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第17話

「行くぞ」

「はい」

 今日はキントウに連れられて行く。筋斗雲に乗って大体一時間弱。海域的にはどこら辺か不明だけど、海のど真ん中まで来る。

「今日はここで何を取るんですか?」

「バハムトの鱗だ」

「バハムト?」

 バハムトって、バハムートの事? バハムートって確か某有名なRPGだと竜王的な立ち位置にいるよな。そんなのがこの世界に実在すんのか。

 にしても、バハムトの鱗が必要なのか。意外だな。

「竜の人化に必要な仙薬の材料に竜の鱗を使うって、何か変ですね」

「あ? バハムトは竜じゃねぇぞ?」

「え?」

 抱いた感想を口にしたら、キントウがまさかの真実を告げた。

 え? 竜じゃないの? じゃあ、バハムトって何? と首を捻っているとキントウが解説をしてくれる。

「バハムトはな、言っちまえば牛の角が生えた巨大魚だよ。普通は深海の奥深くに生息してっから、まずお目に掛かれねぇけどな」

「魚……ですか」

 意外だ。この世界のバハムトは竜じゃなくて魚なのか。あ、だから海のど真ん中まで来たのか。あと、ここまで来たって事は蓬莱の付近にはいないから釣れないのか。今から釣りをするかどうかは分からないけど。

「おぅ。つっても、魚だからって油断すんなよ? 大きさは大体蓬莱と同じ程度だ」

「へぇ、蓬莱と同じ程度……って同じ程度っ⁉」

 思わず声を荒げてびっくりしてしまう。だって、大きさが蓬莱と同じくらいあるんだぞ⁉ デカすぎだろ! 島一つと同じくらいの大きさを誇るのは流石異世界とでも言えばいいのか、そんな生物が普通にいるこの世界がちょっと以上に恐ろしく思う。

「下手すっと丸呑みにされて栄養分に変えられっから気ぃ付けろよ」

「いや、もう言っちゃなんですけどかなり無謀じゃないですかね?」

「ま、普通の奴ならな。俺達仙人は普通じゃないから大丈夫だ」

 がっはっは、と豪快に笑うキントウ。いや、普通から逸脱した仙人でも無謀だと思うんですけどね?

 と言うか、大きさ云々よりもまずバハムトの生息域が深海と言うのが問題だと思う。だって、この世界に潜水艦はないし、深く潜って行けば水圧で死んでしまう。いや、それ以前にそこまで潜るまで息が持たない。つまり、バハムトの鱗を入手するにはそいつを深海から浅いところまで誘き寄せなければいけない訳だ。

「で、どうやってそのバハムトを誘き寄せるんですか? 深海にいるんですよね?」

「誘き寄せる必要はないな。これを使えばいいのさ」

 キントウは背負っているバッグからあるものを二つ取り出して広げる。一つは一目見ればそれがダイバースーツっぽいと分かる。着れば身体の輪郭が丸分かりのぴっちぴち状態になって、顔面以外が布地で隠される。その顔面部分も、取り出したるもう一つのヘルメットっぽいので覆われる仕様だと思われる。

 ヘルメットっぽいのは球形で全面透明だ。簡単な表現を使えば、金魚鉢みたいなヘルメットだ。これによって視界は確保され、水に濡れる事を防ぐと言う訳か。けど、外界から空気が送り込まれるホースが繋がっている訳でも、酸素ボンベが付随されている訳でもない。

「……予想つくんですけど、一応聞きますね。何ですかそれ?」

「これは宝貝スイセンコウ。これ着込めば水中でも呼吸出来るようになんだ」

 うん、予想した通りの回答が得られた。そしてこれも宝貝なのか。このヘルメット被ると確実に呼吸困難に陥りそうなんだけど。もしかしたら空気だけを通すような材質で出来ているのだろうか?

