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対面する

「あんまり、はしゃがないでくださいよ?」


「そうね。前みたいに急にどこかに行っちゃったら、心配するよ?」


 お二人から忠告を受ける私。

 現在、人間の国の王都を訪れております。


 なんか、すごい豪華だ。

 キラッ、キラッ、してる。

 驚いたことに、人間の街の高級住宅街的な場所へ、扉が繋がっていたりしていたのだ。


 美しく整然と住居が立ち並ぶそこ。

 清浄で、華々しく、見る者に品位を感じさせる。


 だが、私の『空間把握』は鋭敏だった。

 この王都に潜む影。スラム街を感知する。

 まあ、どうせ関係のないことだ。


 底辺どもは、底辺らしく、その薄汚く儚い一生をせいぜい享受していてくれ。理不尽だろうが生ききってくれ。

 施しは一切しないがな。


 さて、このきらびやかに装飾のされた街を、私たちは歩いていく。

 フードかぶった人が二人と白衣が一人で……。怪しい人たちだなあ。


 そうそう。

 あの穢龍のところに上着は置いてきてしまったのだが、予備があったようだ。

 白い人が持ってきてくれた。

 つくづく白い人の周到さには感心するよ。


 白衣の女性の先導によって、道を進んでいくのだが、目指す場所は龍のもと。

 しかしどうして、この人の街のど真ん中、彼らの脅威となるべき龍が、存在するのであろうことか。


 そして一番の問題は、『空間把握』に龍の存在が引っかからないことについてだ。

 考えてみよう。


 源……じゃなかった、平氏に、年貢、この二体は反応がでかかったはずだ。

 私についても、種族っぽいのがクラスアップしてからは、みんなが逃げるくらいやばい。


 そのはずなのに、械龍のやつは気配を垂れ流しちゃあくれない。

 本当にここにいるのか心配になる。


「着きました。ここが入り口ですね」


 そんなことを考えているうちに、一つの建物の前に立った。

 ちなみに、私ははぐれたりしていない。

 なにせ二人で、道草を食おうする私をブロックするんだ。

 やろうと思っても、できるわけがない。


 その建築物を一言で表現すれば、異様だった。

 豪勢な住宅街には見合わない。明らかに不釣り合い。それほどにまでボロボロだった。

 その管理の行き届いていない外観。どう考えようとも、これは幽霊屋敷だ。


 先頭が無表情なやつ、そして私、最後に白い人の順に入っていく。

 鍵はかかってないようで、無表情な女性は何てことのないように、入り口を開けた。


 不用心な!?

 一体全体、こんなホラーな様相を醸し出していれば、近所の悪ガキたちの肝試しに使われてしまうのではないか。

 いいのかそれで?


 突・入! する、私たち。

 中に入ってしまえばわかる。

 なんかすごく研究所だった。


 重厚な金属製の扉が私たちの前に立ちはだかる。取っ手がない。

 私はパサって脱いで、背中から黒いドロドロを生やした。

 これはやるしかないだろう。


「え、ちょっと、ミツホちゃん!?」


 驚いたように私の名前を呼ぶ白い人。

 だが構わずに、私は黒いドロドロを使って扉をぶっ壊そうとする。


 しかしその前に、無表情な女性が私と扉との間に入り込む。

 回り込もうとする私を、今度は白い人がガードしてきた。

 お願いだからどいて……!!

 そいつが壊せないっ!


「いや、今日は下見だけって……言ったじゃないですか? 暴れなくても普通に開きますよ。――ほら」


 呆れたようにそう言うが、その表情は依然として無だ。

 そうして言い放たれた言葉の通り。

 無表情な女性が扉に手をかけると、ものすごきガタガタとした何かの駆動音が聞こえてきた。

 ゴトンゴトンと派手に音を響かせながら、ゆっくりと扉が開いていった。


 えっと……なんで開くのよ。

 ざるすぎね?

 こうも易々と侵入を許してしまうなんて……!


 それはそうと、確かに今日は下見という話だった。話だったがバレるよな。

 私が壊そうと、こんな派手な音を立てて開けようと、変わりはないはずだ。

 流石にそこまで目が粗かったら、引いちゃうよ?


 あの食事のとき言った械龍討伐の言葉。

 白い人はどうしてか、二つ返事で頷いた。

 なんでかはわからないが、そのときの表情は影を落としたようなものだった気がする。

 ずっと思い詰めたようなもので、見ていられない。けれど見ずにはいられなかった。


 そうしてトントン拍子に話が進められて行ってしまう。私抜きでだ。

 白い人の方針としては、私は絶対に参加させられないと。

 無表情の女性は、どっちでも良さげだった。


 全力で私が自己主張をした結果、無表情の女性の取りなしもあり、下見と称した今回に限り付き添いを許可された。

 まあ、どうゆーことかと言うと、私は話をよく知らず、そして機嫌がすこぶる悪い。


 開いた扉のその先には、簡素な廊下が広がっていた。

 必要最低限にしか、物が置かれていない。

 いや、この場合だと物と表現していいものは何一つ存在しない。


 扉が一定間隔で作られている。そうしてひたすら、本当に長いだけ、そう感じてしまう廊下がそこには延々と伸びていた。


 ちょっとまて……ここはどこだ?

 あのボロ屋敷の見た目から、こんな長さが作り出せるとは思えない。

 『空間把握』を使った限り、いつの間にか地下に移動しているよ。


 どこからだろ。

 そんな頻繁に確認してるわけでもないし、わからん。

 白い人の屋敷といい、どういう原理で繋がってるんだ。


「では、案内しましょうか」


 そう言いながら、無表情の女性は私たちを置いて突き進む。

 心なしかその足取りは軽く、ひょこひょこと上下しているような気がした。

 付いていく白い人と私。

 といっても、真っ直ぐ進むだけだが。


 それなりの距離を行くと、無表情な女性はガチャリと右側にある扉を開けて入っていく――と思ったら全力で後ずさりをしてそこから出てきたのだった。

 そのままに後退し、向かいの扉に背中をへばりつかせる。

 なにがあったんだよ!?


