そうだ、龍を倒そう
花束を添える。その後に目を閉じ、黙祷を捧げる。
この城のある一室。
隠し通路からのみ辿り着くことができる特別な部屋。
いや、隠していのは特別だからなんかじゃない。ただ単に後ろ暗かっただけ。
ここに花を添えるのは、もう四回目になった。
ここに来る度に、父様やみんなのことを思い出してしまい悲しみを覚える。
ここに来る度に、父様やみんなのことについての記憶が薄れてきていることを実感し、切なさが身に染みてくる。
私がこの部屋で目を覚ましたとき。父様やみんながいなくなったとき。
あれからもうこんなに時間がたってしまった。
時が過ぎるのは早いと実感できる。
床に描かれた幾何学模様へと手を触れる。
これのおかげで今の私がある。
これのせいで今の私がある。
これを作ったのは誰なのか。
見当もつかないが、一つだけ言えることがある。それは父様だけでは無理ということ。
共犯者がいたということ。
果たしてそれは誰なのか。そもそもそれは、人だったのか。
私にとっては重要なこと。
けれども、今の私にはさして重要なことではない。
だってなぜなら、やりたいことができたから。
そう、やりたいこと。
やらなくてはならないことではなく、やりたいこと。
私と同じような境遇の子を見つけた。
出会いは偶然。いや、よく考えると必然だったかもしれない。
私とその子は、あのとき会わずともいずれは会うことが決まっていた。
やはりこれは必然と言うべきではなかろうか。
しかしそう言えど、同じようなであって、同じ境遇ではない。
そもそも、あの子の過去については全く聞けていない。
今日は少し、あの子に関するなにかがあったが、私はそこに入れなかった。
壁を感じてしまった瞬間であった。
それでも、まだ出会ったばかりだから、これから少しずつでも歩み寄っていけばいい。
いずれは私の特異な出自も、嘘偽りなく、隠し立てなく、余すとこなく伝えられればいいと思う。
今はあの子との平穏を守るため、それを崩す不安要素。私はそれを潰す、それだけのことに全力をそそぐつもりでいる。
それが私のやりたいこと。
これから少し忙しくなるかもしれない。
なによりも、あの子に気取られないようにしなくては。
いざとなったら、力尽くで抑えられる自信はあるが、やりたくない。
それが原因で信用にヒビが入ったら目も当てられない。
幸いに、いま、あの子は寝ている。
少し心配だけど、ここが襲われることはないだろうし、その間に情報収集をしておくべきか。
時間を無駄にはできない。
もうここに来て感慨に浸っている暇はないのかもしれない。
私たちが平穏を手に入れたとき、報告として、またここに来よう。
その時は、あの子も一緒に。
私はまだ見ぬ未来に思い馳せながら、この秘密の部屋を後にした。
***
私は目を開ける。
いつもの通りベッドの上だ。
もう何回目だろ。
三回目か。
私、倒れすぎだよ。
ということで、今回の白い人の体勢。
えっと、なんか、私を抱き締めてる。
今回は看病的な感じじゃないのね。
完全に抱き枕にされてしまっているよ。
白い人の様子を見るに、快眠をお届けできているようだ。
ちなみに言うと、私の服はお出かけ仕様からパジャマ仕様に変わっている。
白い人も同様で、この服も色違いのお揃いである。
気を失ってる間に白い人が着替えさせてくれたわけだ。
ギュッとされていて動けない。
バタバタと動くが全くの無意味。
うー。これ以上は白い人が起きてしまうかもしれない。
私は諦めてまた寝ることにした。
というか白い人、私がバタバタしたことに気づいてるよな?