 いや、だから呼吸は出来てもねぇ。

「いやいや、呼吸出来ても水圧で死にますよね?」

 根本的な問題を吐露すると、キントウは至極真面目な顔を作り、俺の肩をぽんと叩いて一言。

「そこは仙気で耐えろ」

「無茶言うな」

 つい溜口で答えてしまう。と言うか、普通に無理だろ。いくら仙気で身体を強化したとしても潰れるものは潰れる気がする。一応、琴音の【重力操作】による重力負荷を掛けて鍛錬は積んでるけど、それとこれとは別問題だと思われる。

「無茶じゃねぇよ。今の雅ならある程度深く潜っても大丈夫だ」

「……そうなんですか?」

「嘘言ってどうする? 出来るから連れて来たんだろ?」

 キントウは軽く息を吐き、まっすぐと俺の目を見る。まぁ、キントウがそう言うんなら、本当に大丈夫なんだろうな。

「……分かりました」

「うっし、じゃあ早速これを着込め。服の上からでも大丈夫だ」

 俺は渡された潜水服の宝貝スイセンコウを着始める。ジャージの上にダイバースーツと言うかなり変な着方をしているけど、違和感は不思議と無い。

「バハムトはこの時期上の方に来るんだ。少しばかり日光を当たる為にな。まぁ、上っつっても結構深い所で留まって、海面付近までは来ねぇけどな」

「そうですか」

「日光に当たんのは魔力の濁りを取り除く為なんだと。何でも深海にいて日光に当たらないとどんどん濁った魔力が蓄積されていくんだとよ」

「濁った魔力ですか」

 キントウは空になったバッグを背負いながらスイセンコウに着替え、バハムトについての説明をしてくれる。日光に当たる理由が魔力の濁りを取り除く為、ねぇ。つまり、バハムトは凶暴な魔物に分類は去れていないって訳か。

 何でも魔力は澄んだ状態と濁った状態の二通りが存在するらしい。濁った状態は魔物に多く見受けられて、濁った魔力を持った者は決まって凶暴なのだそうだ。逆に澄んだ魔力う思っていればある程度精神は安定するそうな。安定するとは言っても、元来の性質が反映されると言うだけで、決して綺麗な心を持っている事と同義ではないとか。

 で、この魔力の濁りは太陽光を浴びる事によって払拭させる事が出来るらしい。けど、多くの魔物は身体が魔力を太陽光から守る役目を果たしてしまい、濁りを払拭させる事が出来ない。なので、基本的に魔物の魔力は濁っていて凶暴なのだとか。

 勿論、例外もいて今回鱗を拝借するバハムトもその例外に位置するっぽい。まぁ、バハムトが魔物に分類されてるなら、だけど。

「ドラゴンの成人の儀式がこの時期に被ってラッキーだったな。もし他の時期なら海のかなり奥の方まで潜る羽目になってたからなぁ」

 キントウは笑いながらヘルメットをかぶる。と言うか、ドラゴンの成人の儀式って時期が不確定なのか。場合によっては採取が困難になるのかよ。ちょっとはそこの事情も考えては欲しいけど、ドラゴン側としてもどうしても融通が利かない催しに位置してるのかねぇ?

「こういう時に大目に鱗取っておかないんですか?」

 で、俺としてはある意味で当然の疑問が降ってわいたので、キントウに質問をぶつけてみる。

「それは出来ねぇな。鱗に限らず、今回使う材料は全て長期保存が出来ねぇ。一番短いので一週間。長いので十日くらいまでしか効果発揮しねぇんだ」

「成程」

「あと、仙薬にしちまうともっと足が速くなっちまう。精々持って二日が限度だ。二日過ぎると効果が無くなるどころか腹下しの薬に変貌しちまうぞ」

「相手への嫌がらせにはもってこいですけど、本来の目的には使えませんね」

 そんな理由があったのか。だから作り置きとか材料の保存とかはしてないのね。納得納得。

「うっし、雅。準備はいいか?」

「何時でも行けます」

 キントウの確認に、俺はヘルメットを被りながら答える。ヘルメットを被ると首元にフィットするように縮まる。完全に密閉状態になっても吐く息で目の前が曇る事も無く、息が苦しく事も無い。そうなってるのはちゃんと仙気が流し込められてるからなんだろうな。普通の人が被ったらもれなく窒息死の未来が待ち構えられてるよ。

「じゃあ、行くぞ」

「はい」

 俺とキントウは筋斗雲から飛び降りて、海へとダイブする。


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