表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/51

燃えよ! チベスナ

『お姉さんとのお約束! ショーの最中は立ち上がったり、前に出て来たら危ないから、座ってお父さんお母さんと見てね。お姉さんが掛け声をかけたら、一緒に応援してね!』

「さぁ! みんなでヒーローを応援するよ!」


 司会のお姉さんの掛け声と共に「アゲレンジャ~! がんばれ~」という声が地方銀行の駐車場に響き渡る。それに応えて拳を上げるヒーロー。商店街のヒーローショウとしては凄い盛り上がりだ。僕も嬉しい。


――――捕まっているのが、僕じゃなければね……。どうして、こうなった……!?




   **********




「お手伝いありがとう。本当に助かるわ」


 深々と頭を下げるのは、スナコ兄がアルバイトをしている豆腐屋さんのお姉さんだ。今日は商店街のヒーローショウの司会を担当するそうだ。商店街のイベントでヒーローショウをやる事になったんだけど、ショウをお願いしていたいたアクションチームが謎の事故を起こして来れなくなってしまったので、急遽(きゅうきょ)スナコさん達が呼ばれたのだった。


 先日の旅行の後からやたらと入り浸って【僕、争奪戦】を繰り広げるスナコさんとギンコさんを放置して、キタさんと僕は真面目に打ち合わせをする。僕は各所でフォロー役、狐三人(三匹?)はアクションを担当だ。敵側のボス役にはもう一人お願いしているそうなのだけど、まだ仕事中で来られないらしい。既に会場である銀行の駐車場には特設のステージが組んであって、僕はそこに機材を運んだり、テントの隙間から客席が見えてしまわないかをチェックしたりする。スナコさん達が簡単に動きの確認をして着替えが終わると、もう後はショウが始まる時間になった。




   **********




「みんなー! 今日はアゲレンジャーショウを見にきてくれてありがとうー!」


 まだご当地ヒーローとしての知名度が低い割に、お客さんの入りはかなりのものだ。ブルーシートが敷かれただけの観客席は親子連れで埋まり、後ろの方では商店街の人がチラシを配ったり風船を渡したりしている。地域密着型の気配がとてもする。


 ステージ端にある着替え用&出入り用のテントから進行具合を覗いていると、司会であるお姉さんの説明が終わった。後は、まず敵役の人達が出てからヒーローがお姉さんの掛け声と共に登場する流れだ。


「じゃあみんな、アゲレンジャーを呼ぶよー。せーの!」


『 ふはははははははは! この会場は、我々【油揚げギャング】が占拠したんダギャー! 』


 と、観客がヒーローを呼ぶ前に、スピーカーを通して聞き覚えのある声が響く。わらわらと観客席とステージを黒ずくめの格好をした狐達が埋め尽くす。――えっと……既に台本と違う。

 テントの中を振り返ると、三人(三匹?)は用意が完了している。――ええい! やってもらうしかない!

 テントの端を開けてヒーロー達を入場させる。三人はそのままステージから降りると、当たり前のように会場のギャング達を片っ端から倒し始めた。――弱い、油揚げギャング弱い。

 

 ボスっぽい狐がマイク片手に何か言おうとしたが、それも叶わず全員あっという間に蹴散らされた。事故まで起こしたとか何とか言っていたけど、アクションチームの事故はこいつらのせいか。それにしても、そこまでしておきながら出落ち感が半端なかったよ……。




 ギャングたちを片付け、子供達とのクイズコーナーやじゃんけん大会が行われ、和気あいあいとした空気が流れる。さっきの油揚げギャングの出現は演出としか思われてなかったみたいで、客席に危機感も無い。後はヒーロー達がそろそろ退場するだけ……と思った時、僕はいきなり後ろから羽交い締めにされて、ステージに押し出される。――えっ! えっ? 僕は出番ないはずだよ!?


「お遊びはそこまでダギャ……! こいつがどうなってもいいダギャか!」


 ボス狐はさっき倒されてから頑張って走ってきたのか、汗だくでハァハァ言っている。――これ、僕が地味にピンチだぞ。そんな悪役らしい台詞を言うボス狐に、スナコさん――もとい、アゲレンジャーが名乗りを上げる。


「私達は悪に屈したりしない! アゲレンジャーりんご!」

「そうよ! この世に悪は栄えた試し無し! アゲレンジャー黒糖ブラック!」

「マジでダーリン放しなさいよ、このモブ風情が。アゲレンジャーふっくら!」


 三人(三匹?)が声を揃えて「我ら! 御豆腐戦隊 アゲレンジャー!!」と叫びポーズを決めるとスモークと共に爆発音が場を盛り上げる。それに合わせてお姉さんが観客席に拍手を促し一気に会場は盛り上がりを見せる。――僕だけは置いてけぼりだよ!


――アゲりんご、もといスナコさん! あなた、あんな可愛らしい声、どっから出してるんですか。僕、一度も聞いたこと無いんですけど。いつもの低音のドスをきかせた声はどこに!?

――黒糖、キタさん。女子のフリが上手だよ。まるで狐に化かされた気分だ。

――そして、ギンコさんのアゲレンふっくら! 演技して演技! 素になってるよ!


