スキル実験
前脚、後脚に力を入れる。
今までの粘着力が軽減されたみたく、なんとか動くことができた。
そのままネバネバを引き剥がす。
強敵だったぜ。
これが『拘束効果緩和』の効果。
それなりに役に立つスキルじゃないか。
さあ、早速手に入れたスキル。
『虚時間幽閉』を……。
『虚時間幽閉』を…………。
『虚時間幽閉』を………………。
――どうやって使うんだ?
あれ? これって、宝の持ち腐れっていうやつなのか。
ものは試し。
寄生虫野郎に向かって「きょじかんゆーへー」と念じてみる。
駄目だ。
一向に発動する様子がない。
これじゃあ、ただ睨んでるだけだ。
くっ、なら、今度は「ネバネバー」と念じてみる。
って、こんなので発動するわけないか……。
すると、空間が揺らぎ、捻れ、それに巻き込まれるように寄生虫は消えていった。
なんで「ネバネバー」で発動するのよ。
意味わからん。
というか、消えちゃったけど、どうなったんだろ。
よし、じゃあもう一回。
同じ場所に向けて「ネバネバー」と念じる。
そうすると、もう一度空間が歪み、あの憎き虫けらが姿を現わす。
なんなんだろうこのスキル。
自分でやってなんなんだけどおかしい。
御館様は移動しているはず。
つまり、空間で固定されるならここにこいつは現れられない。
慣性が働いていた?
いや、でもそれじゃあ寸分たがわぬ位置に現れたのはおかしくないか?
もういいか。
私はそういうの専門じゃない。
聞きかじっただけだ。
そういうのは分かる人が解析すればいいと思う。
便利ならいいんだ。便利なら。
きゃつは困惑したようにあたりを見渡している。
はは、良いザマだ。
目が合う。
こいつじゃない。みたいな感じでそらされる。
この間、約零点一三秒。
……くそぅ。
私がやったとは夢にも思っていないとは。
傷ついた。ものすごく傷ついた。
相手に『虚時間幽閉』によるダメージは見受けられない。
これは非殺傷系の優しいスキルみたいだ。
ん? あれ? なんか唐突にお腹が空いてきた気がするんだけど……。
急いでステータスを確認する。
内容を見て若干青褪める。
スタミナが残り一になっているのだ。
『虚時間幽閉』って、スタミナ消費して発動するのか。
くっ、なにか食べるものは……。
そんなものない。
詰んだ?
どうすれば……。
そのとき、私のおつむに電撃を受けたような衝撃が走った。
攻撃を受けたわけじゃない。閃いたのだ。
龍種権限さん。
今こそ貴方の力を……!
スタミナ吸収できるスキルってありますか?
〔現在、スキル『生体吸収』には龍種権限を使用できません〕
……知ってた。
悲しい。
ただひたすらに悲しい。
これは打ちひしがれるしかない。
うん、まあ。
あの寄生虫がエネルギーを吸収できるっぽいスキルを持ってたみたいだったから、同じようにスタミナを吸収するやつもあるんじゃないかなあ? と思ったわけよ。
結果はこうだったが。
ま、まあ。前向きに行こう。
この寄生虫がエネルギーを吸収できるっぽいスキルを持っているんだ。
名前にパラサイトと付いている私も、エネルギーとスタミナの違いはあれど、頑張れば習得できるのではないだろうか?
そうと決まれば、早速練習だ。
そういえば、いま私が立っている場所は御館様の腸壁の上である。
寄生虫が使っていたスキルは触れていないと発動しないようだった。
よし、御館様のスタミナを絞り取ろう。
適当に汲み上げるようなイメージをする。
ぐぬぬ。なかなか発動しないものだ。
数分間ずっとこのままでいる。
諦めるわけにはいかない。
生きる希望はこれしかないんだ。
ん? 脚に満ち溢れる活力のようななにか流れ込んできた。
もしや、これが……。
〔条件を満たしました。スキル『魔力吸収』を獲得します〕
なんでや!
魔力って、満タンだったはず。
いま吸収してどうするつもりなんだ。
魔力の使い方もわからんというのに。
も、もう一回だ。
魔力についてはわかった。
今度こそ、魔力じゃないのを汲み上げる感じていこう。
要領がわかったのか、さっきよりも早く何かが流れ込んでくる。
〔条件を満たしました。スキル『竜力吸収』を獲得します〕
竜力って、なんやねん!
いや、わかるよ。きっとこのよく分からない値一号のことでしょ。
ドラゴンの始め三文字か。
くっ、こうなったら懲りずに続けよう。
でも、きっと次は手に入れられてもエネルギーを吸収する感じのスキルだろうか。
いいさ、徹底抗戦だ。
なんてったって、命がかかってるんだから。
さて、今度も魔力でも竜力でもないものを汲み取りにかかる。
来た! 今度は?
ふふ、なんだってこい。
〔条件を満たしました。スキル『栄養吸収』を獲得します〕
ほら、やっぱり。私はスタミナを吸収できない運命に……って、え!?
急いでステータスを確認する。
上がってる……!
スタミナが上がってる!
嬉しいんだ。嬉しいんだが、いまいち解せない。
これが物欲センサーというやつ……。
さて、これで一応、生命の危機は去った。
こうなると、余裕が生まれてくるわけで、私は吸収系統のスキルをコンプリートしたい気分に駆られる。
少なくとも、私はエネルギーを吸収できるスキルを手に入れてはいないわけだ。
それを手に入れるまでは続けたい。
さあ、次は何がかかるかな?
同じように私は吸収しようとする。
数十分がたった。
何もかかってこない。
きっと命の危機に瀕した必死さがないからだろう。
目の前の寄生虫野郎を見る。
こいつにできて私にできないのは、なんか癪だ。
私の矜持にかけても、それは駄目だ。
意固地になって、続けている。
まずい。
そろそろ飽きてきた。
集中力が散漫になってくる。
気合だ。気合でなんとかするんだ。
深呼吸を三回繰り返す。
落ち着いて、もう一度チャレンジ。
ん? こ、今度こそ。
ようやくまた何かが流れ込んできた。
〔条件を満たしました。スキル『生命吸収』を獲得します〕
よし、やった!
他に吸収はないだろうか?
〔条件を満たしました。スキル『生体吸収』を獲得します〕
〔スキル『魔力吸収』『竜力吸収』『栄養吸収』『生命吸収』がスキル『生体吸収』に統合されました〕
きゅ、吸収系統がまとめられた!
龍種権限で聞こえてきたやつになった。
龍種権限のやつって、最上級な感じのスキルだよな?
つまり、吸収系統を最高まで極めたのか。
この短期間でそこまでいくとは……。
龍種のポテンシャルだろうか?
まあ、いい。
これで、この寄生虫野郎とも互角に戦えるかもしれない。
特に何も考えずに、楽しく書かせてもらってます。