、サンドイッチに齧り付きながら麗良がそんな事を告げて来た。わざわざ時間調整してたのかよ。

「と言うか、藤林のスケジュール知ってるんだ」

「ん、他の皆のもある程度は知ってる」

 そんな事を述べる麗良は満足げに咀嚼している。

 麗良がサンドイッチを食べている間、俺は藤林とこの一年の出来事を話し合った。藤林の方もこの一年で料理の腕が上がったらしく、更に飲食店経営のノウハウもある程度学べたので独立も考えているそうだ。今は軍資金を稼ぎ、更に腕を磨いているとの事。

「そう言えば蓮杖、このタルト頼まないか?」

 と、藤林はメニューのケーキ欄にある一文を指差す。何々、『四季の果物盛り沢山の贅沢タルト』か。

「実はこれ俺のオリジナルで、採用された奴なんだよ」

「へぇ、採用されるなんて凄いな」

「このタルト、牛乳やバター、卵や生クリームは一切使ってないんだ。上に乗ってる具材は全て果物を加工したもので、それぞれの風味や旨味を邪魔しないよう、そして引き立たせ合うように工夫したんだよ。で、タルト生地も口当たりがさっぱりしてサクサクといい感じなんだ」

「旨そうだな」

 果物の味が混沌とせず舌の上でハーモニーを奏でる様を想像してしまい、思わず生唾を飲んでしまう。

「つまり、動物性のは何も使ってないって事か?」

「うん、全く持ってね。ゼラチンも使ってないよ」

「そっか」

「で、どうする?」

「頼むよ。でも、テイクアウトでいいか?」

「別にいいけど、何で?」

「ほら、鍛錬してくれてる仙人達にもって思ってさ。あの人達酒ばっか飲んでるけど、甘いものも好きなんだ。だから、このタルトをお土産にってね」

 何せ、毎日三時のおやつタイムがある程だ。下手をすると、酒を飲む事の次に大好きなのがおやつを食べる事なのかもしれないって程大量の御菓子食べてるからなぁ。

「あぁ、成程ね」

 納得したとばかりに頷く藤林。で、丁度休憩時間も終わりになる所だったので藤林は立ち上がって厨房へと戻って行った。

 麗良も食べ終わり、俺もオレンジソーダを飲み終えてケーキをテイクアウトし、会計を済ませて喫茶店を後にする。


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