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ちょっとした決戦前

 考える。

 自身をこの境遇に落とし込んだのは。

 考える。

 自身に親切にしてくれた人を。


 いろいろな顔が浮かぶ。

 憎むべき敵をはっきりと意識していく。


 考えろ。

 どうすれば障害をくぐり抜けられる。

 考えろ。

 きっと方法があるはず。


 大切なものをそのために傷つけるのは、とんでもないことだとして、どうすればいい。

 絶対にゆずる気はない。


 もう、いてもたってもいられない。

 けど、今はダメだ。

 準備をしなければ。


 なんでか、協力してもらえないみたい。

 それじゃあ、どこにいるのかわからない。

 適当に探すしかない。


 そんなことでいいのだろうか。

 いや、よくない。

 また迷うのが落ちかもしれない。そしてさまよううちに見つけられて帰還。


 やっぱり協力は必要だ。

 なのに返事ないし。

 悲しい。もうどうすればいいかわからない。くじけそうだ。


 むー。

 別にいいや。どうせほっとけなくて力を貸すハメになるんだ。

 ヤツはツンデレなんだ。


 勝手に決めつけて脱走の作戦を練る。

 まず、白い人の対策。寝てるときでいーや。よくわかんないけど、ぐっすり寝てるし。

 無表情な人は、まあ、アイツは適当だから適当にしとけばいいか。


 よし、完璧。

 これであの男に苦しめられたお返しができる。

 ふっふっふ。今に見ていろ。


 どんな隠し球を備えているか知らないが、キャツは人間。

 龍たる私にどう足掻こうと勝てるはずないのだよ。


 龍といえば、械龍が気になる。

 どこにいるかわからなかった。

 隠れてるのかな。仲良くなれるかな。

 攻撃してきたら殺すけど。


 そう、どうにでもなる。

 黒いので一瞬だよ、一瞬。

 触れれば【搾取】が発動して勝ち。このスキルさえあれば、なんにでも勝てる自信がある。


 前の龍のときはギリギリだったけど、次は上手くやれる。

 対面したら三秒で勝ち誇れる自信があるね。


 早く寝る時間にならないかな。

 そうしたらここを抜け出せるのに。

 サッとって、サッと戻ってきて、なんでもない顔でいつも通りに過ごす。

 それでいい。


 今の暮らしには満足している。

 だけど、あの男の居場所がわかってしまったんだ。

 もはや、決行するしかないのだ。


 バレたら怒られるだろうなあ。

 イヤだなあ。

 ああ、今からバレるなんて思っちゃダメか。


 上手くやるんだ。

 そう、きっと上手くできる。

 そんなスキルないかな。ないよな。


 龍種権限が発動しない。こんなんで発動したら逆に怖かったかもしれないけど。


「ミツホちゃーん! お風呂入ろー!」


 ハッ! 名前が呼ばれた。

 すでに習性的に声の方へと向かって行った。


 ***


 我輩はサボテンである。名前はまだ無い。

 クリミラリアシスという、種属の分類こそあれど、我輩自身に名前は付けられていないのだ。


 今、脱衣所に置かれている。

 むわむわと来る湯気が堪えこそすれど、我輩は自慢の耐湿性により枯れずに生き残っているのだ。

 なぜこんな扱いを受けなければいけないのか、甚だ遺憾である。


「いやーっ!」


「駄目だよ、ミツホちゃん! ジッとしてて!」


 湯殿からの声がここまで漏れ出て来る。

 大方、髪でも洗う所だろう。


 黒い少女は目に泡でも入るのが嫌なのか、髪を洗われるときは大声で拒否をするのだ。

 それでもここまで脱走を企てないのは、白い人にとっての救いであろうか。

 それとも、逃げる前に捕まっているのかもしれない。


 湯が波立つ音が時折聞こえど何事もなく、今日は平和であった。


 すると、脱衣所に新たに入ってくる人がいた。

 なぜか無表情な顔をしている、黒い少女より少し高い背丈で、黒と白のツートンカラーの髪をした、白衣の女性であった。


 一緒に入るのか、とも思ったが、入るや否や、こちらを見つめてくる。


 え、これ、ヤバくね?


