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感染する龍

 長いです。前回の一点五倍ほど。

 意識が定まらない中、声が聞こえてくる。

 あの塔で気を失って、私は――


「さあ、選ぶんだよ! この子を救う道を――!」


「ですがっ、そうしたら国民が……」


 これは記憶の断片。

 龍に侵され、私自身は自我を保つことに必死で、耳にこそは入っていたが、理解はしていなかった。

 これはそんな会話の一つなのであろうか?


「どっちにしろ、同じじゃないか。聖獣は死んだ。もはや結界は崩れるのみだ。少女を助けて国が滅ぶか、誰も助けず国が消えるか、その二択だろう?」


「それでも、貴方様の力があれば――っ!」


 問いかけているのは彼の声。そして、懇願するような声は父様のものであった。

 なにか二人は口論になっている。というかこれは、彼が無理難題を押しつけているようにとれる。


 彼と父様に面識があったということなのか。それになぜか、この国の王たる父様がどこかへりくだった物言いであるのが珍しい。


「なにを言っているんだい? どうして、鬼の末裔なんかを集めてこの国を作ったのを忘れたのかい? 君たちは尊敬する英雄のためにここに来たんだろうが!!」


 言葉の端々に怒りが感じ取れる。

 鬼の末裔、英雄。これで思い出せるのは、前世の記憶。


 鬼、というのは人間になり損なった異形の者たち。迫害を受け、故郷を追われ、……そんな彼らを守るため戦っていた。

 そんな私はその中でも異質で、強かったんじゃないかと思う。それなりに救えてたんじゃないかと思う。


 結局のところ、隠れ住むくらいしか、できなかったはずであるけど、ここは彼らの国だったのか。


 なぜ気がつかなかったのであろうか。いや、簡単な話、私は変わった。いろいろなものが欠落した。

 性格も同じとは言えないし、第一、私は大して周りを気にしていなかった。


 この国で生まれ育った私は、姿形がどうであるとか、そういうのに無頓着であった。

 なにも思っていなかった。

 そして龍と混じって、さらに歪んでいった。


 でも、この国は前世の私の理想を体現したような国で……。

 ふ、ハハ、アはは。

 今さら、今さら気がついたって……もう。


「このままじゃ、彼女の魂は龍に乗っ取られるだけだ……! 安心すればいい。()()()の魂の量があれば補強は十分さ!!」


 ふざけるな……っ!

 この国は、エイリンスは、こんなにも平和であったじゃないか! それを、なんで私なんかのために……?


 そう、この後、国一つを犠牲にする。そうして私は私として保たれる。

 あの、私が花を添えた部屋にあったのは、他人の魂を奪い、自身の魂を強化する術式。

 それも国中に効果を及ぼせるもの。


 そうして私は、龍に魂を融合されるが、みんな()()のお陰で、逆に龍を取り込む結果となって、龍となった。

 さらにはそのとき、前世の記憶も無理やりのように引き出されたのである。


「何故……っ! 私たちはこんなのための犠牲にならなくてはいけないのですかっ!?」


 父様の反論が響いた。

 普通なら、こんな提案に納得するわけなんかない。これが、これこそが至極当然の反応のはずである。

 当たり前……のはずで……。

 さらにその反論は続けられていく。


「いくら何でも割に合わない! 貴方様の言うことだから、血も繋がらないのに育ててきたのですよ!? その結果がこれ? ……ふははっ、あり得ない……」


 言葉の最後は、失笑ものだと言わんばかりに、諦めたような呟きを漏らす。

 虚しさと、絶望感が漂っているが、私にとって重要なのはそこではない。


 あぁ……そうか……。

 私は愛されていなかったのか。


 正直なところ、自覚はあった。

 不自由のない生活を与えてはくれたが、滅多にあってはくれない。

 宝石とか、綺麗なものを与えてくれたが、それも直接ではなく、誰かを通してであった。

 外へ出るのを咎めなかったのも、私の意思を尊重したとかではなく、ただ単に無関心であっただけか。


 もう嫌……。

 そうではないと、信じ続けていたけれど、限界が来た。

 これから私は、なんのために生きていけばいい?


