タヌキ畑で捕まえて
ピローン♪
※作者より リアルに畑を現在タヌキに荒らされているので、スナコさんに代わりに戦って頂きました。なお、条例により捕獲並びに勝手な駆除は禁止されております(手が出せません)。
地域にもよります。
ピローン♪
「グレネードッ!」
その掛け声と共に飛んで行くパイナップル型の物を見ながら、僕はしゃがみこんで耳を塞ぐ。爆発の衝撃の後に耳から手を離すと、相手側のあちこちで悲鳴が上がっている。音が止んだのを確認し、スナコさんが旗を持って立ち上がると、敵陣へと進んでいく。
「フォロミー!」
それは、戦いを導く聖女の様だった。後に続く周りを見ながら、僕は静かに呟くのだった。
――どうして……こう……なった……。
**********
金曜日、夕飯を家で食べていたらスナコさんの携帯電話にメールが。スナコさんはそれをいそいそと確認すると、難しい顔で携帯を僕に渡してくる。
『発 母
明日ヒトゴーマルマル
救援求ムルナリ
食事他一切支給ス
着 スナコ殿』
読み終えて僕の顔はスナギツネ顔になった。スナコさんは【女子会】の後から、うちの母とは頻繁にメールをして仲良くなっていたみたいだけど、これは一体どういう事なんだろうか……。確かに元自衛官だと聞いていたけど、僕の前でそんな素振りを見せた事は無かったというのに。
見せて見せて―と、横から覗き込むたまちゃんに携帯電話の画面を見せつつスナコさんを見ると……。
「というわけだ。明日は実家に向かう」
――僕の実家のはずだよね……。帰るのが不安になってくるのであった。
「母さん、ただいまー」
「母上殿、スナコ以下3名到着」
何故か自然に敬礼するスナコさんに、ご苦労と僕の母が敬礼で応える。――なんだこれは……。たまちゃんまで真似して変な敬礼をしてるし……。
「とりあえず現場を見せるわ」
連れて行かれた家の裏の畑は、作物が取り去られ荒れまくっていた。なんでも最近タヌキの被害が酷く、出来た所から根こそぎ持って行ってしまうらしい。ご丁寧に隅の方ではタヌキのトイレまで勝手に作られていたそうだ。色々罠を仕掛けたりするものの、中々効果は上がらず、ついに救援を出したそうだ。――あれ救援要請だったのか……。
「という訳で、とりあえず今日は実際に襲ってくるのを見てもらって、明日撃滅といきたいのだけど、いいかしら」
さらりとトンデモナイ事を言う母さん。
「わーい撃滅ー!」
「うむ。まずは敵の戦力を把握だな」
――害獣駆除だよね!? これ害獣駆除だよね!?
不安な僕を残して、士気が高まっていった。
草木も眠る丑三つ時に起こされ、眠い目をこすりながら、畑を見下ろせるベランダに移動する。
「覗いてみてくれ」
寝ずの番を母さんと交互に行っていたスナコさんが、何やらスコープを指差す。────うっわこれ暗視スコープだ。なんでこんな物が我が家に。うちの家の倉庫なんかおかしいんじゃなかろうか。
そして畑を見てみると……。いるいる。一匹二匹のレベルじゃない統率の取れた集団が、丁寧に畑の作物を収穫してる……ってあのタヌキ達、二足歩行じゃないか!?
呆然とスコープから目を離してスナコさんを見る。何故か鷹揚に頷くスナコさん。
「敵が強いと燃えるな」
母さんが、珈琲入ったわよーと階下から声をかけるまで、僕は固まっていた。
**********
翌朝、うちの庭には何故か付近住民が集結していた。
「こゃーむ」
「きょあああ」
「こぁぁ……」
「コンコン」
――付近にこんなに狐が住んでいたなんて僕は知らなかったよ!
いわゆる茶色の毛皮の赤狐さん達だそうだ。彼(?)らもタヌキが最近幅を利かせて困っていたらしい。スナコさんがそんな方々を夜の内に招集したそうな。それにしても、なんで母さんまで当たり前にこれを受け入れているんだろうか……。
「スナコちゃんのお友達って聞いたわよ?」
「んむ」
さすがスナギツネ。縄張り意識の薄さを使って群れの一員として溶け込んでいる……。
とりあえず、倉庫にある物は自由に使っていいと伝えると、母さんは仮眠の為に布団に入って行った。
「タヌキ諸君。我々は話し合う用意がある。要求を聞こうではないか」
スナコさんが何故か、妙にリアルなスナギツネの顔がプリントされた旗を持ち、武器が無い事を示すために、両手を上にあげながら裏山の前で声を張る。なんでも【付近住民・狐】によれば、ここにタヌキ達がいつからか集まってしまっているそうだ。と、数匹タヌキが顔を出したかと思うと、何匹かが山の上へと走っていった。
「ふむ……。斥候か。大分組織だっているな」
既に簡易ビクトリー体操を行い、統率がとれた狐達。それを従えたスナコさんがそんな事を言う。そして、少しして大柄なタヌキを伴ってさっきタヌキたちが戻ってきた。
「スナギツネよ……。何故、斯様に助太刀をする……」
「我がつがいの母の土地なれば」
「左様か……」
大柄なタヌキは、顎髭ぽいものを触りながら何やら考えている。しかし、なんだろうこの貫禄。そのまんま大きな信楽焼じゃないか……。
「我もここの長としての矜持、責任がある。養えねば群れは壊滅する」
「つまり……」
「力づくで追い出すがよい……」
その言葉と共に、チュインと旗が撃たれる。
――武装してる!?