 その無表情の女性のところへ私たちは駆けつける。正確には私が白い人を引っ張る形になっている。

 白い人と私は、扉の中を確認する。


 そこにいたのは一人の男性だ。

 中肉中背中年くらいで、椅子に座り、脚を組み、こちらにその鋭い眼を向けている。

 黒髪で、黒目。健康的な肌の色で、この男性も後ろにいる女性と同じく白衣を羽織っている。


「おい、リチィ。そちらの方々はどちら様だ? 来客があるならさっさと伝えろ!」


 乱暴に吐き出される声。

 この男の顔つきはあるていど整っている。整っていると言えるのだろうが、いかんせんそれが怖い感じなのだ。


 まず、目つきが怖い。釣りあがっていて、ただ見られているだけでもこちらを睨んでいると勘違いしてしまいそうだ。

 そして、声も怖い。このぶっきらぼうな感じでは、その台詞に付くアクセントごとに身体がびくりと反応してしまいそうだ。


 とりあえず、この男は苦手だ。嫌いだ。天敵だ。

 本能が拒否する。生理的に無理だ。絶対に相容れない。


「所長、それより。内装変えましたかー? それとも、私の帰りが待ち遠しいからそうやって、待ってくださったというわけで?」


 反応したのは無表情の女性だった。

 この女性の名前はリチィと言うのか。名前というか、愛称の気もしなくもない。

 でも、今さら変えるのはしっくりこないよなあ。


 それにしても所長って、下見失敗してない? だって、敵でしょ。どう考えても。


「ない。第一もう戻ってこないと思っていた。それはそうと、その所長というのは止めろといつも言っているだろう?」


「じゃあなんですかねぇ? ご主人様とでもお呼びになれば宜しいのでしょうかねぇ」


「……もっと止めろ」


 お互いに軽口を叩き合っているように見える。

 お前ら仲良いな。

 私は、怖いから白い人の後ろに隠れてるんだけど。


 そんな中、その男を見た白い人は一歩だけ後ずさった。白い人も怖いのかな。

 私はそろそろと、白い人の表情を窺う。けれど、そこに見えたのは怖れではない。単純な驚きだった。


「うーんと、ならマスターとかどうしょうか。こう……なんかいい響きだと思いますよぉ?」


「もういい。お前と不毛な話をする気はない」


 白い人は何を驚いているのだろう。

 まさか知ってる人だった? いや、そんなはずないよね。


「そこのお嬢さん。どこか見覚えがあるような気がするのですが、気のせいでしょうか?」


 唐突にこちらに向けて男が喋りかけてきた。

 私の方を見ているのではないのだから、お嬢さんとは白い人のことだろう。


 あれ、本当に知り合いだった?

 白い人は落ち着けるように息を整え、そこからようやく声を出す。


「いえ、気のせい。もしくは人違いではないでしょうか?」


 わからない。

 白い人の真面目な表情。そこからは真偽を判断することができなかった。


 男の厳めしい眼光が射抜く。

 そうして、何か考えるように顎に手をあてた。


「そうか。……いや、そうだったな。悪いがリチィ、少し外してくれ。この方と二人で話しをしなくてはいけなくなった」


「二人っきりって所長。何かいやらしいことでもするつもりですかー? そんなの、認められませんよー?」


 無表情な女性からヤジが飛んだ。

 これって、私もいなくならなきゃだめだろうか。

 もしそうなら、絶対にダメだ。


 白い人のことだし、万が一にも何かある可能性はないだろうが、ダメなものはダメだ。

 私はぎゅっと白い人を握る手に、力を入れる。


「冗談はよせ。私が何かするわけないだろう? 何度も言わせるな、席を外せ」


「はいはい。わかりましたよー。さあ、行きましょうか光穂ちゃん。除け者だそうでするよ?」


 無表情な女性はそう言って、私の白い人の繋いだ手と反対の方向の手をとる。

 そうして連れて行こうとする。


 けれど、私は白い人から離れたくない。動かまいと踏ん張った。

 そんな私に、やれやれといった様子で無表情な女性は耳もとに囁きかけてくる。


「すみませんね。ですが、白い方なら所長と戦っても、負けるはずはありません。ここはどうか、引いてもらえませんか?」


 そんなことは、私はわかってるよ。

 問題はそこじゃない。この男は本能レベルでなんかダメだ。ヤバい。

 だから、何かマズいんだ。


 白い人の、私を掴む手の力が緩む。

 白い人も、この男と二人きりで話しがしたいということか。


 私はおずおずと握る手を離した。

 白い人は一切として、私の方を見てはくれない。

 そして私は、数歩後ろに下がる。


 わがままばかりではやっていけない。だからこそ、私は手を離したはずだ。

 白い人の方へと私は目線を向ける。やはりこちらを見てはくれない。


「じゃあ、行きましょうか」


 その言葉から、私は無表情な女性に引き連れられていった。

 私は振り返らない。

 久しぶりにCoCのオフラインセッションをしました。

 本来、キーパーをやるはずだった友人に、なんか意味不明な理由で交代させられ、シナリオを作る羽目になりました。

 あるんですね。(1D10/1D100)のSANチェックで、誰も発狂しないとか。


 まあ、キャラクターのは減らせなかったけど、プレイヤーのリアルSAN値なら減らせたんでね。概ね満足です。

 もともとキーパーのはずだった友人には、かなりのダメージを受けてもらいましたよ。ふふ……。

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