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アンハッピー・バースデイ

 目の前に立つのは私の創造主たる男性。


「そうだな……お前に名前をつけなきゃいけない……」


 感情の見えない深く、暗く、鋭い眼差しで私のことを見つめている。


「名前……ですか……?」


「そうだ、……名前だ」


 その真剣な表情。どうしてかはわからないけど、そこから目を離してはならない気がして。


「元素記号、三、わかるな?」


「はい、それならちゃんとデータは入っています」


 そう答えれば、肩を落としてホッとしたようにため息を吐く。


 そして、覚悟を決めたように私に向けて語りかけ――


「お前はリチィだ。多分これから、簡単に影響を受けて、受けやすくて、絶え間なく、お前は変わっていくんだろう――」


 強い眼差し。

 とても伝えたいことがある。

 私にはそれがわからない。


 優しい手つきで髪の毛に触れて撫でる。


「それでも私は、いいや、俺は、どうなろうと、全ての責任を取ってやる。……すまない。本当に……すまない」


 なにに懺悔しているだろう。

 黙って聞いているしかできない。


「どんな結末に至っても、俺にはお前を憎むことなんてしないし、できない。だから、俺を、この、哀れな俺を――」


 それ以上の言葉はない。

 なにが言いたいのかはわからない。

 なぜ泣いているのか。


 それでも私は、笑っていてほしかった。


 ***


 私は部屋に入った。入ったはいいけど、すごく元気がない、今にもくたばってしまいそうなくらい。


 ちょっと、最後のあれは使いたくなかった。プライドを傷つける。

 死ぬよりはマシだけど、私を利用しやがった誰かの思惑に乗ってるみたいで嫌だ。


「光穂ちゃん……、これ、ちょっと……どうなってるんですか……!?」


 足止めは完璧だ。

 無表情な女性はネバネバに苦戦して、期限付きだが動けない状態になっている。

 これが本気だ。


 まあ、集中力が削がれて他スキルをまともに使えない状態なんだけど。


 全部送ると見つけるのが難しいんだ。すぐなら戻せるけど、向こうで動かれたりすると無理。

 だから一部分を歪めたトラップを張って、行動を止めさせてもらってる。


 下手に動くと、さっきの弾丸みたいになるよ、てね。


 とりあえず、時間がない。いつ抜けてくるかわからないから、早急に探し物を済ませるしなない。


 と言っても、なにを探せばいい。

 手がかり皆無。

 どうするよ。


 私はフラフラと本棚の前に立つ。

 資料からゴソリと一つ引っこ抜く。

 「龍の存在意義」、前から気になってたんだよね。


 て、そんな場合じゃないだろ!

 まあ、いいか。

 私はパラパラと流し読みをしていく。


 ふーん。へぇー。マジかー。ほえー。

 ……て、えっ? えぇっ!? なんとぉッ?


 あの、黒いドロドロって、なんだったの?

 ねえ、ほんとなんだったの?

 妖ってなによ? 妖って……。


 そうだ、そんなときこそ「魔力の性質」。

 あれ、魔力高かったし、何かわかるのかもしれない。


 ふと、無表情な女性を見やれば、顔に暗く影を落とし、うつむき、その手は強く、震えるほどに固められていた。


 私の速読スキルにより、大した時間もかけずに魔力がなにか理解できる。

 それはつまり、人々の信仰だ、畏敬だ、不安だ、恐怖だ、願望だ、想像だ。


 すごい、利になる、もっともっと、って、なったら聖。

 やばい、気まぐれ、もしかしたら、って、なったら霊。

 こわい、災いかな、もういやだよ、って、なったら妖。


 うん、わからん。


 とにかく、あの黒いドロドロは近年稀に見る魔力により変異させられた生命体だということがわかった。

 人の想いによる力に捻じ曲げられた哀れな被害者。何かよく分からないが、この世界では多くの人が思ったことに力が生まれるらしい。

 一人一人は、とても微弱な。


 ここではその想いを受け取る何かを「魔素」と定義付けてある。実際に多くのその「魔素」が影響を及ぼし、及ぼされ、行使できる力こそが魔力だと呼ばれて。


 ちょっと待てよ、なんでレベル上がると魔力増えるのよ。使うと減るのよ。

 ……私、使ったときないけど。

 まあ、吸い取ったときならあるか。


 あれ、勝手に魔力って呼んでたけど、エムエージーじゃね? エムエージーだ。

 結局なんなんだこれ。


 えっと、あるときを境に大きな力で機械的な確立がなされた?

 その力は……だめ、理解しきれない。専門用語みたいな何かは使わないで。


 地面に私は投げ捨てた。

 これ以上はキャパシティーを超えている。記憶だけして、後でゆっくり飲み込もう。


「これ……」


 さあて、一歩引く私は、気になった写真を手に取る。


 容赦も躊躇もなく飾られた写真を引き裂いていく。


 無表情な女性は唖然とそれを眺めていた。


 一つの、龍の刻印がされた、メモリーカードが地面に落ちる。


「そ、そんなところに……」


 いや、知ってたんじゃないの?

 だからここに来てほしくなかったんじゃないの?


 これが械龍だ。きっとそうだ。

 もともとがどうだったかは知らない。

 けれど、ここの所長と呼ばれる男の技術か何かで、こうなってしまったのだとおおよその推測はできる。


 私は械龍メモリーを手に取る。

 抵抗する様子はない。おそるおそる、私の手でつついても、爆発なんてしたりしない。

 大丈夫だ、安全だ。


 えい!!


 パキッと割れた。

 あっけなかった。

 ちょっと、今までの苦労がなんだったのかと思えてくる。


〔条件が満たされました――〕


 あの声が聞こえてくる。

 本当に、終わったらしい。安堵から私は力を抜いて、床に座り込み――


〔――ザッ……ザザッ……〕


 いつかのように何かノイズが聞こえて来た。

 どういうことだ。

 これで終わりじゃないのかよ!?


〔スキル【背理】の干渉により、械龍の蓄積龍因が移譲されます〕


 予想外だった。考えが甘かった。これだけで終わるわけがない。

 あの、チートコードみたいなスキル。とてもとても卑怯じゃないか。


 その移される先はきっと……。


「うぅ、あぁあ゛あ゛ぁ、く゛う゛ぅ……」


 苦しみの声が聞こえてくる。

 ああ、なんということだろう。

 ここまで追い詰められているというのに、どうしたらいい。


〔龍種権限発動。現在、生存中の上位龍――〕


 そうだ、教えてほしい。

 何がまだ、生きているのか。

 後何体で終わるのか。


〔――械龍、霊龍、祖龍〕


「……これでもう、完全に。もう……破片でも、取り出されて、構築された一部でもない。私が完全な龍になりました……!!」


 械龍、アルギスリチィス。

 それが表示される名前だった。

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