FLYINGマヌル
「いいか。いざとなれば撃墜もあり得る」
スナコさんのその言葉に、狐組ですら沈黙する。お兄さんですらスキンヘッドに汗を浮かべ、それが流れ落ちていくのが見える。
「でも、そんなことしたら、たまちゃんが!」
ギンコさんの反論に、スナコさんはゆっくりとかぶりを振ると、銃に手をやる。
「デッド・オア・アライブ……。生死問わずだ。止めるしかないんだ」
――いやいや、緊迫し過ぎてやばいから。というかヒロイン一人倒しちゃだめだから! ああもう! どうしてこんなことになった!?
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「お掃除ロボットが逃げ出した?」
喫茶店で涼んでいる僕らのところにやってきたキタさん。突然の発言に何それと僕は突っ込みつつ、スナコさんが奪おうとするコーヒーフロートを死守する。キタさんがすごく深刻な顔してやってきたけど、この暑さでおかしくなったんじゃなかろうか……。
「大型お掃除ロボットSANBA。僕と某国で開発した空気清浄機能も兼ね備えた巨大なやつなんだけど、お掃除の設定を杉花粉にしたら、いきなり飛行を始めてさ。空の彼方に消えてしまったんだよ!」
――本当に何を言っているか分からない。というか、キタさん。いつの間にどこかの国とお仕事してるんだろう……。というかお掃除ロボットを巨大にする必要なんてあったんだろうか……。
「お掃除ロボットってあれだよね~。あの平たい円形のやつ。あれ乗りたくなるよね~」
たまちゃんは白玉あんみつをゆっくり食べながら僕に抹茶部分だけ分けてくる。――苦いのだめなら頼まない! そしてやっぱり猫はああいうのに乗りたがるのか。可愛いなぁ。
そんな事を喋っていると、空から何やら変な音が聞こえてきて、辺りが暗くなる。――え? 今日の天気は一日中晴れだって聞いてたのに、夕立かな?
見上げた僕らの視界に、それはあった。
巨大な円盤型の何かが、回転しながら上空を通過していく。時折怪しく光を放ちながら進む姿はどう見てもU・F・O。
「何あれ!? 未確認飛行物体!?」
「UFOダギャー! 写真撮るダギャー!」
「お客様落ち着いて下さい。慌てず騒がず、お会計はこちらです」
「うわぁー初めて見たね~スナ姉」
「あれだよ! あれ! あれがSANBA! 捕まえてくれスナコ!」
ざわざわとする中でキタさんが叫ぶ。そんな事を無視して黙々と今度はクレープを食べていたスナコさんだったけれど、さらにティラミスがふわりと浮き上がったのを見て流石に目を見開く。
「私のティラミスが!」
それは上空の謎の円形の物体に綺麗に吸い込まれた。そしてその物体は、町外れに向かってゆっくりと飛んでいった。
「誰に喧嘩を売ったのか、分からせてやる……」
スナコさん闘志に火を点けるのは、やはり甘い物であった。
「みなさんー危険なので近寄らないで下さいー!」
既に警察が辺りを封鎖している中、あまりにも当たり前に進む僕らは無視される。これぞスナギツネクォリティー。縄張りなんてなんのその。あっという間に例の機械の下へ。
「いいかい。制御装置は中心部にある。中を開けて赤いボタンと青いボタンがあるから、十秒以内に二つとも押すんだ。それで自動運転から、遠隔運転に変わるから」
キタさんはいつの間にか、手にゲームのコントローラーみたいな物を持っている。
「よし、では私は右から行こう。たまよ左舷は頼んだぞ」
「うむー」
止まって地面に降りているお掃除ロボットSANBAを中心に二人が一気に駆け寄る。しかし先に近付いたスナコさんに気付いた(?)SANBAは、その場で高速回転を始める。――これじゃ近付けない!
「スナコ、無理にでも行くんだ! また飛ばれるぞ!」
分かっていると、スナコさんが尻尾を逆立てて進むけど、空気がSANBAから吐き出され、そのせいで吹き飛ばされそうになる。そこに風で飛ばされて来たたまちゃんが転がってきたのを、スナコさんが掴んだ。そして投げた! ――うそん!?
