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第13話

 モルンボの生息する森から筋斗雲で西に十分くらい移動した先にある巨木の森。そこにエルフは集落を作って暮らしていた。

 この森に生えている木はぶっちゃけ、高くてかなり幹回りが太い。その中でも特に大きくて太いのが精霊樹と呼ばれている大木で、大体六畳間の部屋がすっぽりと収まるくらいの枝周りを持つ枝を悠々と茂らせる幹は枝の何十倍も太い。高さも百メートルは軽く超えてるんじゃないかな?

 エルフ達はその精霊樹の枝の上に家を建て、集落を形成している。家は一階建ての一軒家で1LDK。トイレと風呂は別々でライフラインの一つである水は精霊樹の窪みから溢れ出る霊水を用いている。この霊水は汲んでも汲んでも尽きる事はなく、飲めば魔力が活性化するそうだ。

 食料は精霊樹から降りて巨木の森で狩りや果実の採取を行っているそうだ。時たま、祝い事がある際は精霊樹になる果実を精霊樹に断ってから一つ貰い受けたりもするとか。

 何でもエルフ達の住まう精霊樹は意識を精霊体として現出させる事が出来るらしく、時折エルフ達に頼み事をするとか。自分の回りに生えた雑草を引き抜いてくれとか、程よく選定をしてくれとか、古くなった外皮を削り取ってくれとか。

 精霊樹とエルフは共生の関係にあって、持ちつ持たれずで長い時を生きているそうだ。これからもずっと、彼等は共に生きていくんだろうなぁ、と少し感傷に浸りながら心の中で呟いた。

 で、そんな精霊樹に降り立ってエルフの集落へと入った俺とホウロウ。アポなしの突然の来訪と要求でも拒まれる事も無く、すんなりとエルフの涙を貰える事になった訳だが。

「にーちゃん、おれもー」

「わたしもー」

「ぼーくーもー」

 現在、俺はエルフの子供達に囲まれている。

 そうなった理由は至極明快。子守を任されているからだ。

 何でも、数年前からベビーブームでここ最近エルフの出生率が凄いらしい。人間に比べれば少ないけど、長い時を生きるエルフにとっては大ラッシュ。おおよそ一家に一人の割合で子供がいるとか。

 そして、明日にはめでたい結婚式があるそうで、大人のエルフ達は少し前から準備にてんやわんやの状態だ。しかも、結婚するのがエルフの長の娘さんときたもんだ。お偉いさんの子供の結婚式なので盛大に行こうと言う事になって、何時もよりも規模がデカいらしい。

 そんな大がかりな結婚式の準備をしていても、当然子守もしなければならない。子守の上手いエルフ何人かで全員の子供を一ヶ所に纏めて子供達をあやしていた。しかし、乳飲み子、ハイハイ出来るようになった子、歩く事が出来るようになった子、喋れるようになった子、走れるようになった子と様々な子供が一纏めになると、当然色んな問題が出てくる。

 そろそろ体力の限界が近付いてきた、と言う時に都合よく現れたのが仙人二人(おれとホウロウ)。エルフの涙を貰い受ける条件として結婚式の準備が終わるまで子守を手伝ってくれと言われた。

 当然、断る理由もなく俺とホウロウは子守の手伝いをし始めた。経験があると言う事で、ホウロウは乳飲み子やハイハイ出来るようになった子達の相手を、生憎赤ちゃんの相手をした事がない俺は二本足で立って歩き回れるようになった子達の相手をする事になった。

「あー、ちょっと待ってねー」

 俺は乗せていたエルフの子供達を降ろして、新たに別の子供達を招き入れる。

「じゃー行くよー」

 俺の掛け声と共に、筋斗雲に乗っている俺達は徐々に浮かび上がり、ゆっくりと飛び始める。

「おーっ!」

「すごいすごーい!」

「たーかーいー」

 エルフの子供達は目を輝かせて周りを見たり下を見たりする。

 最初、普通に子供達をあやしてたり一緒に遊んでたりしていた。けど、予想以上に体力が削られてこのままでは身が持たないと判断。何かあまり体力は使わずに子供達の世話をする事が出来るか? と悩んで思い立ったのが筋斗雲による遊覧飛行だ。

