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動き出す龍

 相手の口元あたりに竜力の高まりを感じる。触手でダメだという判断か、攻撃手段を変えてきたよう。


 そこに集められたのは水滴。

 この湿気の多い洞窟。集まる水分は十分にあるのだろう。もはや水滴とも言えないくらいの量が集まり、私へと向かってくる。


 《龍纏・翼》を発動させ避ける。

 高圧力で圧縮された水の塊が目にも止まらぬスピードで通り過ぎた。

 私の後ろの洞窟の壁に当たり、轟音が響く。


 まだ安心はできないようだ。第二射、第三射と次々に水の塊が私を襲う。

 口元からだけでなく、翼のように広げられた触手から幾つも、水の塊は作られる。

 それは弾幕となり私に迫る。


 ――これは流石に避けきれない……っ!

 不規則に空中を飛ぶが全てを躱すことは不可能。まあ、だからこそ私は翼龍を倒すことができたわけで。


 魔力を使い、目の前に白い半透明の壁を作る。

 水の一撃を壁が防ぐが、強度が足りない。ある程度は勢いを削がれるが私は飲み込まれた。


 勢いよく吹き飛ばされ、強かに壁へと打ち付けられる。

 ゲホッ、と一つ咳き込む。身体中ずぶ濡れになっている。

 スキル『痛覚遮断』を持っているおかげで痛みはない。でも、折角の服が台無しじゃないか……。


 この軟龍は待ってはくれないらしい。

 すかさず、次の一撃が襲ってくる。

 これはどうしようもない。


 幾つも幾つも水の弾が私に向かって放たれる。

 壁を抉り、洞窟を揺らし、徹底的にという言葉が相応しいほどに執拗に、周到に、臆病に、私を狙ってくる。

 それはこの隠れるということに重きを置いたこの龍の性格を如実に表したよう。


 どのくらい経っただろうか?

 ようやくこの龍の攻撃が止んだ。

 私が死んだと思ったからだろうか。いや、龍纏が手に入っていないのだからそれはないか。


 ボロボロだ。この身体のエネルギーなんてゼロになっている。

 それで私が死んでいないのは、ひとえにスキル『不死身』のおかげ。


 翼を、そして龍纏を使い限界を超えた肉体を酷使し、軟龍の前に飛び出す。

 その瞳は水弾で開けられた穴を、相変わらず私を睨んでいた。


 周りへと目を向ければ、また触手に囲まれた状況になっている。

 今度はどうするつもりだろうか。


 これは私の推測であるが、この龍の竜力はあと僅か。

 あの無茶な水弾の発射で、ほとんどを使い切ったはず。


 ――であれば、この龍は触手での攻撃を余儀なくされるのではないか?


 案の定、無数の触手が私に襲いかかる。

 痛手を受けた私では、最初ほどに躱す余裕はない。

 姿がはっきりと分かるのが唯一の救いなのか。


 それでも、軟龍の本体に向かって飛ぶ。時間がない。竜力の尽きる前に……。でなければアレをやらなくてはならなくなる。

 やってもいいけど、辛いからやりたくない。少し弱くなるけど、人間の状態で戦った方がまし。


 時期を計らい、できる限りの竜力を、《龍纏・翼》へと一息に注ぎ込む。

 そうすれば、私の速度が急激に増す。そう、今までにないくらいの速度が出せる。


 普通ならあり得ないくらい加速を龍纏は引き起こした。

 急激な速度の変化に、どの触手も追いつけない。

 私は風を切り、一直線に軟龍のもとへ向かう。


 私が向かうのは首筋。

 首を捻り、口を開き、私に噛みつこうとしてくるが、遅い。

 重力に身をまかせることで下に潜りこむ。

 その際に地面に背を向ける態勢へと変える。


 再び加速し接近。

 ひときわ大きい動脈を狙い愛剣を勢いよく突き立てる。

 抵抗は僅かで、剣はすんなりと差し込まれる。

 肉を裂く感触が手へと伝わる。条件反射的に心が歓喜へと沸き立つ。


 この剣は、前世の私に合わせて作ってあるのだから、その機能を十分に発揮することは今の私には無理。

 それでも、できることはあった。


 剣を通して魔力を押し流す。

 聖獣の魔力に特性があるように、私の魔力にも特性がある。

 私の、といっても魔力なんて人間にはないものだから、正確には私のではなく――いや、今はそれはいい。


 ともかく、私の魔力の特性。それは魂を溶かすというもの。

 ただ一方的な栄養源にするために溶かす。溶かして取り込む。

 霊的なものの魔力は大抵、この特性である。


 あの子にも魔力があるみたいだったけど、どんな特性かな?

