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少女は追われて

 獣は建物の屋根の上を駆け、ソレから距離を取ろうとする。

 私は振り落とされないようにしがみついていることしかできなかった。


 ソレはこちらを凝視しているだけで、追ってくるようなことはしない。

 ぐんぐんと距離は離されていく。

 その獣の上で揺られている私には、今がどんな状況なのか理解することができていない。


 それにしても、不思議でならない。

 なんでソレが私のことを追ってこないのか。そして、あの現れ方。

 あんなスキル、私は持っていない。


 私の中に残っていた記憶との齟齬。まるで噛み合っていない。

 それなのに、私自身はこの夢を自分の記憶だと認めてしまっている。私の記憶がこの夢によって上塗りされている。


 なんとも不思議な感覚なのであるけれど、それが心地良くもある。

 きっと、この先に私の知らない。いや、忘れてしまっている真実があるはず。

 それを私は見届けるべき。


 しばらく進むと私を連れ去った獣の速度が緩められる。

 私の目の前に現れたソレはもう遠く、その容体を捉えることはできない。


「な……なんだったの……?」


 感じた恐怖がまだ収まりきっていないといった様子のままに、震える声を抑えながらも、私はこの獣にソレについてを尋ねる。

 獣は足を折り、地面へとくつろぐように寝そべった。


「私に訊くな。あるじに訊いた方が早い」


 ぶっきらぼうに答えられ、私はどうしたらいいかわからずに困惑している。

 そうして、とりあえずはこの銀の獣から降りようと思い立った。寝そべったのも、きっと私が降りやすくするためであろう。


「来たぞ?」


 そうした折りに、獣からかけられた声に私はびくついた。そして身構える。

 あのよくわからないナニカが追って来たのかと思ったからであろう。


 でもそれは勘違いだった。落ち着いてみれば、それにしてはこの獣がくつろぎすぎということに気がつくはず。

 獣が一つ、口を大きく開いてあくびをした。


「ついに来ちゃったか。このときが」


 私が獣へと気をとられていると、隣から声がする。

 それは、聞いたことのある声で、私は勢いよくそちらを向いた。


「イウ!?」


 そう、あの公園で別れた彼。

 なぜここにいるのか、というか彼は何者なのか、疑問は尽きない。

 私はずいぶん懐いているようで、獣から飛び降りると、勢いよく彼へと抱きつくように飛びついた。


「おっ、と。危ないじゃないか、まったく」


 私を受け止めると、そっと優しく地面におろした。

 呆れている様子だが、その表情には若干の喜色が混じっているように思える。

 満更でもないという感じであろうか。


 私は、えへへ、と照れるように笑いながら彼の手を握った。

 その仕草には、どこかまだ不安が残っているようにも感じられる。


「それで、ずいぶんと退屈そうにしてるみたいだけど、拘束はどのくらいまで削られてるんだい?」


 彼は、表情を真剣なものに帰ると、私をここまで運んできた獣にへと問いかけた。

 それに対して、おっくうそうに首をこちらに向けながら獣は答えてくる。


「だいたい八()くらいだ。一割にも満たない」


 どこか得意気そうな獣に、それを聞いた彼は思案気な表情になった。

 私は心配そうにその顔を覗き込んでいる。


「本当に、八なんだよね? 変なスキルに惑わされたりしてない?」


「当たり前だぞ、あるじ。どれだけ私が準備してきたと思っているのだ! 八でも削られすぎだと思っているのだぞ?」


 念をおすように彼が確認をすると、少し怒ったように獣は力強く反論をしてくる。

 けれどそれでも納得できないように、彼はまだ何かを考え続けていた。


 それにしても、主とは彼のことだったのか。

 そうしてようやく、一段落がついたのか、彼は不安を振り切るように言葉を発する。


「わかった。じゃあ予定通り――」


 ――その時、空間が歪んだ。

 既視感があり、私は先ほど植え付けられた恐怖から、一歩後ずさった。


「ひゃっ!?」


 彼は私の手を引いて、勢いよく抱え上げると、獣にへと飛びのった。

 つい先ほどにまで寛いでいたこの獣は、もう既に走り出せるような体勢へと変わっていた。


「出て!!」


「わかってる!」


 獣が力強く地面を蹴った。

 彼は落とされないように、そして私を落とさないように均衡を維持している。

 大して苦労している様子はなく、高い平衡感覚がうかがえた。


 空はもうほとんどが橙色で、その端ではすでに夜の闇が見え隠れをしているほどである。

 私たちの逃避行は続いていく。



 ***



「えっと……白衣を脱げばいいのでしょうか?」


 目の前の女性は一縷の望みをかけるように、私へと問いかけてくる。

 まあ、一縷の望みというのは無表情だから私の想像だ。

 きっとそんなことはないのだろう。


「ぜんぶ」


 私は無慈悲に、情なんてなく、なんの憐れみも持たず、冷酷さを満ち溢れさせ、残虐の限りを尽くすように、絶望を振り撒き落とすように、私は宣告した。

 ゴクリと生唾を飲み込むような音が聞こえたような聞こえなかったような。


「初めてなんです。優しくしてくださいね?」


 無表情で、恥じらう様子なんてなくこの女性はこんなことをのたまった。

 その瞬間、私のノーモーションキックが炸裂した。と、思った。


 ハラリと白衣が落ちる。

 そこは丁度、私の攻撃が通過したところだ。

 私の蹴りは女性自体をとらえることができなかったのだ。

 私は不機嫌に頬を膨らませる。


「冗談ですからー。一回は言ってみたいじゃないですかー? ……可愛いなあ、もう」


「むう……!」


 いつの間に近づいたのか、私のほっぺを摘んでムニムニしている。

 無表情だが、かなりご機嫌な様子だ。

 この無礼極まりない女性は、白衣を脱いだことで、黒いタンクトップという格好になっていた。ちなみに下は黒いスパッツである。


 まあ、それだけではなく、ポーチなどがジャラジャラとぶら下げられている。

 たいそうな武装なことだ。

 よく見たら、街で私に向けてきた、銃みたいなやつもある。


「じゃあ、一つずつ説明していきましょうか」


 えっと、説明?

 私は、頭の上にクエスチョンマークを幻視してしまうような顔になった。

 なんでそうなるんだ?


 ……あ、そっか。

 脱いでって、武装解除の意味にとられたのか。

 しばらくして気づいた私の頭の上にエクスクラメーションマークが浮かんだ。

 ビックリだよ。感嘆だよ。


「では、まずこれは特効銃トレイターと言って――」


 私のそんな様子を意に留めることもなく、解説が始まった。

 私はおとなしく耳を傾ける。まあ、聞いても損じゃないからかな。

 お久しぶりです。

 遅れた理由? 変な短編を書いたからですね。特になんの仕掛けもない短編。そしてやばい感じの主人公。きっと、疲れてたんですよ。

 まあ、既に取り下げてあるんですけどね。といっても、非公開にしてあるだけなんで探せばあるはずです。そんなことする人はいないと思いますが。


 結論。もう短編は書かない。

 というか、一刻も早くこの小説を終わらせる。大筋は最後まで決まってますから。

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