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顔合わせ

 ドアを開けて中に飛び込む。

 建物の中に入ると共に、私はフラッと倒れ込む。


「大丈夫ですか?」


 無表情な女性は、私が床に激突する前になんとか抑えてくれた。

 だが、感謝は一切しない。

 なぜならば、こうなったことの原因の一端がコイツにあるからだ。


 いや、ほら。神司と戦うときに私って、上着脱いだじゃん。

 あれ、置いてきちゃったんだよ。

 全く気配りができてないよね。


 まあ、完全な責任転嫁な気がしなくもなくもなくないけど……何がなんだかわかんなくなってきた。

 とりあえず、私のせいじゃない。断じてない。絶対だ、絶対だからな!


 そんな心配をするような、抑揚のない声を無視して、私は歩き出した。

 目的地は無論、白い人のもと。それ以外考えられない。


 私はトタトタと走っていく。

 それなりに広いこの建物のせいで、そんなに早く辿り着けない。

 今できる限りの全力で、私は目的地を目指していく。


 廊下をいくぶんか走れば、私は目標へと到着することができた。

 私は扉に手をかけて、思い切りよく開く。

 きっと、扉のダメージはかなり蓄積されていることだろう。


 その部屋の中、ベットの上には、上半身だけを起こして、ボーッと虚空を見つめる白い人の姿があった。

 どうやら起きている。

 無表情なアイツは嘘をついていなかったようだ。


 ん? あっ!

 置いてきちゃっている。

 これで白い人が起きてなかったら大惨事だったよ。

 いやぁ、私。相当参ってたんだね。


 まあ、起きてたんだからいいか。

 そうだそうだ。いいってことにしよう。

 この体験は、次に生きればいいってことよ。


 私は白い人に近づいていく。

 そうして、白い人をガバッと抱きしめながら、私は涙を潤ませる。


「……うぅ……っ」


 嗚咽する声が漏れようとお構いなく、私は強く、ギュッと白い人に抱きつき続けた。

 私はとても、とても白い人のことを心配していたんだ。


 突然のことに驚いたような白い人の表情。

 私のことに気がついたのは、いつからだろうか?

 白い人もまた、私の背中へと腕を回す。


 白い人は、私をあやすように背中をさすっていく。

 慣れた手つきのようであるけども、どこか迷いがあるようにも感じられる。


 白い人の表情は、依然として驚愕のままだった。

 ただ、その目もとにからは何故か涙が流れ出している。


 その状態のまま時間は過ぎた。

 水を差されることなんてなく、時間だけが過ぎ去ってしまった。

 泣き疲れた私はもうなんか眠たい状態である。いや、もうスリープモードに突入した。


 白い人の表情はもう変わっており、私のことを慈しむように眺めている。

 だが変わらずに、私のことをあやすようにさすっていた。


「あのー……。そろそろ出ていってもよろしいですかねぇ?」


 タイミングを見計らってか、ここでようやく開きっぱなしの扉から、無表情な女性が登場をする。

 空気を読んでくれていたんだ。意外だなあ。

 ちなみに、スリープモードに入った私は反応しないよ?


 そうすれば、おのずとその声に反応するのは白い人だけになる。

 そして、白い人からは予想だにできない剣呑な雰囲気が撒き散らされた。


「あなた、どこから入って!?」


 怒気まじりの声を出して、無表情な女性を問い詰める。

 正直、私が起きてなくて良かったと思う。

 それにしても、白い人はこんな声も出せるんだね。


「いや、光穂ちゃんと一緒に入ってきましたよ?」


 それに対しても、いつものように淡白な声で答えてしまう無表情な女性。

 図太いのかな?

 でも、一番丸め込みやすそうな言葉を選んでやがる。


 その証拠に、白い人の怒気があるていど収まってきていた。

 代わりに、どこか困惑が白い人に押し寄せてしまったよう。

 けれども、白い人は思いのほか早く回答にこぎつけて見せた。


「えっと、あのときの……?」


 あのときって、いつだよ!?

 そう思っても悪くないはず。

 なんだよあのときって。それで通じるのか?


「姿形が変わろうとも、魂だけは変えられませんか。さすがです。それでも、よく覚えていてくれましたね?」


 通じたっ!?

