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焦りを感じて

 残念ながら無事、私たちは迷うことなく建物から出ることがきました。

 白いお方が道を覚えていたせいです。


 幸いなのは、所長のやつからの戻って来いという命令はなかったことでしょう。

 それにしても、時間がないです。出力も落ちてきているし、いつ動かなくなってもおかしくありません。


 あの部屋に予備があると思いましたが、見当はずれ。

 偶然を利用して探し回ろうとしましたけれど、見事に失敗しました。私が道を忘れるわけありませんよ。


 はてさて、どうしたものか。

 お腹が空いたというわけで、近場の食堂に私たちは入りました。

 近場といっても、上流階級の使うような場所ではありません。


 豪勢な住宅地を抜けるとすぐに、さびれたような雰囲気を持った街道へと差し掛かります。

 そこに軒を連ねる建物の一つ。


 あまり賑わっているとは感じられませんが、お客もいないわけではない。

 白いお方は少し眉をひそめたようにも見えましたが、光穂ちゃんは私の味方。

 多数決の原理ですから。民主主義バンザーイ。


 まあ、そんな食堂にやってきたわけで、綺麗な格好をしているってだけで目立つんですよ。

 少なくない他のお客たちが、殺気立っているとわかります。


 こうなることはわかっていましたが、上流階級の店の方が面倒です。

 マナーとか、うるさいし。それにそういった観点からすれば、お二人のフードが剥がされてしまうかもしれません。

 そうしたら、厄介ごとに巻き込まれることが容易に想像でき、げんなりします。


 暴力行動とか、衛兵さんが飛んでこない場所じゃないと。

 白いお方は容赦なく他人を殺しますから。まず主食が生き物の魂ってところとか、恐ろしいこと極まりない。

 主にこの国の命運についてが心配になります。


 注文は、お二人に変わって私が。

 この国の識字率はお世話にも高いとは言えません。

 それにより、メニューとかは置いてないのです。


 光穂ちゃんは興味津々とばかりに、店の中をキョロキョロしています。

 それに対して白いお方は、不機嫌に私へと眼差しを送っていした。それはもう、人を殺せそうな目線です。


 関係ありませんが、目線で人を殺せるスキルがあったような、なかったような。

 はい、ものすごく怖いです。


 この方、わざわざ私を視界に留めておけるように、対面に座ったんですよ。

 その良いとは言えないムードに気がついたのか、光穂ちゃんが私と白いお方を交互に見つめます。


「こわい……。なかよく……!」


 舌足らずな口調と、言葉足らずな台詞。

 おててを精いっぱい使って、私のために白いお方のお目々から、見えないようにカットしてくれています。

 かわいい。


 光穂ちゃん。

 完全に幼児退行を起こしていました。

 監視していたのは所長でしたから、詳しくはわかりません。

 なにが起こり、どうしてこうなったのか。


 ――ああ、願わくば。

 いつの日かのように、もう一度だけでも、お姉ちゃんと呼んでくれたなら……。


 この子の一挙一動に。

 心が削られ、罪悪感が累加されていく。

 この子の見せる笑顔に。

 心が掬われ、そんな自分を責めたくなる。


 誰のせいか。

 強いて言えば、元凶は一人。

 それだって、環境さえ違えば、運さえ悪くなければ、こんなことにはならなかった。

 私なんていなかった。


 ――だれだって間違えはある。そんなときは、少しづつでも直していけばいい。償っていけばいい――


 ――きっと、赦されるから――


 そんな段階はとうに過ぎた。

 彼、には悪いですけど、私がやるしかないんです。私はやるしかないんです。


 だれもそんなことは望んでいない。そうかもしれない。私だって望んでいない。

 それでも、みんなのために。なにより、独り善がりな私のためにも。


 助けてと言えば、手を差し伸べてくれる人はいる。

 その手を掴んでしまえば、一緒に地の底まで落ちてしまいそうで……。


 光穂ちゃんは頬を膨らませながらも、いやいやにお手を引いていきました。

 白いお方の目、困惑の色が混じっていますが、まだ半殺しは余裕なくらいです。


 このときちょうど、定員さんがこちらに料理を運んできました。

 すごいです。普通に置いていきやがりましたよ。

 憧れちゃいますね。


 やってきたのは、朝食とは似ても似つかない貧相なものです。

 白いお方の機嫌が悪化していきます。



 ***



 白い人の機嫌が悪い。

 特に無表情の女性を見つめるときの視線がヤバい。

 どのくらいヤバいかって言うと、もはや天変地異の大災害が一度にいくつも起こしてしまいそうなくらいだった。


 私たちが行ったお店。

 出された料理は水団すいとんだった。

 具は大して入っていない。小麦粉を練ったやつをちぎったのが、無造作にダシ汁にぶち込んであった。


 みんな、文句を言わずに食べた。

 それゆえにきっと、不味かったとかそういうことはないはずだ。

 しかし、これが店に行ってお金を払ってまで食べるものだとすると、少し頭が痛くなる。


 この国は大丈夫なのか?

 富裕層はもっと贅沢な暮らしぶりだったりするのだろう。

 それでもそうだ、関係ないことだ。どこが滅ぼうと、どこが栄華を誇ろうと、龍たる私には大した影響を与えないのである。


 ふと、集団失踪事件が起こったなんて話をしているのが聞こえた。

 犯人はだれなんだろーなー。


 そんなことよりも重要なことが私にはあった。

 題して、仲直り? 大作戦。

 ?が付いている理由は単純。もともと、直るっていうほど良い仲でもなかったかもしれないからだ。


 今回の一件で、元々落とし穴の底くらいにあった白い人の無表情な女性への評価が、地殻突き抜けてマントルぐらいにまで行ってしまった気がする。


 核を貫く前にどうにかしなければと、立ち上がった。

 もう一回くらい地殻突き抜ければ、天に昇って行くのかどうかは知らないが、そんなのは嫌だ。

 二人には最低限、仲良くしてもらいたい。ただし、私を構ってくれる条件付きで。


「そうです! あの、いくつあったんですか?」


 いきなりガタリと立ち上がった無表情な女性。白い人へと、問い詰めるように声を上げる。


 急にビックリした。

 私なんか、もう少しで椅子から転げ落ちそうだった。

 いくつって、なんだよ?

 知らないところで話が進んでいる。ままならない。


「六つ。見た限り、それだけだったわ」


 白い人は事務的にそう答えると、今度はそっぽを向く。

 仲良くなれるのか、心配になってくる。こんなムード、私は望んでいないんだぞ?


「六つ……ですか。そうか、そうですか……」


 今度は無表情な女性が思案するようにうつむく。

 なにか小声でじゃべっているようだけど、ここからじゃ全然わからない。

 私はちびちびと残ったスープを啜ってた。


 この状況はまずい。良いわけがない。

 だれがなにを考えているのかが全くわからない。わからない。どうすればいいのかが何一つ。


 もう知らないや。どうにでもなれ。

 どうなろうと、責任は求められないはずだ。

 きっと最後はどうにでもなる。


 どうしようもない不穏を抱えたまま、私たちはこの店から帰ることになった。

 なにか取り返しのつかないことが起こる。そんな悪い予感がする。

 願わくば、そんなの当たっていてほしくない。

 前途多難だ。

 投稿遅れて申し訳ありません。

 リアルが忙しかったとか、そういうことではなく、単純に筆が乗らなかっただけです。

 頑張って続き書きます。

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