「あ~れ~~」
見事たまちゃんは中心部に到達。取っ手のような部分にしがみつく事が出来た。
「いいぞたまちゃん! そのままそこの横にあるパネルを、上上下下左右左右BAと押せば開く!」
「そんな複雑なの~!?」
――なんで、○○○コマンドなんだ! そしてなんでそんな難しい感じのを!
と思っている間に悲劇は起きた。SANBAは、自分の上にある異物に気付くと、そのまま一気に上昇すると、そのまま速度を上げて飛んでいく。――え、たまちゃんが……。
「たーすーけーてー」
遠くからたまちゃんの悲鳴が聞こえた。
ギンコさんが撮影の移動に使っていたメタルコャを慌てて呼び出し、お兄さんと天さんにも合流してもらう。
「事態は一刻を争う……」
狐組の情報網(チベットからの傍受も含む)によると、日本一のスギ花粉県・静岡方面へと向かったSANBAは、既に自衛隊に捕捉され、未確認機として撃墜される恐れがあるらしい。既にスクランブルに入っているとかいないとか。――大事になりまくってる。
「メタルコャにて急速接近。そして、速度を合わせてたまを回収。しかる後にSANBAを撃ち抜く。どうだ」
「仮にも研究の成果なんだよ。どうにか出来ないかな」
「そんなことよりたまちゃんの安全が大事でしょ!」
ぎゃあぎゃあと決まらない会議の中、お兄さんがサングラスを外してみんなを黙らせる。
「俺が行く」
「スナ彦さん、危険じゃないの!?」
みんなの動きが止まる中、可愛いお目々のままスナコ兄は諭す。
「俺にいい考えがある」
『そこの未確認円形物体止まりなさい。返事が無ければ撃墜もやむ無しだ』
『たーすーけーてー』
スクランブル発進した戦闘機で無線で呼びかけたパイロットは混乱した。応答はあったが、これは一体……。そうこうする中、戦闘機以上の速度で迫るものがある。
『隊長! 未確認機が増えました!』
『なんだと!』
『今度は狐です! でっかい狐が! うわぁっぁぁあ』
環境に優しい油揚げ砲は、三機の内二機を綺麗に包むと優しく地面に降下させる。――本当強力過ぎない!? もう一機がメタルコャに攻撃をしかけようとするのを、肉球ハンドを伸ばして優しく包む。
『弾を無駄にするもんじゃない。高価なのだから』
そう言ってその掴んだままでSANBAに肉薄する。そしてーー僕は、メタルコャの口から射出されるとたまちゃんのすぐそばにトリモチで貼り付けられた。これが作戦。存在感ステルスの僕ならSANBAも警戒しないはず……というひどいものだ!
そしてその予想通り、着弾した僕は着ていた服からワイヤーを取り出してSANBAの取っ手に装着するとたまちゃんへと近付いていった。――うわ高いし怖いし寒いし。
「ニンゲン~~~」
「たまちゃんよく頑張ったね」
たまちゃんに命綱を装着し、僕は横のバネルに高速でコマンドを入力。そしてたまちゃんと、せーので赤と青のボタンを押すのであった。
**********
戦闘機は無事に回収し、そしてSANBAは無事に操作を取り戻した。今はメタルコャの機体の下に肉球ハンドでしっかりと抑え込まれている。
「ダーリンさすがね! たまちゃんも、無事で良かったわ!」
「それにしても、SANBAはなんでこんなところに……」
やはり花粉を撃滅に来たんだろうか。でも、全部吸い込みきれない気がする。
「何にせよ、世はすべてこともなしだな」
――いや、割と被害出してた気がするんだけどー!
僕は叫ぶ気力も無く、メタルコャの中でたまちゃんとぐったりとするのであった。
「いやー今回は相当やばかったね」
「作者が他に書いてるシリアス作品だったら、被害甚大だったかもしれんな」
「こめでーだから、ダイジョウブだって信じてた~」
「いやー危うくSANBAが野生化して増えるとこだったよ」
一体、キタさんは何を作ってしまったんだ!? 僕の叫びだけがこだまするのであった。