 父様がひとしきり反論し尽くした後、それを考慮に入れることなどなく、彼は確認をするように声を出す。


「わかったかい?」


「ええ……、わかりましたよ! そうやって、あの聖獣様も、貴方様の手駒として死んでいったんでしょう?」


「……っ!」


 そんな彼に向かって、父様は自暴自棄にななったように、その問いかけをする。

 彼はそう切り出されると、なにも答えられないように、なにかを堪えるように、黙り込んでしまった。


 しばしの沈黙が続く。

 彼は肯定も否定もしない。

 そんな静寂に耐えられなくなったのか、次に言葉を発したのは父様であった。


「どっちにしろ、私たち同じですからね。無力ですからね。では、最期に言っておきましょう。()()()()()()()()、と」


 それはきっと、心の底から込められた皮肉であり――


「ああ……」


 ――彼はこう答えることしかできなかったのであろう。


 こうして、私はあの部屋まで運ばれて、術式は起動された。

 それは私が思っていた過程と全く違っていた。


 なんで今更になって、この記憶が戻ってきたのかはわからない。


〔外的攻撃により、スキル『記憶改竄』の効果が剥離されました〕


 なにか声が聞こえたけれど、そんなのどうでもいい。

 こんなの、思い出さない方がよかった。忘れていた方が幸せに過ごせた。


〔罪科系スキル【執着】が想起されます〕


 そう嘆くことを禁じ得ない。

 それほどまでに、私の心を傷つけ、打ち砕いていくものであった。


 裏切られたような思い。

 もう誰も信用したくなくて、そうすれば、こんな思いをすることなんかないから。


〔罪科系スキル【猜疑】が想起されます〕


 それでも、もうそれは無理。

 あの子を、あの子を守るって決めたから。あの子は私のことをどう思っているのであろうか。


〔カルマが一定の値に達しました。査定を実行中……〕


 わからない。わからないけど、それは私にとっては、とても怖くて。

 簡単には立ち直れそうにない。

 本当にどうすればいい?


〔完了。カルマを清算して、罪科系スキルを取得します〕


 そんなの、問いかけるべきものじゃない。正解なんて、出るわけがない。有るわけがない。

 わからないなら、わからないなりに探り当てるしかない。


〔スキル【呪縛】を取得しました〕


 それはきっと、呪いのような板ばさみを超えた先にあるはずであろう。


 ***


 空気が悪い。

 私たちは乾いた洞窟の中を進んでいく。

 【搾取】は休みなく、絶賛稼働中であり、私の負担はかなりのもの。

 これは早く終わらせてさっさと帰るべきだろう。


 私は『空間把握』を作動させるが、しかし、なんの反応もなかった。

 えっと……これはなんでだ? いくら何でもおかし過ぎる。


「いました、光穂ちゃん!」


 陽の当たらない中、指し示された方向を見やれば、黒い靄のようなものが集まっていることがわかる。

 えっと……アレが穢龍?

 黒い靄……いや、黒い小さな粒のようなものが一定の空間を蠅のように飛び回っている。


 私たちはそれに近づいた。

 すると今度は、辺り一帯からも、黒い粒がどこからともなく現れて、集まって、一つの形を成していく。


 黒い粒の集合体。

 徐々に徐々に、形は整えられていき、一体の龍が造られる。

 二つの顔。身体を支える一対ずつの前足と後ろ足。そして、ボロボロな二対の翼が印象的。


 黒い粒が、龍の表面を動き続けているその様相は、悍ましく、見るものに嫌悪感を与えるはずだ。

 造られた目は、殺気に囚われたように、私たちを睨みつけてる。


〔龍種権限により、情報が規制されました〕



〈ステータス〉

 穢龍

 セユルギトウィス



 たぎるその目線からも間違いがない。

 こいつは龍だよ。

 お陰で攻撃したくてたまらない。


 私は即座にムカデ剣を構え、上着を脱ぎ捨て、攻撃に移ろうとする。

 竜力は十全に流されて、剣は敵へと伸びて――


「待ってください!!」


 そんな私を止めるように、声が発せられた。

 なんで止める!?

 私はあからさまに苛立ちながら、無表情な女性の方へと振り向いた。


「急いでは駄目です。しっかりと、手順を踏まないと穢龍は倒せなくなります」


 倒せなくなる?