それを軽々と回避しながら、スナコさんは旗を持ち上げ宣言する。
「よろしい。ならば戦争だ」
隠れていた狐がパイナップル型の物を投げると共に、戦闘が始まった。
前に突出している形のスナコさんにタヌキが数体殺到する。それを、エアガンで牽制しつつ、スナコさんが叫ぶ。
「貴様らなぞ、銃は要らぬ。さぁかかってこい」
そして、自分の真上に銃を投げる。これ幸いと殺到したタヌキ達に、旗をつけている棒をまるで槍か何かの様に振り回し、近づいたタヌキをつつき、後ろから迫ったのは、そのまま棒を引いて突く。あっという間に数体が倒れ、そしてスナコさんが手を伸ばした先に銃が落ちてきてキャッチする。
「修練が甘いな。次!」
――スナコ無双だった……。
「たまちゃーん、ファイアー!」
肩に担いだバズーカ的な物を撃っては、素早く移動するたまちゃん。撃つ度に、相手がアクション映画みたいに吹っ飛んでいる。
「ひるむなー撃てー!」
「ぽこゃー!」
迫る弾幕に素早く走って回避すると、持っていたバズーカを捨て、タヌキ達に突っ込むたまちゃん。
「まぬーる……あたーっく。あたーっくあたっくぅぅー」
段々てきとーになりながら片っ端から吹き飛ばしてる。あれはタックルなのか、パンチなのかもうよく分からない。空から吹き飛ばされたタヌキ達が受け身を取りながら落ちてくる。ある意味どっちも凄い。
「んふふふふ……。うちの林檎は、国内シェアは低いけどね……」
両手に持った銃でそれぞれ撃ちまくり、弾が切れた瞬間に背中からショットガンタイプのエアガンを出してきて、ポンプアクション(銃の下の方をガシャンってやるあれだね)で撃ちまくる。
「ホテルにも卸してる高級品なのよー! それをそれを!」
さらに弾が尽きると、腰に挿した木刀を引き抜くと、チェストォと片っ端から斬りまくる。
うぎゃーぽこーすみませぬーと悲鳴が上がる中、我が母の低い笑いがこだまする。――うん、これ完全に八つ当たりだ…。
後ろからついていくだけになりつつある【付近住民・狐】たちと僕らは、あっという間に山を占拠していくのだった。――あ、僕もたまにエアガン撃ってるよ。全く当たらないけど……。
***********
「長よ……六合目まで、狐共に占拠されました……」
「やりおるな……。こちらの被害は?」
「ハッ……。唐辛子入りの手榴弾により被害甚大。以前調達したエアガンもまもなく弾が尽きる頃かと」
潮時か……と、空に見える月を眺め、長が呟く。
「俺たちゃ明日っから……、どこに行ったらいいんでやしょうね……」
「風の吹くまま気の向くまま……。あても果てしもねぇ……旅へ立つのだ……」
泣きながら親分に集まるタヌキ達。
「生まれ故郷のタヌ定村から、縄張りを捨て国を捨て、別れ別れになる門出だ……」
むせび泣きが辺りにこだました。
「どうしようスナコさん……。完全に僕ら悪役だよ……」
実はとっくに山も占拠し、タヌキ達を追い詰めたんだけど、何だか涙の別れみたいなのが始まってしまい、動くに動けない。狐達も一緒になって大多数がもらい泣きしてる。あ、たまちゃんまで大泣きしてる。
「長よ!」
ガサリと茂みをかき分けてスナコさんがタヌキたちの前に顔を出す。銃を足元に捨てると、スナコさんはキリリと尻尾を膨らませながら言い放った。
「私にいい考えがある」
**********
「いらっしゃいませー。たぬたぬ村へようこそー!」
「あ、3名ですー」
「ご案内ー!」
元々、縄張りを追われて流れて来たタヌキ達の群れに、スナコさんが提案したのはこれだった。【きつねむら】のノウハウを伝え、場所を用意し、ネコカフェの様に小型店舗からスタートしたのだった。客入りは上々。お客さんも楽しそうだ。
「おぉ、スナコ殿とそのつがいの人間殿よ。よくいらした」
着流し姿のおじいさんに化けている狸の長が、笑顔で迎えてくれた。この度は大変世話になったと、深々と頭を下げるのをスナコさんが止める。
「方法を教えたが、実際にここまでしたのはあなた方だ」
その言葉に改めて感謝の礼をする長。新たに入ってくるお客を綺麗めのお姉さん達が案内している。開店前から、ハイレベルのお姉さんが接客するというのも話題になっていたそうだ。――ほとんどメスだったのね。
「して長よ……例のものは」
スナコさんの言葉にスッと奥からスーツケースを持ってくると差し出す。中には採れたての新鮮な野菜が並んでいる。何だか見たことがある様な。
「あの畑は本当に素晴らしいです」
「母上の技が詰まっているからな」
――まだ奪っているのかー!
僕の叫びがこだまする。それをしたり顔で見詰めてくる二人。
「ちゃんと契約農家になって頂いておりますよ」
「そうだぞ。既に畑の収穫の際にも雇用しているそうだ」
当たり前の顔をしてそんな事を言う二人に、僕は狐と狸に騙された様な気がするのだった。
尚、ノウハウを教えたのは、相変わらずヘロヘロのキタさんだった。
「えー皆さんいいですかー。愛嬌を振りまくというのはー」
「ぽこゃーぬ」
凄く、カオスな教育現場だったのを、僕は記憶している。