 あのときって、あのときか。思い出した。

 確か誘拐未遂事件のときだ。なお、容疑者は私の栄養と塵になった。


 イメチェンだったっけ?

 髪の毛の色とか、目の色とか、身長とかがあのときとは変わっている。

 変わっていないのは白衣だけか。

 ほんとよくわかったよ。私は全然だったね。


 それにしても魂って……。

 白い人はそんなものを見分けられるとでも言うのか?


「ええ……。だってあなた、おかしいもの」


 おかしい?

 この無表情な女性のおかしなところは……ダメだ、有り過ぎる。

 正直なところ、コイツがなにをやりたいのかなんにもわからないんだ。


 無表情な女性のどんなところが、白い人の印象に残ったのか、至極見当もつかない。

 いや、でも、会ったのはほんの一瞬のはず。それで普通はわかるか?


「それは今はいいとして、私をここに置いてはくれませんか?」


 無表情な女性は急に話を流していくと、差し出がましく居候をしてもいいかと、尋ねてきやがった。

 というか、そういうつもりだったんだ。


「ダメ、裏切るでしょう?」


 それに対した白い人の答えについては、どこか意外なものだった。

 単純に断るならわかるんだけど、裏切るって……。

 まあ、確かに信用ならんのはわかるけど。


「いえ、そんなつもりは毛頭ありませんよ? ええ、私はお二人を敵に回すほどの勇気も、度胸も持ち合わせていませんからね」


 無表情な女性は諦めずに話を続けていく。

 でもその台詞には、全くの説得力がないような気がした。

 だって、ねえ。実力が未知数だ。

 こんなのが近くにいるなんて、とんでもない爆弾な気がするんだけど……?


 しばらく考えたのか、沈黙が続いたあと、白い人が口を開いた。


「……ねえ、どうしてミツホちゃんと一緒にいたの?」


 あ、やばい。

 きいちゃダメな質問だよ!

 それを聞いた途端だ。無表情な女性は待っていましたと言わんばかりに饒舌な口調で喋り始める。


「いえ、少し龍退治をしていましてね。私は道案内くらいしか役に立っていませんが、ミツホちゃんは大健闘でしたよ。正直、危うく死んでしまいそうでヒヤヒヤしましたが……?」


「え……っ?」


「あなたもあなたで大変でしたね。光穂ちゃんが頑張ってくれないと、もう二度と起きられないところでしたから」


 無表情な女性は淡々と語っていく。

 はあ、ダメだこれは。

 白い人は話についてこれずに困惑している。

 だが、その困惑の中でもまた答えを出して見せた。


「……穢龍……!?」


 なんでわかったんだよ!?

 いや、龍種権限を使えばすぐか。生きてる龍がわかるんだもんね。

 だいたい察しはついちゃうか。


 でもその様子からは神司のやつがどんな特性かわかっているよう。

 そうなると、なにが起こったかは大体理解できるはずだ。


「ということで、空いている部屋を使っても構いませんね?」


 嫌な性格してるよ、ほんと。

 ここまできたら、白い人が断れるわけないじゃないか。


 でもその問いに、答えられることなはい。

 そんな白い人からは、途切れ途切れな言葉が発せられていく。


「……私……なんか……。私、なんか……っ――」


 無表情な女性に向けてか、いや、それは誰に向けてでもない。

 ただの独白。けれど言わずにはいられなかった。


 それなのに、その台詞が言い切られることはない。

 言葉に詰まるように止められてしまう。

 そこには深い躊躇いが感じられた。


「すみませんね。責めるようなことを言ってしまって。こちとら人生かかってるもので。……いえ、言い訳ですかね」


 そこに謝る無表情な女性。

 その台詞には自分自身を嘲るような含みが入っている。

 なんともままならない空気で部屋中が満たされてしまった。

 なんでそうなるよ。


「部屋……使っていいよ……」


 そんな中、白い人がぼそりと静かに呟いた。

 この無表情な女性との同居が決まった瞬間である。


「……すみませんね……勝手な都合で……」


 だが、空気はよくはならなかった。

 ちょっとこの二人を一緒にはさせておけないかもしれない。

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