 どう言う意味だ。必死に考えを巡らせる。

 倒せなくなるような要因は……。

 うーん。この龍の特徴は、ウイルスみたいなことで……あっ!?


「生半可な攻撃をすると、進化して無効のスキルを獲得しちゃいますから」


 しっかりと説明をしてもらえた。

 思い出すのは御館様の胃酸地獄。あれ、もう嫌だ。お陰で年貢のやつに勝てたんだけどさ。


 ともかく、ウイルスというやつは、進化速度がものすごいらしい。

 確かにこれでは下手な攻撃ができなくなる。

 でも、どうしたらいい?


「まあ、まずは私が行きますから、そこで見ててくださいねっ?」


 無表情ウインクをしながら銃を持って穢龍前に躍り出ていく女性。

 あ、ずるい。

 でもそうか、あの銃に込められた弾ならいろんな種類があったから、ある程度まで追い詰められそうだ。


 バンバンと戦闘が始まった。

 今の内に渾名でも考えておくか……。

 それにしても、思いつきづらいなあ。


 ギトウィス……ギトウ……神司でいいか。

 ちょっと苦しいけど、ギャップ萌えを狙った感じで、これでいいよね?


 弾丸、というかエネルギー弾のようなものが穢龍の身体を削っていく。

 あの色は、聖の弾であるはずだ。

 弾の名前? もうよく覚えてない。


 龍は反撃するけれど、あれ?

 シンプルにタックルとか、噛み付いたりとかするだけだ。

 スキルとか使わないのかな?


 平氏のやつは、ガオーってやってたし。年貢のやつはビリビリってしてた。

 こいつだけなにもないっていうのは、ないんじゃないか?


 わからないけど、神司のやつはずいぶんと翻弄されている。攻撃当たらないし、まともに攻撃受けてるしで、良いところひとっつもない。

 それでも龍か?


 神司のやつが前足を振って攻撃をする。

 無表情の女性はジャーンプしてそれを躱す。

 空中で方向転換ができないであろう女性に、神司の首の一つが咬みつこうとする。

 すかさずそこに、女性は淡々と銃でバーンってやって、その反動を使って離脱した。

 神司のやつはその弾を食べちゃったよ。


 うわ、えげつない。

 首の一つが吹っ飛んじゃった。

 さすがに口の中に攻撃されちゃあ、堪んないか。


 ん? なんか、黒い粒が蠢きが活発になった。

 そう思った瞬間に、神司のやつの身体が一気にバラバラになる。

 原形なんてとどめずに、いま見てしまえば、黒い粒の集合体としか認識できないほどに。

 いわゆる、私たちが見つけたばかりと同じ状態だ。


 すぐさまそれは組み直されていく。

 今度は、翼、脚のいっさいがない蛇みたいな形。そして首は一つだけ。

 けれど、その長い尻尾は――ひー、ふー、みー、よー……うぅっ……。ひー……あぁ!? ひー、ふー……くぅっ……! うん、だいたい十本くらいある。


 たいへん迷惑なことに、その尻尾をゆらゆらさせて攻撃の機会をうかがっている。

 まったく、数えにくいことこの上ないね。


 無表情の女性は変わらずに、聖の弾を撃ち出していた。

 だが、先ほどとは違い、神司のやつに微量として、ダメージを与えられていないことが、目に見えてわかる。


 その攻撃なんてお構いなしに尻尾が迫っていった。

 バック転。弾を打ち込みその反動のままに飛んだ。身体を捻り、銃を持たない左手のみを地面に着いて、一回。同様に二回、三回と回転をする。

 曲芸かよ。


 なんということか、弾の種類が変わってる。

 今度は妖の弾なのかな?

 この弾が実際に使われているのは初めて見る。

 色は……黒い禍々しい感じだった……。

 すり抜けるように尻尾を掻いくぐり、その弾は神司のやつの頭に迫る。


「へ……?」


 すると、かの女性の間抜けな声が洞窟中を響いていった。

 それもそのはず、神司のやつは、その妖の弾でなんのダメージも受けなかったのだから。


 その女性が、無表情にほうけた時間にも、新たに尻尾は襲いかかってくる。

 今度は素直にバックステップだけを使って、どんどんと避けていった。


「光穂ちゃーん!! そろそろ交代をお願いしたい!」


 苛烈な攻撃に、難なく対応しながらも、こちらへと近寄ってくる。

 いや、ちょっと……なんで連れて来るんだ……!?


