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早く帰りたい

 私は目を開ける。

 起きた。辺りを見渡す。

 病院のような清楚なベッドの上に私は眠っていた。


「ええ、やっと起きましたね」


 私の耳もとで声がする。

 その声の主は、あの無表情な女性だった。


 私を抱きしめてホールドしているようで、動きずらくなっている。

 その状態のまま、さらに私へ向かって平坦な声でうそぶいてくる。


「昨夜は……って、うわっと!?」


 黒いドロドロを背中に展開することで、私はその減らず口を塞ごうとした。

 けれど、それは失敗に終わる。危機察知をしたこの女性が、手際よく離脱したからだ。

 無念なりや。


 自由になった私は、勢いよく伸びをする。

 快調だ。エネルギー満タン。

 あ、でもスタミナは補充しなきゃまずいかもしれない。


 それはともかく、白い人といい、この無表情の女性といい、なんで私を抱きしめてくるんだ。

 私は抱き枕じゃないんだぞ!?


 そんな私はというと、床に無表情で転がっている女性に対して、蔑んだ目線を送っていた。

 離脱したはいいものの、着地しに失敗してしまっていたっぽい。

 ふあっはっは、快いサマじゃあないか。


 そんな私の目線にもめげず、むくりと起き上がってくる。

 タフだなあ。精神的な意味でね。


「では、さっそく帰りましょうか」


 何事もなかったように私に手を差し出してくる。

 掴めという意味だろうか。

 私は眠い目をこすりながら、もう片方の手でこの女性の手を掴むのだった。


 手を引かれて、この病室のような部屋をでる。

 ドアの向こうは、あのウイルス研究してそうなところだった。

 改めて周りを見渡してみれば、入り口、そしてあの神司のやつと闘った場所への扉以外も、いくつかドアがあった。


「さてと、こんな物騒なところ、さっさと出ちゃいましょうか」


 物騒なのか?

 よくわからない器具が散見される。

 うん。確かに物騒だね。


 ふと、視線を落とせば、あの白銀の狐みたいなやつが映った。

 私をじいっと見つめている。

 いや、見つめているのは私じゃない。はっきりと()()に目線を固定しているんだ。


 一体なんだ?

 その目の色はとても不思議で、どこか委ねるような意思が込められている気がしてしまう。


 けれどそれも数秒で、サッと踵を返して部屋の隅へと去っていき、寝転がって欠伸をし始めた。

 なんだったんだよ!?

 しかもくつろぎ始めやがって!


「動物なんてあんなもんですよ……。さあ、出ますよ!」


 いつも通り平坦な声だけど、どこか投げやり気味に聞こえるのはおかしくないだろう。

 頭、踏まれたもんね。

 引きずってるよ、これは。


 そんな調子で、私の手を引きながら外へと繋がる扉を開ける。

 扉を開けた外には、そこそこに広い森が生い茂っていた。

 いわゆる、聖なる森だ。


 この森の聖獣とはまだ会っていない。

 意外なことにスルーできてしまったのだ。

 別に森に危害を加えなきゃ大丈夫なのかなあ? うん。


 私は無表情な女性に手を引かれながらついていくだけだ。

 もし、一人だったら、大冒険をした挙句、森の木々を一つ残らず私の栄養に変えていた自信がある。

 一人じゃなくて良かったよ。ほんと。


 それにしても、行きは大変だった。危うくはぐれかけたし。

 その反省か、手が繋がれたままだよ。

 うーん、でも私だって、二回は同じ失敗はしないんじゃないかと思う。

 不服だ。


 歩いているのは森の中なんだけど、虫一匹会いやしない。

 なんでだろう。不思議だ。

 別に虫除けスプレーでもかけてるわけじゃないのに。

 弱いやつだって出てきていいんだよ?


 そういえば、スタミナが危険域にあるんだった。

 【搾取】を使って植物を餌食にしている私。

 いや、ちゃんと節度は保っているから。じゃないと狼ちゃんに怒られちゃう。

 ここにはいないだろうけど。


 無表情な女性は、顔色一つ変えずに道なき道をかき分け突き進む。

 本当に道がないからね。

 これ、どうやって迷うなって言うんだよってくらいだ。


 ……あっ!

 上空通過した方が早いんじゃないか?

 ああ、でも……《龍纏・獣》は龍力の消費が多いんだからきついか。

 まあ、慣れてないからなんだろうね。


 そもそも、この無表情の女性は飛べるのだろうか。

 むー。見た目からしたら飛べないだろうなあ。

 戦闘でも飛ばなかったし、飛べないってことでいいか。

 つまり私が合わせてあげてるってこと。

 私、偉い。


 そういえばこの女性。私の敵だったはずだ。

 それにしては、私は意外と心を開いてしまっている。

 また『精神干渉』受けているのだろうか。

 いいか、どうにでもなるだろう。


 度々、木の実とか、キノコとかに私の目線が固定される。

 その度に腕を引っ張られてしまうのだ。

 【搾取】を使うのと味わうのは絶対に違う。

 ああ、わかってるさ。はぐれるからなんだろう?


 そうだそうだ。

 【搾取】って、万能だよね。

 木の実に住み着く寄生虫さんも一発撃退。

 黒いドロドロの再来でもない限り大丈夫なんだよ。

 今回の戦闘でも役立ってくれたし、これは褒め称えるしかないね。


 それに比べて、【加虐】さんや【虚飾】さん。

 クセが強すぎるよ。


 【加虐】さんはなかなか使える機会が少ないのが難点だ。酷いスキルではあるんだけどね。


 【虚飾】さんは……なんと言ったらいいか。反則くさい。

 私の性格的に、あまり使いたくないと思う。

 けど、神司のやつには効果はなかっただろう。あの特性は厄介すぎた。


 さて、そろそろ森を抜ける。

 引っ張られて付いていくだけの簡単なお仕事だった。お仕事ではないか。

 そしたらまた、荒れ果てた大地が広がるだけだ。

 人間の町は遠い。


 もう迷う必要もないだろうと、私の手が離される。

 次いで、無表情の女性は勢いよく走り始めた。

 さらに振り返って、大声で私に伝えてくるる。


「さあ、光穂ちゃん。日が暮れる前に戻りますよ?」


 思えば少し夕方っぽい。

 だけど日が暮れたら、なにか問題でもあるのだろうか。ないよな。


 まあ、私は早く帰りたいってことだけには同意できるだろう。

 私は頷きながら、同じ速度で走り始めた。


 だいたいこのペースで走れば、陽が山脈に沈みきる前に白い人の元へと着けるだろうか?

 きっと行けるだろうなあ。


 私はあの無表情な女性から目をいっさい離さなかった。

 もしかしたら、帰っても白い人が目を覚ましていないという可能性もありうる。

 そんな自体にも備えて、逃がせるわけがないだろう?


 ふふ、そんなことがあったら、私はどうしちゃうんだろうね。

 なんか主に前々話と前話のせいで燃え尽きた感がしている今日この頃。

 筆も話も全然進みません。

 まあ、頑張ります。

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