表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/80

終わる、終わる

「なんだ、リチィか。邪魔するんじゃない。忙しいんだ」


「ひどいですよー、久しぶりに帰ってきたのに、そんな扱いなんてー」


 邪険に扱われ、腹がたつのも仕方がない。

 イウと言う名の彼にこき使われてから、彼は頑なに私を帰してくれようとはしなかった。


 隙を見て、空間結晶を使い、ようやく久しぶりにここへ戻ってこれた。

 それなのに、その態度は、ちょっと苛立っても許されるのではないか。


 相変わらず、汚い。

 書類やらなにやらが散らばっているのは変わらない。

 片付けたこの間からかなり時間が経ってることは承知の上だが、それでもここまでとは。


 まず、私の親まで遠い。すごく遠い。

 今は机に向かって何か作業をしているようだ。

 どうやって近づいて行こうか迷うくらいには書類が床を埋め尽くしている。

 ここまでくれば、なにか病気でも持っているのかと疑ってしまいたくなるほど。


 もっとも、私みたいなものを創れる人が常人であるはずがないのだが……。


 肩をすくめて、書類を拾い集めながら進んでいくことに決める。

 だいたい目を通して幾つかのグループに分けながら、まとめていく。


 大して気になるような資料はなかった。

 ただ、とにかくその量は、膨大とまでは言うほどではないが多かった。


 全てを拾い集め、束にする。

 なんとなく、繋がりが感じられるものを連続するように。

 本を作っているような気分で紙を積み上げる。


 これはもう、辞書でもできそうなほどだった。

 不意に目の前の男をこの紙の束で叩いてみたい衝動に駆られる。

 惜しむらくは、背表紙がないことだ。


 思いっきり、勢いをつけて、振りかぶって、ジャンプしてパーンっ! と――


「ふおらっ……!?」


 空振って、コロコロと転がって、壁に激突してしまいました。

 その拍子に、手に持っていた紙たちは空中に逃げていってしまう。

 風は吹かず、私はその紙たちで埋もれる結果に。


「なにしてるんだ、リチィ?」


「ちょっと、すぐに散らかす悪いやつを成敗してやろうと思っただけです」


 私の返答に黙り込む。無視を決め込まれてしまう。本当に悪いやつだ。

 目の前に広がる白に対して徒労感を味わいながらももう一度、集め直す。


 考えて、考え抜いての順番だったが、改めて並べ直すと、まだまだ試行錯誤の余地が見出された。

 さっきの順はしっかりと記録してある。私に限って忘れることはありはしない。遠慮なく組み替えができる。

 ひたすらに悩むのも、少し楽しいことかもしれない。


「そうだ、リチィ、新しいモデルを作ったんだ。出力も多分、今よりも上。どうだ?」


 そう言って、なにか自慢でもするように尋ねてくる。

 けれど、機能とかそういうのは、はっきり言えばどうでもいい。私が望むべくはただ一つ。


「とびっきり、可愛いのにしてください!」


「リチィはリチィだ。リチィって分かる程度には……まあ、作ってあるんだ、――しょうがない……」


「じょうがないって……! 不安を煽るようなこと言わないでくださいよ! なんですか、認められませんよー、性能良くても可愛くないのはー」


「さ、準備をしてくる。少し待っていてくれ」


 あからさまに目を逸らして、こちらを見ずに、さっさとどっかに行ってしまった。

 一抹なんてもんじゃない不安が胸中に押し寄せてくる。


 やるせなく、気を紛らわせるため、床を使ってトントンと紙の角を揃えることに全力を注いだ。

 これがとても難しい。

 気分転換に顔を上げる。


 さっきまであの男の目を通されていた資料が、とても危ういバランスで、机の上から落ちてしまった。

 視界の端に映りこむ、竜の力を吸う剣について。

 いったい誰が使うのだろう。


 ***


 ひとまず、非人道的な行為により、無表情な女性は今、眠りについていた。

 『精神干渉』を全力でかけ続けているのだ。