 名乗りを丁寧に見守った後、ボスが合図をすると、頑張って戻ってきたギャング達が這うようにステージによじ登る。しかし、登ったやつから片っ端からやられて動かなくなる。――まるで役に立ってない。そしてあっという間にボスだけになった。


「ぐぬぬ……。しかし、今日は助っ人がいるんダギャ! さぁ出てこい納豆怪人~~!」


 観客席の後ろから、やたらと貫禄を見せながら【ひきわり納豆】の藁を各所につけただけのスナコ兄がやってくる。――もうそれ、ただの草の迷彩じゃん……。ステージにそのまま飛び乗ると、無言でファイティングポーズを取る。なんでお兄さんが敵側に……? そして激しい戦いが始まった。


 スナコさんの空中三段蹴りも、キタさんとギンコさんが同時に放った旋風脚も全く歯が立たない。逆に何を食らっても微動だにしなかったお兄さんが腕を一振りするだけで、三人は順番に倒されていく。


「立って! アゲレンジャー! あなたたちが負けてしまったら大豆の正義は誰が守るの!」


 お姉さんがアゲレンジャーに呼びかける。――正義のついでに僕のことも守って欲しい。

 ゆっくりとお姉さんは客席を振り返って、子供達と一緒に一生懸命アゲレンジャーを応援する。「頑張れ! 立って!」の声援を聞き、拳を握り一人ずつゆっくりと立ち上がるアゲレンジャー達。


「そうよ! 私達が負けたら終わってしまうわ!」

「ダーリンをハグするのは私の役目なんですけど。マジで許さないんですけど」


 相変わらず女性演技がやたらと上手い黒糖キタさんと、私怨たらたらのふっくらギンコさん。そして、殺気すら漂わせるりんごスナコさんはボスに指を突き付けて決め台詞を放つ。――あ、声がいつものスナコさんだ。


「そのカビた食パンの様な臭いを……擦り付けるんじゃぁ……ない……!」

「う…うるさい! 油揚げだと何度言ったら……。納豆怪人やるんダギャー!」


 走り出した納豆怪人をいなしながらキタさんが足払い。それを避けた瞬間にギンコさんの連続パンチが怪人に炸裂。さらにスナコさんのカカト落とし。これは回避したけれど、ステージ中央で棒立ち状態になった怪人。その瞬間だった。突然アゲレンジャーが光を放ちだしたかと思えば、スナコさんが叫ぶ。


「行くぞ! 必殺のッ! スナギツネ~クラッシュー!」


 腕を直角90度に綺麗に曲げ、腰をかがながらも顔を敵に向け突っ込んでいく。――あれは……チベットスナギツネの狩りの技! 待って! アゲレンジャーどこ行った!?


「う、うわぁぁ。やられたぁぁあ」


 納豆怪人は棒読み感半端ない悲鳴を上げながら僕とボスギャングに向かって吹き飛んで来る。そしてボスだけを器用に巻き込むとそのまま空中に投げる。納豆怪人ことスナコ兄はその隙にステージから退場。空中に浮かんだ状態のボス狐に、アゲレンジャー三人の技が炸裂し、彼は星になった。


「おーぼーえーてーいーるーダギャ~!」




 スタンディングオベーションの観客を後にしてテントへ。色んな意味でクタクタだ。テントの中では納豆怪人の衣装を外していつものスーツに戻ったお兄さんがタオルを渡してくれる。何故ギャングの手伝いをしていたのかと聞くと、お兄さんは「台本通りだが」とさも当然のことのように答えた。アクシデントがあった事も知らなかったらしい……。台本を確認したら、確かに改訂前にお兄さんに渡されていた台本の通りの内容だった。


「いやーなんかすごいショウだったわね。これは伝説になるわ!」


 お姉さんがテントに入ってくるなり僕達にねぎらいの言葉をかけてくれる。ギャング役を褒めまくりお礼をしたいという彼女にスナコさんがアゲレンジャーのヘルメットを外しながら口の端だけでニヒルに笑って答えるのだった。


「問題ない。礼なら既にたっぷりとしてあるからな」




   **********




 後日、大学の食堂でスナコさんときつねうどんを食べていたら近くに座った生徒の話しているのが聞こえて来た。


「お前アゲレンジャーのDVD見た? あれマジやべぇよ」

「マジか、すっげー評判いいらしいじゃん? 俺も円盤買おうかな。マジやべぇって」


 スナコさんは何も知らないという顔のままうどんをすすっていたけれど、尻尾がパンパンに膨れていたのを僕は見逃さなかった。いつのまにやらご当地ヒーローショウは、本当に伝説になっていたのだった。

御豆腐戦隊アゲレンジャー:コラボ商品


豆腐


油揚げ


やたらと色んな味のお稲荷


アゲレンジャーりんご絶賛(スナコさんお墨付き)御豆腐プリン


ブロマイド(現在品切れ中)


DVD・BD(オンラインショップまたは、店頭で!)



御豆腐戦隊応援委員会(製作委員会)

「変身グッズはまだ商品化早いよねー」

「んだべさー」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