 俺は筋斗雲を呼んで事情を説明し、協力してくれと頼むと筋斗雲は頷いてくれた。

 ただ、筋斗雲は仙気が無いと触れる事が出来ないのでエルフ達は乗る事が出来ない。なので、ちょっとした裏技を使う事にした。

 その裏技とは、エルフの子供達を宝貝の上に乗せると言うもの。宝貝は仙気を流し込んだ状態ならば、筋斗雲に乗せる事が出来る。俺が抱えて筋斗雲に乗ってもよかったんだけど、それだと一度に乗せられる人数に限りがある。それを宝貝を使う事によって、上限をかなり引き上げる事に成功した。

 今、筋斗雲に乗せている宝貝はボウセイジン。レジャーシートな見た目だけど、仙気を流せばその上に乗っている者を攻撃から守る結界を発生させる代物だ。ホウロウに事情を話したらこれを渡された次第だ。

 ただ、このボウセイジン。結界を張ると内側から外に出られなくなってしまう欠点も持っている。が、今回はそれを逆手に取った。つまり、こいつは仙気さえ流していれば不意な事故を未然に防ぐ事だって出来る優れものとして扱えるのだ。

 遊覧経路はあまり遠くには行かずに精霊樹の周りを大きく。集落を上から見られて、尚且つ集落の外も少しは見えるように配慮している。

 その結果と言うべきか、子供達には大盛況のようだ。一度に約半数も乗せる事が出来て残った子供達の世話をしている大人のエルフ達の負担を減らす事に成功した。

「はーい、着いたよー」

 一周し終わったので、子供達を降ろして、まだかまだかと待っていた子供達が我先にと乗り込んで行く。そしてもう一度出発。

 そんなこんなで日が暮れるまで子供達を乗せて遊覧飛行をしていた。

 日が暮れると子供達を迎えに来た親御さんが続々と現れて、一緒に帰って行った。で、難とか結婚式の準備も終わったらしい。明日は集落の皆全員で長の娘の結婚式を盛大に祝うそうな。

 陽も完全にくれると、どの家にも明かりが灯っていないのが見て取れる。明日の結婚式の為に、どの家も早めの就寝を心がけたようだ。

 因みに、まだエルフの涙は貰い受けていない。明日、結婚式の二次会で受け取る手筈になっている。結婚式の二次会では酒も盛大にふるまわれるそうなので、その時に爆笑したりして涙が流れるそうだ。

 結婚式の準備で疲れが溜まってるのに、無理に酒を飲ませて笑わせ、余計に体力を減らすのは気が進まないので俺としては心底よかったと思う。

 因みに、俺とホウロウも結婚式に御呼ばれしてしまった。「今日ここに来たのも何かの縁ですから、よかったら是非」と長に笑顔で言われれば、ちょっと断れない。

 それで更にホウロウが「他の仙人+エトセトラも呼んでいいですか?」って訊いて長さんはにっこり笑顔で頷いていた。

 俺とホウロウは一度蓬莱に戻って儀式の準備をしているコウライ達にエルフの結婚式に出席しないか? と問いかける。

「めでたいねぇ。私は行くよ」

「結婚祝い、何持ってくかな」

「取り敢えず、酒持っていけば大丈夫じゃね?」

「では、明日に備えて今日の準備はここまでにしましょう」

 と四人(一人はドラゴン)は出席表明をしてぱたっと準備を中断し、さっさと床に就いた。

 俺は仙人達の様子を見て、目と口を大きく開いて固まってしまう。

「さ、酒飲まないなんて……」

「そりゃ、明日は大事な結婚式があるんだからね。酒の臭いを漂わせながら祝うのは失礼だよ」

 あまりの出来事に戦慄を覚えている俺にホウロウは苦笑する。

 あぁ、やっぱりそう言う所はきちんと考えてるんだ。本当、酒さえ絡まなければ常識人だよなぁ、仙人って。

「ほら、みやみやももう寝なよ」

「あ、はい」

 と、俺もホウロウに促されて自分の部屋に戻り、眠りにつく。

 何か、久々に一日酒飲まなかったな。と思いながら。


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