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第25話

「…………あれ?」

 気が付くと、俺は何処かの海岸にいた。

 月明かりを頼りに辺りを見れば、ここは城下町の近くにある港町の一角だと分かる。海に月と星の輝きが反射し、波によって揺らめいて幻想的な光景に仕上がってる。

 ……のは置いといて、だ。

 可笑しいな? 俺は確か城下町で同級生達と鬼ごっこを繰り広げていた筈なんだけど……?

 あ、でも途中でいきなり皆が蜘蛛の子を散らすようにいなくなったと思ったら琴音が現れて。それで…………。

 …………あぁ、【重力操作】で思いっきし重力をかけられて、そのまま意識を失ってしまったのか。

 でも、それだとどうして海岸にいるのだろうか? 意識失っただけならまだ町中の筈なんだけど。

 う~~~~~~~~~ん? 駄目だ、分からん。可能性としては誰かに拉致されたってことぐらいなんだけど。

「何でここにいるんだ?」

 首を捻っていると、肩をちょんちょんと触られる。振り返るとそこには何と筋斗雲がいたではないか。キントウと一緒に離脱した筈なのに。

 ……もしかして。

「筋斗雲がここまで運んで来てくれたのか?」

 確認を取ると、筋斗雲は頷き返してくれる。そっか。琴音の【重力操作】の範囲外まで俺を運んでくれて、尚且つおいそれとすぐには凝れない場所まで連れて来てくれた、と。

「ありがとう、筋斗雲。御蔭で死ななくて済んだよ」

 俺は感謝をこめて筋斗雲を撫でる。筋斗雲はえっへんと胸を張るように体を少し前に突き出す。

 さて、取り敢えず命の危機からは脱したけど、また琴音には会わないといけないな。あの様子じゃもうちょっと期間を開けておいた方がいいかもしれないけど、こういうのは思い立ったが吉日だ。なるべく早くに訊いた方が変にこじれない……と思う。

「よっし、じゃあ琴音に会いに行くか」

 と、軽く頷く。

 すると。

 ずぼっ。

「…………」

「…………」

 何か、筋斗雲の中から琴音が生えてきた。いや、正確には突き抜けて来た、か。よくよく見れば琴音の足はきちんと地面を踏み締めているし、多分さっきまでしゃがんでいたんだろうな。で、急に立ち上がって真上にいた筋斗雲を突き抜けた、と。

「…………」

「…………」

 さぁ、ここで普通に話し掛けるとさっきみたいに【重力操作】によって何倍もの重力を受けてしまう可能性がある。ここは、言葉を慎重に選び、発していかなければいけないな。

 …………よし、「すみませんでした」と土下座を繰り広げながら言えば、多分大丈夫じゃないかな? 保障は全く無いけど。まぁ、やらないよりやった方がいいのは確かだ。

 よし、じゃあ行くぞ。せーの。

「すみま」

「ごめん」

「せんでしたって、へ?」

 土下座しながら謝罪を繰り出す際中、琴音も頭を下げて謝罪した。

 ……えっと?

「何が?」

「押し潰した事」

 と、琴音は申し訳なさそうに言う。あぁ【重力操作】で潰した事を謝ったのか。

「いやいや、元はと言えば俺が悪かったんだから気にしてないよ」

 うん、俺がルシルの胸を偶然揉んでしまった事が事の発端だから、悪いのは俺だ。うん、間違いない。

「でも……地面にめり込んで一メートルくらい人型のクレーター作っちゃった」

「……うん、キニシテナイ、キニシテナイ」

 ハハハ、とちょっと頬を引き攣らせながらも、難とか笑顔で返す事が出来た。そっか、人型のクレーターが出来るくらい重力をかけられたのか。それも、深さ一メートルも。

 …………よく生きてたなぁ、俺。これも仙気の力か。よかったぁ、仙人になって本当。

「本当、ごめん。頭に血が昇ってて……」

 しゅんと縮こまる琴音。

「だ、だから気にしなくていいから。こうして無事なんだし。俺が悪かったんだからさ」

 と、俺はわたわたと手を振って全力で気にしていないアピールをする。

 それにしても、頭に血が昇ってて、か。それは胸を揉まれたルシルの為に怒ったのか、それとも俺が他の女性の胸を触ったからなのか。

 仙人達や麗良曰く、琴音は俺の事が好き、だそうだ。

 そうなら怒った理由は後者が濃厚か。

「なぁ、一応、確認の為に頭に血が昇った理由を訊いていいか?」

「っ……」

 琴音は僅かに息をのみ、押し黙ってしまう。あー、そんにあ言いにくい質問だったか? もうちょっと遠回しに訊いた方がよかったかな? って、遠回しに訊ける程の質問でもないなこれ。