 意外だったのは白い人の反応の方。

 大して気にした様子もなく、変わらず私を可愛がろうとしてくる。

 ちょっと怖い。

 今、白い人は地面に座っている。その膝の上に私は乗せられていた。がっちりと、抱きしめられていて……逃げられないよ? 逃げないけど。うん、逃げない。


 ともかく、普通ならこの無表情の女性、というより械龍に『精神干渉』はこんなによく効かない。

 けれど今は、白い人がスキルを封じてくれているらしく、もうなにか人格を変えられるんじゃないかってくらい簡単に染められる。


 白い人、スキル封じられるんだ。

 ちょっと反則だと思うなあ……。


 さて置き、どうイジってやろうかと思案する私。


 えっと、まずは喧嘩をしないように。

 これは白い人も関わってるから、これでイジるだけじゃ、なんとも言えないよな……。

 まあ、いいか、えいっと!


 完璧。はい、次。

 暴力はいけない……? そうだね、それがいい。適当に、私たちに攻撃しないようにしようか。

 たぁ……! これでよぉし。


 後は、後は?

 訊かれたことにちゃんと答える。もっと私を頼ってほしい。全部吐き出してほしい。


 ああ、そうだ。どうしてか、無表情な女性がした今までのこの行動は、思い詰めた果てのものに見えてならない。


 頑張れば止められたんじゃないかって……。おこがましいことだ、無理だったからこうなったんだ――だけど、とても辛そうなだっから、その苦悩が、悲痛が、心を通して伝わってきたから、今も直接、我がごとのように響いてきている。『精神干渉』の弊害だった。

 だから私は、きっと、そう思わずにはいられなかった。


 終わった。

 これで平和は訪れる。

 なにか金属みたいな翼こそは消えていないが、おとなしく、とても気持ちよさそうに眠りにつく無表情な女性。

 もう、すべてから解き放たれた。解き放ってあげた。それが正しいことかは知らない。


 髪を梳けば、サラサラとして、引っかかることもなく、私の手は通り抜ける。

 今度はきっと私の番だ。私がこの子を――



 ――不意にだ。

 後ろから足音がした。

 白い人ではない、座ってるんだから当たり前。



 同時にそこから、大きな反応がした。『空間把握』で、異常なくらい。いまだかつて、感じたことのないくらい。

 それはとても強く、このスキルに気を使わなくとも、嫌というほど主張してくる。


 ――気がつかなかった。

 これほどなのに近付いてくるまで何も。一体こいつは何者なのか。


 そしたら私は丁寧に、白い人に膝の上から降ろされた。どうしてだろう。


 聞いたことのない声、女性の声。よく通る、そして響いて、とても怖い。


「……三。なぜ残った……どうしてだ? なあ、ソフラ……だったか……まあ、いい。言葉通り、殺しに来たぞ?」


 力強さが感じられる。私はとっさに萎縮してしまう。

 その言葉には殺気が乗り、一点に白い人へと集中した。


「ミツホちゃん、お願い。リチィちゃんを連れて逃げてくれるかな?」


 とても弱気な発言だった。

 この私の知る中で一番強い白い人に、何がそう言わせているのか。

 好奇心から、私はその大きな存在感を持ったそれに顔を向けた。


 女性だ。人間の姿をしている。

 目が冴えるような輝きを持った金髪、まっすぐと綺麗、長さはだいたいショートヘアーといったくらいだ。

 その無駄に均整のとれた顔、誰が見ようと美しく、ただ一つ、その中でキツい目だけが強い主張をしている。赤く覗く眼、よりいっそ、その強さを際立たせ、自我の強い、傍若無人と言われるべき性格なのが、ただ見ただけで感じ取れる。


 そしてだ、本能がその存在を否定する。

 これは龍と相対した時と同じ、それ以上に、いつもより強く感じる。


 ああ、霊龍は白い人、械龍はこの無表情の女性、妖龍はこの私。

 残る龍はただ一体――



 ――目の前の龍は、おそらく祖龍だ。



 ようやくラスボスの登場です。

 倒せるだろうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