これからは戒めよう
暗い中で目を覚ます。
い、生きてる……!?
自分の予想外の生命力に感心してしまう。
あれ? スタミナって、なくても案外大丈夫だった系?
とりあえず、ステータスを確認してみる。
〈ステータス〉
龍種Lv:8
パラサイト・アンデットドラゴン
ENE:31/31
STA:10/35
SAN:052/147
MAG:20/20
DRA:61/61
KAR:083/100
〈スキル〉
『不死身』『魂魄攻撃無効』『燃焼攻撃無効』『体内寄生』『拘束効果緩和』『虚時間幽閉』『生体吸収』『判別分析』
全てを理解するまでに数秒。
……なんだ、そういうことか。
でも、それをやっても私の経験値になるのか……。
はあ、スタミナが尽きて生きていたのは、ひとえに『不死身』のおかげだろう。
それでも普通なら、意識を失って終わり。
もう取り戻すことなんてできないはずだ。
けれど、私は違った。
スタミナが尽きている間にレベルが上がったのだ。
そのレベルが上がったときに上がったスタミナの値ぶんだけ、スタミナが回復した。
例えるならば、瀕死の重傷を負ったモンスターに、不思議な舐めるお菓子を与えたみたいな感じだ。
そうすると瀕死から復帰するんだよなあ。
とりあえず、『生体吸収』を使ってスタミナを目一杯にまで回復させる。
なんというか、今回は運が良かっただけだ。
あの虫王には黙祷を捧げよう。
いや、死んでないかもしれないが。
さて、腸内探索の続きだ。
もう絶対に怪しいやつには近づかない。
遠くからネバネバしてやる。
――すると唐突に、御館様からスタミナを吸収できなくなる。
理由は想像できるが、『判別分析』を発動。
〈ステータス〉
高位竜Lv:88
グレート・ロングドラゴン
ENE:1125/1131
STA:318/740
え、レベル上がってるし!?
これ以上強くなられるおつもりですか御館様。
それはいまは置いておこう。
どうしてスタミナの吸収ができなくなったか。
ついに御館様がスタミナの減少をまずいと思われたんだ。
そして、吸収を拒絶するスキルみたいなのを持っているはず。
それが寄生虫を飼っていても死なない理由であろう。
というか、私がスタミナを吸収しているのに気づかれたのって、ついさっきなんじゃないか?
大方、スタミナの減少量が少しおかしいと思ったから使ってみた的なことだろうか。
なんで常時使用にしてないんだろ。
まあ、いいや。
これからは寄生虫のスタミナを奪って生きるしかないか。
後どれだけ私にとって無害な寄生虫がどれだけ残っているか。
せめて、私が外に出るまでもってほしいものだ。
腸内を歩いていく。
寄生虫の捜索と並行して、御館様のスタミナを奪うことに挑戦し続ける。
いくらスキルで防がれていても、僅かずつなら奪えるのではないかと思った結果だ。
難しい。
詰まってるような感じで吸収されてくれない。
何かもう少しでできそうなんだ。
努力をしながら進めば、また寄生虫と出会ってしまう。
勿論、今回は虫王じゃない。
あんなのがゴロゴロいてたまるものか。
それにしても、どうしようか。
寄生虫のスタミナと私のスタミナを見比べる。
うーん、このまま全部吸収したら余ってしまう。
節約を考えた方がいいのか? 節約を考えた方がいいのか?
うぅう……。
よし、待機だ。
誠に、誠に不本意だが、寄生虫の観察をしよう。
腰を落ち着けることにする。
寄生虫は私に気がついてない模様。
はあ、それにしても、ねちょっ、とした感覚が気持ち悪い。
やはり一刻も早くここから出たい。
でも、しかたないか……。
いま我慢すればいいんだ。
やることもなく、私のスタミナが減るのを待ちながら寄生虫をただ見ている。
寄生虫も何もせずに呆然としている。
やはり今は体力を温存するべき時期なのか。
だが、いくばくかしたとき、そいつは唐突に動きだした。
なんと、顔を腸壁な地面に擦りつけているのだ。
何やってんだろ?
ちょっと寄生虫のステータスを確認してみる。
そうするとなんと、スタミナが少しずつだが増えているのだ。
次いで御館様のステータスを確認する。
エネルギーがものすごくゆっくりだが減っていく。そして、すぐに回復する。
えっ、なに?
もしかして飢餓ってるの私だけ?
寄生虫は大してスタミナがたまらないうちに補給をやめる。
そ、そうか……。
こいつらは御館様の怒りを買わない程度にちまちまとやってるわけか。
寄生虫どもを一掃できるスキルとかありそうだもんなぁ……。
私は調子に乗りすぎたせいで御館様に弾かれてしまったわけだ。
いや、そもそもスタミナ自体を奪うという行為が琴線に触れたのか。
まあ、後悔はしてない。
さて、じゃあこの回復したてのスタミナを吸収しよう。
私は、寄生虫が回復したら吸収、回復したら吸収なんてコスい真似はしない。
もちろん、非効率的なことはわかっているが、それはなにか私の流儀に反する気がする。
ということで、飛びかかる。
私が触れればそこから吸収が始まる。
寄生虫だって生きたいのだろう。
当然、私を振り払おうとしてくる。
けれど、生きたいという願いは私も同じ。
そう、これは生きるためなのだ。
私の場合は少しワガママも混じってるかもしれないが……。
しがみつきながらスタミナを吸収する。
しかし、やはり上達してきたのだろうか、一気に吸い取れている気がする。
これが御館様のスキルを突破しようとした成果。
無駄じゃなかった!!
きっと寄生虫は大量にスタミナが削られる脱力感に苛まれてのことだろう。
まだそこそこにスタミナが残っているというのに、私を振り払おうとする力が弱くなる。
それを感じてつい、私自身の成長が理不尽なものに感じられてしまった。
ここまで圧倒できるようになってしまったんだ。
これがきっと、種族差なのだろう。いいや、どこか龍種は異常に優遇されている気がするのだ。
もしかしたら、この御館様だって、遠い存在ではないかもしれない。
まあ、真正面から御館様と戦う日なんて、もう一生こないってことは確信してるんだがね。
もう寄生虫はぐったりとして動かない。
数値を確認してみれば、まだ死んでいないことが理解できる。
では、なぜ――?
なんだろう。もう、疲れたのだろうか?
生きることをあきらめたのだろうか?
――やっぱり虫は動かない。
こんな虫に、私は止めを刺そうとする。
スタミナだけではない、エネルギーも吸い尽くして。
私は勝ったんだ。これでいいはずだ。