「……雅が」

 と、琴音がやや俯きながらぼそっと声を出す。

「雅が、女の人の胸を、触ったから」

「それは、触られた天使の為に怒ったのか?」

「…………それも、ある」

 それも、かぁ。

 こりゃ、仙人達と麗良が言ってた事は本当だったか。

「なぁ、今からぶしつけな質問をするけどいいか?」

「…………」

 琴音は無言で首肯する。

「琴音って、俺の事好き?」

「っ⁉」

 どストレートに訊いてみると、琴音の目が見開かれ、急に目を逸らして僅かに顔を赤らめる。何か、分かりやすい反応だな。

「…………好きじゃなかったら」

 で、ちらちらと俺の方を何度も見て、意を決したように口を開く。

「キスなんて、しない」

「お、おぅ」

 どうやら、琴音はあの日の事を覚えているようだ。

 そうか、好きかぁ。この頃は結構琴音と一緒にいたけど、は全く読み取れなかったよ。

 でも、俺、琴音に好かれるような要素はないと思うんだけどな。

「…………」

「…………」

 そして、また静寂が当たりを支配する。俺達の耳に入るのはさざ波の音だけ。

 俺は、訊いておいてなんだけどどう答えるべきか分からないでいる。決して、琴音に好きと示されたのが嫌な訳じゃない。俺も、琴音の事は好きだ。けど、この好きは決してラブではなくライク。友達としての好きだ。

「…………私は」

 さて、どうしたものかと思案していると、琴音はふと目を閉じて俺に背を向ける。

「私は、雅が好き」

 何処か消え入りそうな声で俺に告げる。

「……小さい頃に私を守ってくれた、雅が好き。人見知りで、他の子に虐められてた私を助けてくれた、雅が好き。後ろを付いて回っても、決して嫌な顔しないで私と遊んでくれた、雅が好き」

 小さい頃。それは俺と琴音がまだ幼稚園に入る前の頃、まだ人見知りが激しかった琴音は他の子と馴染めずに虐められていた。それを見兼ねた俺はいじめっ子を追い払い、以後は琴音が虐められないように一緒にいたっけ。

 で、その後は一緒にジャングルジムとかトランプとかでほぼ毎日遊んでた。最初はおどおどしてたけど、段々と笑顔を浮かべて行ってたけな。

 幼稚園に入る頃には少し人見知りは改善され、俺と一緒なら他の事も普通に接する事が出来、表情もコロコロと変わるようになった。

 ふと、琴音は振り返って一歩踏み出し、俺に顔を近付ける。その顔は何処かまだ赤く、目が少し潤んでいるように見える。

「雅は、私の事、好き?」

 真っ直ぐと俺の目を見据えて、琴音は問うてくる。

「俺は……」

 直ぐに答えを示さないといけない。

 意を決して、俺は口にする。

「俺は、琴音の事好きだ。けど、それは友達としての好きなんだ」

 俺の答えを訊いた瞬間、琴音の眼は僅かにだか見開かれ、唇がきゅっと閉じられる。

「小さい頃から、俺はずっと琴音の事を友達と思ってる。だから、異性として琴音の事を好きって感情は、まだないよ」

 嘘を述べず、真実だけを琴音に語る。その間も琴音は目を逸らさずにじっと俺の目の奥を見据えていた。

「……分かった」

 俺が言い終えると、琴音は目を固く閉じ、くるりと背を向けて俺から遠ざかっていく。

「…………なら」

 と、琴音は立ち止まり、ゆっくりと振り返る。

 その顔には決心したような表情が浮かんでいた。



「これから私の事が異性として好きになるように、頑張るから。覚悟、しといてね?」



 そう言うと、にかっと笑って踵を返してタッタッタッと走り去っていく。

 …………どうやら、俺の答えで傷付く事はなかったみたいだ。それどころか、何か導火線に火をつけてしまったみたいだ。

 と言うか、琴音のあの笑顔は子供の頃以来だな。昔は何かと嬉しい時や楽しい時にあんな笑顔を浮かべていた。高校入試の時に再会してからは、ほぼ無表情を貫き通してたからな。

 新鮮だったし、ちょっとドキッとした。




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「いよぅ、蓮杖もといリア充よぉ」

「なぁに甘酸っぱい雰囲気醸し出してんだ? あぁん?」

「俺等、女子から覚悟しといてね、なんて言われた事ねぇんだけど?」

「こりゃ、あれだな。もうお前はあれだ」

「うん、あれだわ」

「「「「「永久(とわ)に爆発し続けろ」」」」」

「お、お前等っ⁉ 一体何時からそこにいたんだ⁉」

「「「「「最初から海の中に潜んでおりましたよ、えぇ」」」」」

「マジか……」

「「「「「では、リア充よ。処刑の時間だ」」」」」

「御免被るっ!」

「「「「「逃がさん」」」」」


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