 他にも魔力にはいろいろな使い方があるし、しっかりと教えてあげないと。


 剣を通し、血管を通し、この龍の全身に私の魔力がまわる。

 私の勝ちだ。

 今は溶かすことにだけ専念しよう。楽しむのはあと。


 すぐに魔力はまわり、軟龍の動きが鈍くなる。

 ありったけの魔力を使い切ったから、それは当然のこと。

 もたげていた首が、力なく地面にへと近づいて――



 何かが私の背中に突き刺さった――。



 『霊魂観測』を使うと、それは地面から生えていることが確認できる。

 白い細い何かが何本も、地面から。

 なんで気がつかなかった……?


 その何本もが全て、私を狙ってくる。

 それは身体を貫くということはせずに、内臓を掻き回してくる。

 『痛覚遮断』を持っていて切実に良かったと思う。


 そうか……。

 軟龍はずっとこの何かを隠蔽していた。姿を表し始めてからもこれだけにはずっと。

 むしろ、集中して隠していたなら私がわからないわけか。

 それに私が勝ったと思って油断していたのも悪い。


 これは軟龍の身体の一部。大方、隠されて見えないと思っていた尻尾あたり。

 触手の動きはほとんど止まっているが、あの長い胴体の尻尾となると、まわるまでに時間がかかってもしかたない。

 まさか地面からでてくるなんて。


 だけどそれでも、私の勝ちは変わらない。

 どれだけ内臓が潰されようと、血液が溢れでようと。

 なぜなら、エネルギーがゼロであるから。


 エネルギーがゼロなんだから、これ以上傷つけられてもさして変わりはない。

 私の身体がバラバラになる前にこの溶かすという作業も終わるはずであるし。


 《龍纏・屍》。

 これが私の使い続けていた龍纏。

 禍々しい龍の力をまとい、動かないはずの身体を動かすもの。

 エネルギーがゼロになっても、死なずに活動できるという非常に厄介なもの。


 あの龍は魂への攻撃が効かず、おまけにしぶとかったということもあり、二度と蘇らないように木っ端微塵にしてようやく倒したということになった。

 思い出したくない……。

 エネルギーを回復できるスキルの理不尽さを思い知った。


 本来なら最後の足掻きであるべきスキル。いや、レベルが上がればその限りではないが、まあ、大差ない。

 『不死身』のエネルギーがゼロになってから回復しきるまでの活動できない期間に使うことができる。

 これで自分の身を省みない特攻という選択肢を取りやすくなった。


 私の身体を蹂躙していた尻尾と推測できるものの動きが止まった。

 最後にしてやられた。なかなかの強さだった。


〔条件を満たしました。《龍纏・軟》が解放されます〕


 久しぶりにこの声を聞く。

 この龍の死を告げる声。


 長かった。惜しかったよ軟龍。

 いや、――軟龍モラスシルリィス。

 私が美味しくいただくから。


 それにしても、身体がボロボロすぎる。

 龍纏が続いてる間に回復しなければまずいか。

 なんとかまだ動いてはくれるよう。


 剣を間に挟んで吸収する。

 この剣は本来、吸収の補助のために作られたのだから、これが正しい使い方。

 吸収とともに僅かずつだが回復していく。これでなんとか帰れるかな?


 ***


 ようやく強制スリープモードが解けた私。

 眠い目を擦りながら、隣に白い人がいないのを確認。

 『空間把握』を発動した。


 すると、この建物の中にある反応を一つ見つける。

 ……この位置は、食堂とかそこらへんじゃあない。えっと、どこだっけ?


 ともかく、私はそこへ向かった。

 なんかもう、向かうという選択肢以外なかったっぽい。

 すごい怒ってるよ?

 しかし、そこで衝撃の光景を目にしてしまった。


 白い人が血だらけで倒れていたのだ。

 終わった。長かった。戦闘、辛い。というか、意味わからなくなってないですかね?

 この十話が今までの中で一番辛かったです。


 次回の十話、絶対今回よりも辛い気がする……絶望的だ……。

 次回、看病回。

 頑張っていきたいです。

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