「ピンチですよ。ヘルプです。いっきに『魔力攻撃無効』を取られちゃったみたいなんです!」


 切羽詰まっているのか、余裕なのか。その判断がつけ辛いような声で状況を説明してくれる。

 そういえば、『燃焼攻撃無効』も、けっこう幅広かったことを思い出した。


 ようやく私の出番のようだ。

 というか、手順と言いながらも普通に攻撃して普通に無効にされてないか?

 まあ、ダメな例として心に留めておくか……。


 今度こそ本当に、戦うということだ。

 私はまた、ムカデ剣に竜力を流す。

 私のムカデ剣はやる気満々にキシャーッて感じに神司のやつを威嚇する。

 いや、まあ、そうさせてるのは私だから、やる気があるのは私だけど。


 私は《龍纏・獣》を起動。彼女から引き継がれたものだ。これは単純に筋力の強化。

 勢いよく地面を蹴って、私は助けを求めた女性の前に移動。それと同時に、剣を振るって神司のやつの尻尾をなぎ払った。


「ナイスタイミングですよ光穂ちゃん!」


 大して危なくなかったくせに、なにを言うんだ。呆れたものだね。

 私はその声を無視しながら、目の前の神司のやつと向き合う。

 すると、また新たに尻尾が迫ってきている。これじゃきりがないなあ。


 私は今度は上に向かって跳んだ。

 けれど、空中では方向転換が不可能。私の進路を塞ぐように次の尻尾が襲い来る。

 どうする私?


 私は左肩から黒いドロドロを伸ばす。

 『流体掌握』を使い操作。しかし今回は、翼のように広げるわけではなく、足もとへと伸ばしていく。

 《龍纏・獣》で筋力を強化し、左脚で思いっきり黒いドロドロを蹴った。


 踏み抜くことなんてない。

 次は右、そしてまた左と交互に黒いドロドロを出して踏みきっていく。

 空中を自由に駆け、尻尾攻撃の間を縫いながら突き進んでいく。

 私の通った軌跡には、黒いドロドロが尾を引いていった。


 これは、勢いよく水にぶつかると水が硬くなる現象を利用している。

 そうだねえ、『流体掌握』で、ある程度は圧縮できてるっていうのもあるのかな。

 それに、ドロドロしてるし。


 飛ばなくても、空中を動き回ることはできた。できてしまった。

 こっちの方が、なんか自由度が高いんじゃないかと思う。瞬発力も発揮できるだろうし。さすが私っ!

 でもやっぱり、飛べるようにはなりたいなあ。


 頭へと肉薄していく。

 ムカデ剣を思いっきり振りかぶった。

 これでもくらえよ――っ!!


 ――その瞬間だ。

 私の攻撃が当たる前に、神司のやつはバラバラに、黒い粒の集合体へと戻っていった。

 お陰で私はムカデ剣を空ぶってしまう。

 私は地面に着地した。


 なにが起こっている?

 私はまだ攻撃をしていないはずだ。

 任意でこの黒い粒の集合体のような状態に変われる?

 いや、でもそれなら、あの聖の弾を受ける必要はなかったのではないか。


 神司のやつが再構成をされていく。

 今回は、尻尾が一本。数えやすくていいじゃないか。

 脚は四本、そのうち前足の二本が発達していてガッシリとしている。

 翼はあるが、おおよそ飛べるとは思えないくらいの大きさ。最初と同じくボロボロだ。

 首は一つで、顔は少し厳つくなった気がする。


 私を睨みつけるやいなや、突進を開始した。

 巨体から繰り出されるそれは、思いのほか早く、私は全力で上に跳んで避ける。


 私の下を通過する神司のやつ。

 竜力を込めて、私はムカデ剣を精一杯伸ばす。

 伸びた剣はギリギリのところでその数えやすい尻尾に絡みついた。

 そこからは、水得た魚のように、神司のやつの身体を這っていく。巻きついていく。拘束していく。


 このまま締め上げようとしたとき、私は地面に膝をついた。

 ステータスを確認すれば、スタミナとエネルギーの値が目に見えて下がっている。

 スリップダメージを受けているかのように、どんどんと減少が進んでいる。


 なぜだ……?

