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帰り道だよ

「ミツホちゃん。詳しく話してもらえると嬉しいな?」


 肩をガッツリと掴んで、ジッとこちらを見つめながら白い人は私に問いかけて来た。

 いやあ、そんなに見つめられると照れちゃうよ?

 私は頬を赤く染めてモジモジと下を向く。

 美人パワーはすごい。


「まだ話してもらえないんだ……。なら、私を信頼できると思ったとき、絶対に話してね?」


 そう言って白い人は私の肩から手を離し、その手で私の手を握る。


 正直な話。

 部屋を出たときの何かに見られていた件。

 白い人は心当たりがあって私にそれを伝えていない。

 それなのに、こちらへ話せと言ってくるのには、腹が立ってしまうのもいたしかたないと思うのだ。


 わかってるさ。わかってはいるんだ。

 白い人は私を信頼していないわけではない。信頼していないから話していないわけではないのだろう。


 この人は、全部自分で背負い込もうとしている。

 私のことも、自分のことのように、いや、むしろそれ以上に。

 だからそこにこれ以上、私の……いや、彼女の問題も積み上げるわけにはいかないのだ。


 そもそも、今回の一件は彼女に関係することであり、私が引き継ぐべきことだ。

 この人に一ミリ、いや、一マイクロ、一ナノたりとも譲ってあげる義理はない。

 信頼以前の問題だ。


 私とこの白い人との溝。

 これは当分、埋まることはないのだろう。


「さあ、じゃあ。買い物の続きをしようか。今度は手を離さないからね」


 うん、あれは……。

 【搾取】は定期的に使っていかないと禁断症状が……。

 私にどうやって生きていけと。

 もうこれは、白い人に【搾取】をけしかけるしか方法がないかもしれない。


 いや、うん。

 もしそんなことしたら、私がなにされるかわかんないか。

 白い人は今のところ私より強いから抵抗はできない。

 私はそれをわかっているんだ。


「うーん。これ、どうしようか?」


 白い人が私の着ていた上着を持ち上げた。

 それを見て何か悩んでいる。

 テキトーに脱ぎ捨てたせいで、汚れてしまったからだろうなあ。


 私はバツの悪そうな顔になる。

 でも、本気出さなきゃあの無表情な人に連れ去られてたと思う。

 ふざけた様子だったが、難なく私の攻撃を躱し続けていたんだ。

 実力はそれなりにあったはず。


 絶対にあれ、やる気なかったよな。

 本気出してなかったと思う。

 真面目に襲われたらどうなるか、恐ろしいことだ。

 まあ、私が簡単に負けるとも思わないけどね。


「もうこれ、しまっちゃおうか」


 白い人の結論が出たようだ。

 私の上着はしまわれた。

 えっ、それでいいの?


 白い人はその後もなにかもぞもぞと動く。

 あ、上着脱いだ。

 なんでよ。


 あ、そうか。

 私をつけ狙ってたやつらは無表情な人に消された。

 反応が綺麗さっぱりなくなっていたから、まあ、そういうことだろう。


 私だけじゃなくて白い人を狙ってたやつもいたんじゃないか?

 白い人が遅くなったのはそいつらを片付けていたせいか。

 つまり、私たちを襲撃するようなやつらは全滅したというわけだ。


 そうか、これでもう顔を隠す必要もなくなったわけか。

 本当にこれでいいのかよ。


 なんかこう、裏組織みたいなものが襲撃してくるイベントとかないかな。

 【搾取】で吸収できたのが一人だけでは、やっぱり満足からは程遠い。


 ぐぬぬ。

 かくなる上は一般住民にすれ違いアタックをしかける。そのくらいしか思いつかない。

 吸収量は気づかれない程度に調整すればいいか。

 完璧な作戦だ。


 問題があるとすれば、私の手が白い人に握られているということ。

 アタックしに行くとしても大して動き回れない。

 駄目じゃん。

 どこが完璧だったというんだ。


 私たちは手を繋ぎながら薄暗い路地を出る。

 ここまで来れば人通りがあるのだが、なんと言うか、本当に上着いらなかっただろうか。


 だって、めっちゃ見られてるんだもん。

 目線がすごいくる。

 思えば、けっこう奇抜なデザインの服を着ていたんだった。

 私の精神にダメージが入るよ。


 白い人は……平気みたいだ。

 周りの目線を一切気にしていない。

 私が気にしすぎているだけなのか……!?

 そうではない。そうではないと信じたい。


 私はソワソワしながら白い人に手を引かれる。顔色も心なしか悪くなっている気がする。


「大丈夫?」


 私の異変に気がついた白い人から声がかけられた。

 私は大丈夫だと首を縦にふる。

 このくらいまだ平気だろう。

 まあ、上着があれば安心できるようになるのだろうけれど。


 こうなったのは多分、彼女の性格によるものだと思う。

 人の目を気にする性格、とでも言おうか。

 それが私にも継承されてしまった。

 そんなところかな?


 私たちは人の目に晒されながら、道を進んでいく。

 白い人は、具合の優れない私をしきりにこちらへと気をかけている。

 ただし、原因がわからないままでだ。

 なんでわからないんだよ!?


 そんな白い人を安心させるべく、私は微笑みかけたのだ。

 まあ、うん。具合良くないから弱々しい感じになっちゃったけど。

 ……これで安心はできないんじゃないかな?


「もう、今日は帰っちゃおう」


 案の定、白い人は私への心配の度合いを強めたようだ。

 帰宅を提案してくる。

 その提案に、私は首を横に振った。


「心配ならいらないよ? 必要最低限のものは買えたから大丈夫。もう帰ったって、大した問題じゃないよ」


 白い人は私の前にまわって、屈みこんで目線を合わせて、ニコッと笑いながらそう言いきかせてきた。

 その笑顔の破壊力といったらなんたるやいなや。私が何を言ったって、もはや意味はないことがおのずと察せられるほどだった。


 私はこれ以上の抵抗は無駄だと悟らされ渋々、不承不承とばかりに首を縦にふった。

 どうせ、なんか負けた気がするから帰りたくなかっただけだ。

 私なんてそんなもん。


「じゃあ、帰ろうか」


 白い人は進路を変える。

 手を引かれる私はそれに従う。

 でも帰ると言っても人の目は変わらない。

 意地を張る必要もなくなったから、私は人の目を避けるために試行錯誤をし始めた。


「そんなにくっつくと、動きにくいよ?」


 どうしたかというと、白い人を盾にしようとしたのだ。

 その結果、動きにくいと言われてしまった。

 白い人の表情を見るにそれほど迷惑そうではない。

 だからこのままで進んで行く。


 ……おかげで帰り道にかかる時間が長くなってしまったことは言うまでもないだろう。

 そのぶん長く人の目に晒され続けた。

 意味はあったんだろうか。


 ということで、摩訶不思議な扉が開けられた。

 やっぱり、外からは考えられないくらい広いなあ。

 ようやく帰ってきたんだ。

 ほんの数時間だったというのに、もうかなり疲れた。


「えっ、危ないっ!?」


 消耗した私はふらっとしてしまった。

 幸いに床に倒れる前に白い人が抱き上げてくれた。

 ……倒れてばっかりだな私。

 おかげさまでブックマークが百を越えたようです。

 ……まさかここまでこれるとは。

 これからも頑張っていきたいです。

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