 そのまま、数秒間微動だにせず、目をそらさない。無機質な視線で見つめられる。

 ヤダ、怖くない?


 どうしよう。どうすればいい?

 バレてる? バレてしまったのか。

 ジッと視線が固定されてる。


 こうなったら根気比べだ。

 堂々と見つめられてやる。


 しばらくそのままにしていたら、そっと目線を外してくれた。

 何事もなかったように白衣を脱ぎ始めた。


 どうやら、一難去ってくれたようだ。

 無表情な女性は白衣に続いて、黒いインナーに手をかけたそのときだった。



 なんか、バッて振り向いた。



 怖い。マジで怖い。煮て食われてしまうのか?

 ぷるぷる、ぼくわるいサボテンじゃないよう。……て、やってる場合か。


 油断も隙もなかった。

 訝しげにこちらを見つめてくる無表情な女性。果たして気づかれたのであろうか。


 しかし、見るだけで近づいては来ない。

 違和感を感じるだけで、その正体には気がついていないようだ。

 一安心。


 気を取り直した無表情な女性は、服を全部脱いで、タオル一枚持って、湯殿へと歩いて行った。


「光穂ちゃん。約束通り、来てあげましたよ!」


 そう言って入っていく。

 黒い少女の歓喜の声が上がり、バシャバシャとお湯の混ざる音が聞こえる。


「……本当に、来たのね」


 白い人の呟きが聞こえた。

 ただ、湯殿であるからそれもよく響く。おそらく全員の耳にも入っただろう。


「ええ。光穂ちゃんのご指名とあらば、たとえ火の中、水の中、参上(つかまつ)る所存で御座いまするよ? 今回は水の中ですね。」


 残念ながら、防水はバッチリですと付け足していく。

 無表情な女性は平坦な声ながらも、そうおどけて白い人へと返して言った。

 白い人の呆れ顔が目に浮かぶようだ。


 ジャポンと一つ、湯船の水が波立った。

 誰かが動いたからであろう。


「ミツホちゃん。あがるよ。長湯はのぼせちゃうからね」


 龍って、のぼせるんだろうか。

 そんな些末な疑問は置いておいて、それほど時間が立ったとは感じない。

 白い人、無表情な女性が嫌いすぎる。


「えっ!? 私は入ったばっかりなんですが?」


「……まだぁ……」


 無表情な女性は当然として抗議をする。

 わ……黒い少女も納得がいっていないようだった。


 しかし、この中では白い人が一番強い。

 もはや独裁政権である。多数決の原理なんて働かなかった。

 もう一度、お湯が音を立てる。


 あ、まずい。いや……いける。

 なんとかなった。


 湯殿から黒い少女の手を引っ張った、白い人が現れ出た。

 その引っ張られる黒い少女の表情は、優れないものであった。切なくなる。


 この二人はいつ見ても対照的なものだ。

 白い人のスタイルは抜群なものであるけど、黒い少女はぺったんこだ。

 少女なんだし仕方ないか。あとで怒られそう。


 体を拭いて二人とも服を着る。

 黒い少女は白い人に拭いてもらっていた。


 二人に遅れながらだが、無表情な女性も湯殿から出てくる。

 早い。カラスの行水だったのか。それとも結局入らずじまいか。

 詮無きことだね。


 二人に追いつく速度で素早く服を着る。体を拭いてないから後者だったのだろう。

 三人揃って、脱衣所から出て行くのであった。

 ブックマークを外される覚悟でやった。

 サボテンを買ったのはこのためだった。

 後悔はしてない。


 さあ、仕込みはこれで全て終わった。

 勘のいい人はきっと気がついてるはずだ。

 ネタばらしまで、……ヤバい、まだ遠い気がしてきた。


 というか、ネタばらしをしたら、ハ?(威圧)を読者にされそうで怖い。

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