表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/80

いやだ……っ、ぜったいに!!

 襲い掛かった私。

 《龍纏・穢》。

 竜力を全身に巡らせ、適応をしようとする。痛みは緩和されるが、まだ完全に消えることはない。


 だいたいなんだ。なんだったんだ。

 なにがどうされて。具体的な原因がわからない。


 勝手に動く私の身体を、ただ漠然と見守っている。

 正直、誰を応援したらいいのか、測りかねているところだった。


 『狂気化』してるところ悪いんだけど、スキルに『精神干渉』というものがあるんだ。

 これ、使ったら、治せるんじゃね?

 治した方かいいのかな。


 私はムカデ剣を使って、龍を排除しようとしたそれを、叩こうとしている。

 ただ、竜力をそこに回す余裕はなく、伸ばすことなく振るい、外し、床や壁を大きく破損させるだけだった。


 筋力の強化をしていない。

 竜力は全て《龍纏・穢》に回しているため、《龍纏・獣》は使っていない。

 それなのに、これほどの力が出ている。明らかに『狂気化』の影響で、完全に身体が無理をしている状態だろう。


 標的であるそれは反撃を、一切しない。

 銃をおろし、軽やかに避けるだけで、進んで攻撃をしかけようだなんてことは、一度もない。


 待っているのか。私が力尽きる、その瞬間を。


 空中を飛び交う。

 黒いドロドロは、もう周囲一面に散っていた。

 触手のように伸び、それを捉えようとうごめく。


 上と下からの挟撃。

 正確には、平面上の三百六十度を黒いドロドロが、空いた頭上を私がフォローする形だ。

 逃げ場なんかはない。


 銃撃が放たれる。

 右、左、それぞれの手から。

 黒いドロドロは弾かれていく。


 放たれた弾はたったの二発。

 しかし、ふざけたことに、ありえないことに、当たるごとに跳弾をして、一つ一つ相殺されていく。全て消える。

 躱すこともなく、足を動かすもなく、それは不敵に佇んだ。


 上からの斬撃。

 不動だ。今更になって、踏み出すという行為をそれはしない。

 迫られるが、一向に避けたりはしない。


 ――だってなぜなら、【虚飾】だから。


 幻が通り抜ける。

 念には念を。その試みが、やすやすと見抜かれたのだ。

 余裕を持った微笑で、それは私に目を合わせてくる。悪い想像を自ずと感じさせてしまう。


 私は構わず振り抜いた。

 もし制御権があったなら、どうにかして攻撃を取りやめたくなるその一手。

 果敢にも、やりきった。


 案の定と言うべきか。

 それには傷一つ付かず、私の目の前で、フラッと一歩。

 そしてなぜか、その両手からは、武器が床に落とされる。


 攻撃が当たらず、警戒が強まる。

 武器が捨てられ、困惑が極まる。


 それも束の間。

 彼女は、気がつけば。

 それはつまり、私が気がつくよりも早く。

 近づいた。



 そうして、私は抱き締められる。



 私は完全に硬直をした。

 もしかしたら、なにかスキルを使われているのかもしれない。

 ただ、それに大した意味はないのだろう。


 彼女は囁いた。


「龍というのは、辛い運命が待っています。祖龍がいる限り、あれに勝てる龍はいません。だから――」


 ――私が……。


 泣きそうな、声だった。

 そして、理解する。明確な最後を認識した。


 ここまで、長かかった。

 いかんせん、流される情報量が少なかったし、ようやくこれで、だいぶん今までの不明瞭さから抜け出せる足がかりが掴めた気だ。


 スキル『精神干渉』を、私に使用する。

 妖龍きょうきを抑えて、私の意識を引っ張り出す。


「――ゆるさない……」


 そして私は呟いた。

 変化について、立ち直った私について、この抱きしめる彼女はわかっているはずだ。

 私は背中を摩られて、あやすように理想を説かれる。


「大丈夫です。少し眠れば、朝は来ます。ええ、素晴らしい朝が……」


 なんて自己犠牲的なのだろう。

 なんて自己中心的なのだろう。


 大笑いだ。そんなこと、私には通用しない。

 その朝というのに、この機械仕掛けの哀れな娘はいないはずで。

 そんなもの、少なくとも私には、素晴らしいなんて言えるはずがない。


妖龍あなたで最後なんですよ。だからこのまま、大人しくしてください。そして、これで――」


 ひどく、諦観に近いものだった。懇願に近いものだった。


 なにがそこまで駆り立てているのかは、しりもしない。

 ああ、私には。あの、彼女には、わかるのだろうか?


 最後というと、白い人がどうなったのか。

 おそらくは、瀕死の状態で放置されているか何か。

 確認をすればすぐにわかる。

 だから私は取り乱さない。


 一人の機械は続けて言った。


「これで――終わりにしよう……」


 これまでで、もっとも、感情おもみのこもった一言だった。

 そしてどうしようもなく、目の前の存在こころが、存在意義を失って、自暴自棄になっているようにしか見えない。


 ああ、わかった。

 どうして私は不信感を抱いたか。

 簡単な話。人間味が薄れたからだ。人間味こころが磨り減っていたからだ。


 所長と呼ばれた男を殺したこと。

 ただ淡々と、決められていたことのように。せっかくの、涙をながさず。まさにそれは、機械のように。


 思い出す。

 目の前の彼女と、あの男のやり取りを。

 彼女はふざけてからかって、あの男をうんざりさせる。その流れに、どうにも嫌っていたようには、思えることができないはずだ。


 彼女の思う通りには、してはいけない。

 それはきっと、最悪なパッピーエンドだ。


 だいたいだ。

 私を誰だと思っている。


 まだ痛みは完全に引いていない。適応しきれてはいない。

 きっと、この龍纏をといてしまえば、また龍の排除は再開されてしまうのだろう。

 しかしそれは、出来ない相談だ。


 私はもう一度、今度は意図的に『狂気化』を発動させる。

 龍が現れ、支配を開始しようとする。

 これでいい。


 私は妖龍だ。それ以外の何者でもない。

 ver2でも、ましてやMk-Ⅱなんかでもない。

 あからさまに妖しい黒いドロドロな龍だ。


 だから、でこそ、それにより、自信を持って、自身を以って、終わりにしよう、その言葉を――


〔カルマが一定に到達しました。査定を実行中……〕


 ふふ、なんてタイミングなのだろう。

 この声の主が計らったとしか思えない。

 それとも、運命が味方したのか?


 そんなのは些末な、関係のないことに違いない。


〔完了。カルマを清算して、罪科系スキルを取得します〕


 さあ、なにがくる?

 聞こえのいいスキルでは、きっとないはずなのであろう。

 それでも、期待してしまうのが、どうしようもないさがってやつだ。


〔スキル【驕矜】が取得されました。スキル『強制行動』、スキル『狂気化』は、【驕矜】に併合されます〕


 『強制行動』は、エネルギー使って無理やり動くやつ。

 併合されたものたちを鑑みる。なんか、癖のありそうなスキルだろうなあ。


 でも、いいさ。

 おかげでなにか、力をもらえた気がする。気がするだけでもきっと大事だ。



 ゆえに、私は答える。


 終わりを望む、その問いかけに。


 私は、真っ向から――



「いやだ……っ、ぜったいに……!!」



 ――否定しよう。


 抱きとめた彼女を、私は押し退けた。

 なかなかにこの話も、終わりが近づいている気がする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