 いや、そうか。さっきの進化か。

 あれで私の【搾取】に耐性を得たわけか。

 お陰で謎が解けた。


 正直、これはまずいかもしれない。

 私はムカデ剣の柄を握り直した。

 エネルギーはもう半分を切っている。

 ここで一気呵成に出るしかない。


 ムカデ剣は完全にその龍の動きを封じている。

 このままなら継続してダメージを与えられるが、それではまた無効のスキルを手に入れられるのが関の山。

 私は黒いドロドロを翼のように展開する。


 黒いドロドロを切り離し、形、回転などを意識しながら私は打ち出していく。

 出し惜しみはなく、エネルギーの減少もいとわずに打ち出していく。

 それは確実に龍の身体を削っていって、ムカデ剣の拘束とともに、エネルギーを減らせたはずだ。


 龍の身体が崩れていった。

 けれどそれは、私が勝ったわけではない。そう、進化がもう一度である。

 心なしか、黒い粒の数が少なくなってる気がするのは、私の健闘の結果だろうか。


 もう駄目だ。限界だ。

 エネルギーが底をつきかけてる。『不死身』があるから死にゃあしないだろうが、意識が奪われてしまう。

 それがなくとも、私にこれ以上の攻撃手段がないのだから、倒しようがないか。


 後はあのふざけた無表情の女性に譲ることになる。

 完全に信用ができていないのが難点だが、まあ、なんとかしてくれるかな。

 特効の弾はまだ撃ってないだろうし、それに加えて隠し球の一つや二つ、持っていそうだ。


 私のエネルギーは底をつき、眠りへと――


〔一定の経験を得たことにより、レベルアップが起こりました〕


 ――どうやら就けないようだ。


〔一定の経験を得たことにより、レベルアップが起こりました〕


 だからって、おそらくあの龍に効く攻撃手段を、もう持っているはずがない。


〔一定の経験を得たことにより、レベルアップが起こりました〕


 いや、なにか激しい思い違いをしているんじゃないか?

 そう、まだ一つだけ、試していない方法が――


〔一定の経験を得たことにより、レベルアップが起こりました〕


 ――私は見る。龍を……まだ再構成のしきっていない、黒い粒の塊を――


 ――いっさい漏らすつもりはない。ぜったい外すつもりはない。一つ残らず、くまなくとして――


 ――発動するスキル。そんなものは決まっている。私の初めて手に入れた、攻撃手段だ――


 ――【搾取】。もう私はこれに賭けるしかない。


 思い出せ、あの御館様の体内を。

 あのときは、確か吸収を封じるスキルを打ち破って見せたじゃないか。

 だから、今回も――!


 私は使う。もう使い慣れたスキル。

 何度も何度も命を奪って来続けた、この罪深い一つのスキルを――


 ――あぁ、いけた……!

 明らかに私の搾取の扱いは上手くなっているのだろう。

 黒い粒が消えていく。

 消えていくのは一つ一つ。けれど、その減少は、いちじるしい速度を、凄まじい強勢を、急激な消滅を見せていった。


〔条件を満たしました。《龍纏・穢》が解放されます〕


 勝った――。

 それと同時に、私を蝕んでいたものも止まった。エネルギーの減少も止まった。

 これで、白い人もきっと……!


〔一定の経験を得たことにより、レベルアップが起こりました〕


 はあ、厄介だった。

 ひたすらに厄介だったと思う。

 今回はもう少しで追い詰められるところだった。


 賞賛しようか、穢龍セユルギトウィス。

 もう二度とお会いしたくはない。


「お見事です、光穂ちゃん」


 ねぎらいの言葉をかけられるが、私はもう疲れている。

 この場にバタッと倒れこんだ。力尽きた。


「え、ちょっと、光穂ちゃん!?」


 その驚いたような、心配するような声を無視しながら、私は休息をとる。

 久しぶりに無茶をした気がした。

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