龍って、完全に周囲を把握できなくなるなんてことは、意識を失ったとき以外ではないはずだ。
そもそも、寝なくたって活動自体はできるし。
種属みたいなのが龍種だったときからそうなんだし、私だけってことはないはず。
私はなんかよくわからんが、白い人へと今以上に密着した。
もうこれ以上はないってくらい。
なんでだろうな。
彼女の影響かな。
私はなんか甘えたがりになってしまったようだ。
きっとおそらく、彼女だれかに甘えたかったんだ。
そして、私があるていど欲望に忠実な性格で……こうなったと。
そんなところか。
そこから私は活動を休止する。
はあ、これくらいしかできなかったからね。
さてと、じゃあ。
今日、襲撃をされたわけだが、あの無表情な女性に心当たりはない。
彼女のことを知っているようだったが、どういう役職なのだろう。
所長ってやつに問い合わせているようだったから、あの女性の上がいることは確かだ。
いや、でも。
態度が上を相手にするようには思えないほど無礼だったよな?
となると、その所長ってやつとは所属しているところが違うとか。
でもそれだと。
あの女性は事情に疎かったからか、所長ってやつを責め立てていた。
そこら辺がわからなくなる。
あの責め立て方から、お互いに物資は共有しているのだろうし、それで所属している場所が違うというのは少し違和感がある。
もし仮に共有してなかったとすると、あの女性はその所長ってやつの事情に詳しすぎではないか?
話していた素材は龍特効。
そして話題に昇っていた械龍。
私の想像からいけば、龍は人間にはどうしようもない。
まさしく天災のような生き物のはずだ。
近づいただけて町一つが放棄される。
抵抗を試みもしたが、早々に見切りをつけて退散するくらい。
あれは駄目で元々な精神だったんじゃないかと思う。
さらに彼女のステータスを思い出す。
あれが人間の最大。
狼ちゃんのステータスに激しく劣っていた。
あれで最大なんだから、普通の人間はもっと低いはすだ。
それこそ、武器を用いなければ龍に傷一つつけられないくらい弱い気がする。
もっともその武器も、特別なものでないと駄目だろう。
今まで闘ってきた強敵たち。
御館様や平氏、年貢のやつを思い出す。
このくらいの強さがあれば、私の今日行った町を一瞬で破壊し尽くすことなど簡単にできるはずだ。
人間にとってやはり龍は脅威。
上位竜でさえ足下には及ばない。というか、上位竜について御館様を基準にして考えていいのだろうか?
あのステータスを超えるものを、私はまだ知らなかった。
あっ、……あとそれに、聖獣には明確な弱点を突いている癖に一進一退の攻防を繰り広げていた。
龍に敵わないはずの人間。
だからこそ、龍特効なんてものがあるのなら、それの有無を明け透けに、部下でない、仲間でないやつに把握させることはないのではないか。
希少なものであればなおさら。
獣龍が彼女に倒されたことを考えると、この龍特効の素材は外交やらなんやらの切り札にもなるんじゃないかと思う。
だって、龍を殺す。つまり、天災を防ぐことができるんだ。
駄目だ。何か嫌な予感がする。
械龍。この龍が話題に昇っていた。
龍特効の素材がなくなるほどにまで使われた。
なのにこの龍、まだ生きている。
ただ殺さずに撃退しただけっていうならいいが、或いは……。
私が所長ってやつを倒す。
その最大の障壁になってしまうのではなかろうか。
そのときのために、私は力をつけておきたい。
レベル上げをする?
それかカルマを増やして新たに罪科系スキルをゲットするか。
龍を倒して龍纏を増やすのもありか。
残ってる龍は……。
穢龍、なんか厄介ごとに巻き込まれそうで嫌だ。
霊龍、これは白い人だから駄目。
械龍、力をつけるのはこいつのためだからなし。
祖龍、なんか嫌な予感がする。
消去法的に残ってしまった龍。
それこそが軟龍。
倒すんだったらこいつだな。
でも、どうやって居場所を特定するんだ?
カルマはなんか増えないし、地道にレベル上げしかないよね。
これからもなかなか更新が滞るかもしれません。
本当にすみません。